第19話 調査報告
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数日後。
ブゥン。
部屋の魔法陣がぼうっと光った。魔塔から書類が転送されてきた合図だ。
ルティミアは光の中から現れた書類を手に取り、ぱらりとめくった。
カイル・オルセン調査報告書。
調査対象:カイル・オルセン
年齢:二十九歳
堅実かつ有能な実務家として知られる人物。冷静沈着で感情を表に出さず、与えられた職務を完璧にこなすことで信頼を得ている。仕事ぶりは緻密で抜かりがなく、周囲からの評価は極めて高い。既婚。愛妻家であるという評判で、私生活において目立ったトラブルの記録はない。
そして経歴の最後に、こう記されていた。
帝国宰相、アルセン・リード公爵の秘書。
ルティミアの目が、その一行で止まった。
アルセン・リード。
確定だ。こいつが私の薬を怪しんで調べている。記憶障害と関連付けて。
「宰相かぁ……」
ルティミアは書類を持ったまま、ぼすんとベッドへダイブした。柔らかなシーツに顔を半分埋めながら、ぼんやりと天井を見上げる。
「とりあえず今は、薬の製作者が私だとまでは辿り着けてないと思うけど」
先日、魔塔に届いた追想の結晶の調査依頼。あれには「依頼品は当魔塔の関与する魔法薬ではなく、術式が特殊かつ高度なため成分の分析は不可能」と、いかいも素っ気なく突き返しておいた。自分で作ったものを「分析不可能」と返すのは、なんとも妙な気分だったけれど。
「副作用か……」
なぜ、そんな副作用が今更出たのか。不思議でならなかった。
使っている材料は同じ。魔力を注ぐ術式も同じ。魔法薬の品質が不安定になることなど、ほとんど有り得ない。少なくとも、同じ人物が同じように魔力を注ぐ限りは。
「アルセン・リード……」
ルティミアはごろりと寝返りを打ち、ベッドのサイドボードの引き出しを開けた。中には雑誌がぎっしり詰まっている。その中から一冊を抜き取った。
ぱらぱら、とページをめくる。
その手が、ぴたりと止まった。
『あのダイアナ嬢、まさかの撃沈!? 帝国の薔薇、今宵もつれない』
社交界の華と名高いダイアナ・フェルモント侯爵令嬢が、先の夜会でリード公爵に自ら声をかけたとの目撃情報が飛び込んできた。美貌と気品で数多の令息を虜にしてきたかの令嬢をもってしても、氷の宰相の心は動かなかった模様。「公爵は終始にこやかでしたが、まるで壁と話しているようだったとか」と、その場に居合わせた令嬢は語る。帝国の薔薇を射止める強者は、果たして現れるのだろうか――
誌面には、男の姿絵が大きく載っていた。
涼しげな緑の瞳。すっと通った鼻筋。隙のない、整いすぎた顔立ち。
ルティミアはその姿絵をじっと見つめた。
「なーんか、お高くとまってそうな嫌味な男な気もするな……」
ぽつりと呟いた。




