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火災の翌日、宮殿に戻り、国王夫妻とも対面。無事を喜ばれた。
「ジョシュもわたしに報告した後、仮眠に入ったが、想像以上に元気そうだった。そしてポメリー嬢も元気だ。だがいち早く宮殿に戻って来たネル皇女殿下が……」
国王陛下によると、ネル皇女は宮殿に戻ってから滞在中の客間から出て来ず、食事もそこでとっているのだという。
「体に怪我はないのだが、螺旋階段から落ちたことが余程ショックだったようじゃ」
それを聞いた私はネル皇女のお見舞いを申し出た。皇女からいろいろマウントをとられたが、あの場にいた者として彼女が心配だったからだ。
朝に連絡をした場合、お断りでも普通ならお昼前、遅くともお昼の後あたりには返事が来るだろう――そう思い、一旦そのことは置いておく。そして先に宮殿へ戻り、あの場に現れた悪党のことなど報告してくれていた侍女のエミリーと護衛騎士のランスロット卿と会うことにした。
「お嬢様……!」
「エミリー!」
なんだかんだでエミリーとは薔薇熱の時を含め、苦楽を共にしている。特にエミリーは薔薇熱の原因となる新雪糖を購入した責任を感じ、一時は落ち込んでいた。だが元来は明るい性格。やがて元気を取り戻し、頑張ってくれていたのに、今回の件が起きた。
「おそばにいたのに何の役にも立てず、申し訳ありませんでした」
「仕方ないわ。あんな状況ではどうにもならないもの。どちらかというとエミリーとランスロット卿は巻き込まれた方だと思うわ」
「ですが攫うなら私を攫えばよかったのに……!」
エミリーが悔しそうにそう言ったかと思えば、ランスロット卿はもっと落ち込む。
「自分はラウンズベリー侯爵令嬢の護衛騎士なのに、ネル皇女殿下の騒動につい気を取られ……。油断した隙にまさかの失態。申し訳ない気持ちでいっぱいです。贖罪のために修道院に入ることも考えているのですが……」
これには「待って、ランスロット卿!」と宥めることになる。そして誰にでも失敗はあること、しかも今回は敵が策士であり、かつネル皇女の事故と重なっていたことで、不可避な出来事だったのだ。仕方ないと励ますことになった。
そんなこんなで時間は刻々と流れ、「そういえば」と気づくことになるのはネル皇女の件だ。
「そういえばネル皇女殿下から返事は……?」
「来ていないですね……」
侍女の返事を聞いた私は驚きを隠せない。
(もし訪問が不要なら、それっぽい理由をつけ、お断りすれば済むこと。つまりお見舞い不要でも、返事はするのが礼儀でもある。それがないのは……)
その一方で、仮眠を終えたジョシュが王都警備隊に向かうと聞き、ならばその前にジョシュに会いに行こうかと思ったら、そこでようやく「お見舞いを受ける」の返事がネル皇女から来た。
(ジョシュに会いたいけど、我慢ね)
ちょうど明るいピンクのドレスに着替えていたので、返事を伝えに来たネル皇女の侍女と共に皇女の滞在する客間に向かうと……。
ラベンダー色のドレスを着たネル皇女は前室で私を迎えたが、いつものツンと澄ました様子はない。
(これは相当こたえているようね)
そこで「怖い思いをされましたよね。もう王都の散策はされませんか?」と尋ねると……。
「わ、わたくしより、ラウンズベリー侯爵令嬢の方が大変な目に……どうしてわたくしの心配などされるのですか!?」
何というか逆ギレされてしまい、これには驚くしかない。
「私は……確かに火災に巻き込まれましたが、この通り元気ですから」
「物置部屋に閉じ込められて、火災が起きて……なんでそんなに落ち着いていられるのかしら!?」
「皇女殿下!」
流石にネル皇女の言い方は酷いと思ったのか、侍女が彼女を止める。
「離して! わたくしは……」
「皇女殿下!」
いつも大人しく控えている侍女がキツく言うので、ネル皇女は黙り込む。
「せっかくお見舞いに来ていただきましたが、皇女殿下はまだ気持ちが落ち着いていません。今日のところはこれでお帰りいただけないでしょうか」
侍女からそう言われてしまうと、退散するしかない。
しょんぼりして部屋に戻ると、方々から届いたお見舞いの手紙の山を受け取ることになった。
「これは手分けして御礼の手紙を書かないといけないわね。エミリー……あ、エミリーはジョシュたちと一緒に王都警備隊の本部へ向かったのよね」
「はい、その通りでございます。護衛騎士のランスロット卿も殿下と共に王都警備隊の本部へ行きました」
ジョシュは前世で言うところの面通しのようなものを、あの日私と同じく襲撃された侍女のエミリーと護衛騎士のランスロット卿で行おうとしていた。つまりは昨日の火事の現場で逮捕された者のうち、正当な理由であの場にいたことが証明できない怪しい者たちを集め、襲撃された際に見た顔がいるのか、二人に確認するというのだ。
(ジョシュは私が薔薇熱の時に公衆衛生学や疫学の基本とも言える行動を宮廷医ラスクに指示していた。そして今回は面通しのような手法を捜査で採用している。本当に頭がよく、切れ者なのだわ、ジョシュは……!)
それでいて私とのワンナイトラブには応じてしまったところから、恋愛以外は完璧だけど、恋愛については超初心者というギャップ萌えがあり、私としてはたまらない。
(私だって恋愛マスターというわけではないけれど、この世界に比べたら恋愛の知識はある。何せその手の情報は、前世ではネットに溢れていたわけで……)
そんなことを思いながら、手紙を読み、ティータイムを過ごしていると、時間はあっという間に流れていく。
「お嬢様、戻りました!」
エミリーとランスロット卿が戻り、面通しの件を尋ねると……。
「それが私は本当にいきなり背後からだったので、顔を……まったく見ていませんでした」
「自分は一瞬でしたが片方の男の顔を見ており、覚えていたのですが……今回見た中にその男の顔はありませんでした」
この二人の言葉に、私は思わず聞き返していた。
「あの場で襲われる前に、二人組の怪しい男性を見なかった? 肉付きがよくて、筋肉もありそうで、町人というより、傭兵みたいな男性たちよ。鍛えた体は目立つわよね? しかも男性二人組よ」
するとエミリーとランスロット卿は首を傾げる。
「肉付きがよくて、筋肉もありそうな二人組を怪しいと感じたのですか、お嬢様は?」とエミリーが尋ねれば、ランスロット卿は「荷運びをする労働者や農夫、大工や石工、鍛冶職人なんかも肉付きがよく筋肉質ですよ、お嬢様」と微笑む。
そこで私は「!」となる。
(前世の感覚でマッチョな男性二人組=怪しいと感じてしまった。でもここではマッチョな男性=労働者のイメージなのね……! たとえ二人でいても怪しくないし、町人の装いでマッチョでも不自然ではなかった)
温室で私は怪しい二人組の男性が二組いると感じたが、それが実はかなり特別だったのだと理解する。
(でもそうよね。冷静に考えたら怪しい者たちがいることにジョシュやランスロット卿、他の護衛騎士が気づかないわけがない。あの時、怪しいと思った時点で動けたのは私だけだった……。そう思うとせめてすぐそばにいるランスロット卿に一声かけておけばよかったのだわ。たとえランスロット卿が「怪しい? ただの労働者では……」と感じたとしても警戒心は高まる。そうしたら襲撃を防げたかもしれないし、私も攫われず、温室は燃え落ちないで済んだかもしれない……)
百年以上の歴史を持つ温室のみならず、植物園自体にもダメージが出てしまった火災を防げたかもしれないと思うと悔しいし、自分が不甲斐なく感じてしまうが――。
(待って。諦めるのは早いわ!)
「私はあの時、みんなと違い、傭兵が町人のふりをして紛れ込んでいる、怪しい……と思ってしまったの。そして四人の男達の顔をざっとではあるけど目撃したわ」
私の言葉にエミリーとランスロット卿がハッとする。
「犯人がいないかどうか、私が確認すればいいと思うの」
お読みいただき、ありがとうございます!
諦めないところはポメリーもジョシュも同じ!
まさにお似合いの二人です♪
気になる続きは明日また公開します~
この後も執筆を続けます!
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