【商業化決定記念】あの時の出会い
お父様に宮殿へ連れて行ってもらえるとなった時、私はもう大喜びだった。
(元の世界で宮殿を見るためにヨーロッパへ旅行するなら、時間とお金がものすごく必要になる。でもこの世界では、飛行機に乗る必要もなく、何時間ものフライトもなく、高い旅行代金なくして宮殿を見ることができるのだ! しかも許可されていれば宮殿の中に入ることができる)
こうして宮殿へ向かったが、内部をウロウロすることは……できない。でも……。
「宮殿の中は部屋数も多いし、鍵がかかっている部屋も多い。でも庭園なら自由に散策しても大丈夫だよ。庭園の一角は有料観覧もできるからね。お父さんは一時間半程で戻ってくる。ポメリーはマリアンヌと散歩して待っていられるかな?」
「分かりました、お父様。マリアンヌとお父様が戻るのを待つわ!」
こう父親と約束し、乳母のマリアンヌとしばらくは庭園の中を散策していたが……。
「お嬢様、少し休憩しませんか?」
「……うん、分かったわ」
ベンチに腰掛けて休憩になるが、私は物足りない。
(前世でもそうだったのだけど、海や湖は眺めるだけでも満足できる。泳ぎが得意というわけでもないし、ぼーっと眺めるだけでも構わない。でも庭園は……小道があり、その向こうに花壇や噴水もあり、いろいろ見所がある。そしてそこには泳いで行く必要はなく、歩いて行けるのだ)
でもマリアンヌは歩き疲れたようだし、無理に連れ歩くのも申し訳ない。
「ねぇ、マリアンヌ」
「どうしました、お嬢様?」
「私、もう少し庭園を見て回っていい? ちゃんと時間までに戻るから」
「え、でもお嬢様、迷子になったら困ります!」
「大丈夫よ。ちゃんと戻ってくるから。これまでマリアンヌとの約束、破ったこと、ないでしょう?」
「お嬢様……」
しばしの問答の後、マリアンヌが折れ、遠くまで行かないこと、十二時の鐘が鳴ったら戻ることなどを約束して、自由行動を許された。
ご機嫌で散策し、チューリップやネモフィラの花壇を眺め、薔薇のアーチの庭園を通り抜け、宮殿の広々とした庭園を満喫したが……。
「あ、迷路庭園だわ!」
広大な敷地を持つ貴族の庭園でお馴染みの迷路庭園が宮殿にもあったのだ。
「あれは……」
迷路庭園と通常の庭園を区切る塀の上に美少年が困り切った顔でいるではないですか。
「どうしたのですか?」と声を掛けると、アイスブルーの髪に紺碧色の瞳の美少年は「塀の上にいる猫を助けようとして、この塀によじ登りました。登る時はそんなに高さを感じなかったのですが……。いざ降りるとなったら……。高さがあり、怖くて……」と瞳を潤ませる。
「猫はどうしたのですか?」
「猫は僕が抱き上げると、ジャンプして隣の木の枝に乗り移り、あっという間に木から降りて……どこかに行ってしまいました……」
確かに隣に木があるが、そちらは猫がジャンプして乗り移るなら問題ないだろうが、人間は……。木の枝がボキッと折れたら植え込みに落ちて怪我をするかもしれない。よって猫と同じ方法でこちらへ戻るのは却下だろう。
(というか、塀はそこまで高くない気がする)
自分の想像より高く感じているだけで、私でもジャンプして降りられそうな気がするのだ。
「そんなに高くないですよ。そのままジャンプして降りられると思います。私がそちらへ行き、お手本を見せますか?」
「えっ、そんなこと、レディにしてもらうわけには行きません!」
そこで美少年はその端正な顔をキリッとさせると、「僕、降ります!」と宣言。有言実行でジャンプしてそのまま塀から地面に着地。
「……全然高くありませんでした」
「上から下を眺めると、高さを感じやすいと思います。とりあえず良かったですね!」
「ありがとうございます……!」
そこで美少年はこんな提案をする。
「あちらに蓮池があります。もうご覧になりましたか?」
「いえ、まだです。蓮池があるのですね。……花は咲いているのかしら?」
「お昼を過ぎると閉じてしまいます。でも今ならまだ咲いていると思いますよ」
「そうなのですね。見てみたいです!」
「では僕が案内します!」
美少年の案内で蓮池に向かうと、大きな葉から淡いピンク色の花が顔を覗かせている。
「こちらのベンチに座って眺めるといいですよ」
二人で並んで腰かけ、蓮の花を眺めることになった。
「蓮の花は咲く時に『ポン』と音がすると言われています」
「あ、それは俗説です。蓮の花は池で咲きますよね? 近くにいる蛙が池に飛び込む音と偶然重なり、蓮の花が咲く時に音がすると勘違いされたと言われています」
「え、そうなのですか……!」
驚く美少年が眼福なので、蓮の花で知っていることを次々と話してしまう。例えば蓮は、花以外は全部食べられることや、約二千年前の種が発芽して花を咲かせたことがあることなどなどだ。
「すごいです。君は……とても博識なのですね」
眩しそうに美少年が私を見るので、どや顔になりそうになる。
でもそこで鐘の音が鳴り、お開きの時間となってしまう。
「私、もう行かないと。お父様と待ち合わせをしているのです」
「そうなのですね。残念です。まだ話し足りないです。あの、良かったらお名前を教えてください!」
「私はポメリー・アン・ラウンズベリーです」
「ラウンズベリー伯爵のお嬢さんなのですね! 僕はジョシュア・フレデリック・ローレンツィアです!」
「ローレンツィア……って、えっ! まさか王太子殿下、ですか!?」
「はい、そうです!」
もう「げっ」と言いそうになるのを呑み込み、「お、お会いできて光栄でした、殿下! それでは御機嫌よう、さようなら!」と逃げ去ろうとすると……
「待ってください」とジョシュアことジョシュが私の手首を軽く掴む。
「僕、ラウンズベリー伯爵令嬢と仲良くなりたいです! あなたに一目惚れしました」
この世界のヒーローであるジョシュからまさかの言葉を聞き、私は仰天することになる。
(違う、間違っていますよ、殿下! あなたが恋に落ちるのはモブの私ではなく、ヒロインの聖女様!)
そこで私は告げることになる。
「殿下の運命の相手は二十歳の時に現れます。それが運命の出会いです。そしてその相手は私ではありません!」
「どうしてそんなことが分かるのですか……?」
「私はタロットカードで自分の運命の相手を占ってもらったことがありますが、相手は王族とは出ていませんから!」
「……そんな……!」
美少年の泣きそうな顔は眼福……ではない。何だか可哀想に思えてしまう。
(ジョシュが泣かず、それでも諦めるような妙案はないかしら……?)
そこで私は思いつく。
「もしも殿下の運命の女性が現れた後に、もう一度私と会えたら……。それでも殿下が私を好きだったら、その時は結婚しましょう!」
ジョシュはヒロインである聖女と恋に落ちる運命なのだ。それがこの世界の大正解。そこは絶対にブレないはず。なおかつ、ヒロインとジョシュが出会うトリガーは私なのだ。モブ令嬢の私が死に、聖女召喚となるのだから!
ジョシュとヒロインと私が存在する世界線など実現しない。そんなあり得ない未来の話をして、私はジョシュから離れることにした。
「……分かりました。僕は……ラウンズベリー伯爵令嬢をずっと好きでいます」
(ジョシュは何てピュアなのかしら)
思わず胸が熱くなるが……。
「ポメリー!」
「お父様!」
お父様とマリアンヌがこちらへと向かってくるのを見て、私は慌てて駆け出す。
「あっ」
「ポメリー!」
勢いよく駆け出したが、バランスを崩し、私は思いっきり転倒し――
「ポメリー」「お嬢様」
「うわーん!」
泣きじゃくる私を遠くから眺める美少年がいる。
(泣いている令嬢をあんな風にじっと見るなんて! 失礼な令息だわ!)
私は顔を見られまいとお父様の胸にぎゅっと抱きついた。
お読みいただき、ありがとうございます!
本作ですが皆様の応援のおかげで商業化が決定しました~
応援いただき、心から感謝です(≧▽≦)
詳細は情報解禁後に随時お知らせさせていただきます!
発売に向け、頑張ります~☆彡


















