第36話 魔道具技師
地面すら赤く歪ませるほどの熱が、リリアの全身を容易く包み込む。
先ほどまで周囲を満たしていたはずの炎の蛇や鳥の姿はもう無い。
終わりを確信した男は、自らの発した炎が収まることを待たずに体を反転させる。
男は銀の髪に銀の魔道装具を身に纏った少女が、居たはずの場所に背を向け歩き始める。
背を焦がす灼熱が、空間さえも焦がしていく音の無い世界を、一人歩いていく。
もはや役目を終えた魔道具を腕から外そうとした時、男の頬を涼やかな風が撫でる。
「ん?」
振り返った理由などあまり無い。
何となく違和感を感じた、ただそれだけの理由しかない。
振り返った男の視界には、まだ魔力の尽きない炎が轟々と燃え盛り、名も知らぬ少女を焦がし続けている。
「はぁ?!」
振り返った男の視界に映ったのは、焼けた床石と砕けた瓦礫と銀髪の少女だった。
「なんで、お前・・・!?」
目の前の現実を呑み込めず、口を開けて固まる男をよそに、巨大な炎の塊はその姿を半分程にまで縮めている。
「なにがどうなっていやがる・・・!」
独り言のような男の問いかけに、リリアが答える。
「魔法とは、魔力を特定の工程を踏んで現象として出力したものです」
その知識は、ファンダリア魔法学園に限らず魔法を扱う者なら、誰しもが知っているような当たり前の知識でしかない。
「それとこれと何の関係がッ・・・・・・」
「この炎にしても、木を燃やしてできた炎と、一から魔力で生成された炎は、似ているようで全くの別物なんです」
炎はまだ小さく弱くなっていく。
「魔力を現象に変換できるのなら、“その逆もできる”と思いませんか?」
リリアの言葉に男の思考が停止する。
「なにを・・・言ってるんだお前は・・・そんなこと出来るわけ・・・・・・」
「できますよ。魔道具内部に搭載された回路を寸分違わず把握して、そこに注がれる魔力量を正確に当てて、魔力集積装置を中継すれば・・・・・・」
魔道具に詳しくない男でも理解できる。
“そんなことは不可能だと”
量産品の魔道具ですら、内部の回路は僅かにズレる。
それをオーダー品で言い当てるなんて、そんなことーーーーーー
「製作者でもなければ不可能ですか?」
「ーーーーーーッ!」
真っ直ぐ向けられる青い瞳に、男が一瞬たじろぐ。
「私、最初に言いませんでしたっけ? 魔道具技師なんですよ私ーーーーーー」
取るに足らないと聞き捨てた言葉が、今更ながらに男の脳内を駆け巡る。
「その魔道具の制作者は、私です」
「バカなッ! こんなガキが『ノーネーム』だと!?」
膨大な量の炎が、白銀の両脚に吸い込まれていく。
「エリスさんに教えて貰ったお店で、あの独特な燃え跡を見た時から考えていたんです。もしも私の作った魔道具が今人を傷つけているのなら、私が解決するべきだって・・・・・・」
全ての炎を飲み干した白銀の装具が、ほんのりと赤みを帯びる。
「その魔道具は規定値を超える魔力が注がれた場合、安全のためにオーバーヒートするように設計してあります。そして貴方なら最後の一撃はオーバーヒートまで魔力を込めた最大の炎を出すと思ったんです」
立ち上がったリリアの両脚に炎が灯る。
「よかったです。上手くいって」
どこか微笑むようなリリアの表情に、男の背筋を冷たいものが伝う。
「ハハハ、じゃあなにか? 俺が最大出力で打ってなければ、アンタは今頃消し炭になってたってわけか?」
男は、まだ魔力の通わない右腕の魔道具をチラリと見る。
「狂ってるな、アンタ」
男はどこか満足そうに笑う。
「返してもらいます。貴方達が奪ったもの全てッ!」
白銀の装具から溢れた魔力が、世界を真紅に染めあげる。
身を焦がすほどの炎を纏ったリリアは、痛む全身に鞭打ち最大の跳躍をする。
寸前で光を取り戻した、男の魔道具が反応するよりも速く、リリアの脚が男へと命中する。
木の葉のように吹き飛ぶ男が、壁に激突し崩れ落ちたとほぼ同時に、広場への入り口から見知った人影が飛び込んできた。
「リリア、無事か!?」
凛と澄んだ声を聞きながら、リリアの視界は薄くぼやけていく。
崩れ落ちる身体を誰かが柔らかく受け止めてくれたような気がしたけれど、そんなことすら今のリリアに気にかける余裕は残されてはいなかった。
「・・・まだ、私は」
リリアの意識はそこで途切れた。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
さて、最後駆け足になってしまった気もしますが、当初プロットで考えていた内容はここまでになります。この後の後日談も少しは考えていたりしますが、一旦はこれにて魔力ゼロの車椅子少女、魔法学園へ行く。の第1章は完結となります。
第2章のプロットについては絶賛考え中なので、今後ある程度まとまれば書いていきたいなと思っています。
ここまで読んでくださった読者様の中で、もしも少しでも面白いや続きが見たいと思ってくれた人がいれば、☆評価やブックマークなどいただければ、作者のモチベーションも上がるかなと思いますので、是非ともよろしくお願い致します。




