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やらかしてしまったモブ令嬢です  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊7/1発売:商業ノベル&漫画化進行中


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プロローグ

 チュン、チュンと聞こえるスズメの声。

 瞼に感じる明るい陽射し。

 爽やかな朝の目覚め──とばかりに薄目を開けてすぐに違和感を覚える。


(なんだか下腹部が重い……)


 筋肉痛のような鈍痛を感じ「これは何?」と思う。さらに首を少し動かすと、綺麗に波打つ自分のブロンドが見え、次に眩いばかりのアイスブルーの髪が目に飛び込んでくる。


「えっ」


 前髪の下のキリッとした眉毛、閉じられた瞼から伸びる長いまつ毛、鼻は高く、血色のいい唇、肌は見るからに艶がある。


(うひゃあ〜! とんでもない美貌の男子が隣で寝ている!)


 真っ白なシーツに横たわる極上の美形の青年は、大変目の保養になる。


「うん?」


 そこで掛け布の下の彼の素肌の多さに「まさか」という気づきを得てしまう。


 確認のため、自分の体を見て「ひゃあ!」と叫びそうになり、それは何とか呑み込む。


(私、全裸だ……!)


 全裸ではあるが、あまり恥ずかしさを感じないのは、前世と違い、スタイルがいいから!


(胸は大きく、ヒップは上向き、ウエストはくびれている。しかも瞳は碧瞳! ドレス映えする体型で、肌もシルクのよう。まさに美人薄命を地でいくような容姿なのよね)


 なんて自分のことは一旦置いておこう。


(私が全裸ということは、隣で寝ている彼も全裸。それはつまり……)


 甘いキスから始まり、優しく胸に触れられ、その細い指で脇腹をなぞられて──。


 フラッシュバックのように昨晩の仮面舞踏会の記憶がよみがえる。


(あっ、私、冥土の土産の思い出を作れたんだ……!)


 これまで舞踏会で会った令息を誘うも、何人にもお断りされていた。だが最後の最後でこんなハイスペックな男子とワンナイトラブ出来たなんて!


(この後、謎の熱病“薔薇熱”で死亡するモブな伯爵令嬢ですが、これで我が転生人生に悔いなし――!にできたわ!)


 喜びを噛み締め、改めてスヤスヤと眠る極上の美青年を見て「どこかで見たことのある顔のような……」と思う。


 そこで唐突に脳裏に小説の表紙絵が浮かぶ。


(えっ、えっ、えーっ! ヤバい! この顔を知っている……!)


 ◇


 昭和ではなく、令和なんだし、今時社畜なんてあり得ないだろうと思っていた。だけどそんなことはない。表向きはホワイト企業、実態はブラック企業が増えた気がする。


(だって定時退社推奨だけど、業務量変わっていないし! 結局、家で仕事の続きやっているから!)


 そんな私は万年睡眠不足による注意力散漫で交通事故で死亡。そのままあの世に行くのかと思ったら、スマホで読んでいた小説の世界に転生していた。


『召喚聖女は大好きな推しのために全力で頑張ることにしました!~頑張ったら溺愛されるなんて聞いていません~』というやたらタイトル長めのこの小説で、ヒロインの聖女に転生したのか。それとも聖女に意地悪する悪役令嬢に転生したのか。


(よくあるのは悪役令嬢への転生だけど……)


 私が転生したのはモブだった。しかもこの国の王太子が聖女を召喚するきっかけになる、王都で流行する薔薇熱の最初の犠牲者であるモブの伯爵令嬢ポメリー・アン・ラウンズベリーに転生していたのだ……!


(小説では家名しか登場しなかった。しかも転生していたことを思い出したのは、死亡まで残り三ヶ月というタイミング。現在二十歳で、二十年はこの小説の世界で生きていたわけだけど……。私としては、事故死して目覚めたら小説の世界という感覚。そして三ヶ月後には、この世界からも強制退場させられるなんて……!)


 もし私が前世で医療を学んでいたり、医療従事者であったりしたら、この世界でその知識を存分に活用し、薔薇熱を撲滅出来たかもしれない。


(残念なことに私はIT系の企画職。そしてモブなのでチートな設定もない)


 チートも何も、そもそも薔薇熱の最初の犠牲者なのだから、自力で撲滅は難しいのでは? さらに病の原因は不明だから予防もできない。薔薇熱と言われているが、それは熱により頬や唇が赤くなるからであり、薔薇と関係した病ではないと思うけれど……。


(聖女がくればその聖なる力で薔薇熱はこの世界から消える。だが私が発病した時、聖女はこの世界にまだいない……)


 詰んだ。


 前世の記憶が覚醒しても、何の意味もない。熱病感染からの死亡のフラグを折れる気がしない。


 この地にいるから病になるのでは?──とも考えた。では隣国にでも逃げるかと考えたが、そっちはそっちで危険がある。隣国までの長旅には多大なリスクを伴う。


 前世の車のような安全装置がガチガチにあるわけではない馬車での事故は、即死につながることも多い。道中に現れる山賊や盗賊に加え、それこそ慣れない長旅でこの世界では病気になる人も多数いる。


 しかも聖女召喚の理由となるモブが勝手に王都を離れようものなら……何かが起きる気がする。倒木でことごとく道が塞がれるとか。


 実際、一度逃亡を企てたら、馬車の御者は腹を下すわ、車輪の不備が発覚するわ、両親にバレるわで散々な目に遭った。


(無理なんだ。余命三カ月は回避出来ないんだ……)


 モブなんだからそこは見逃してよ、と思ってしまう。だがモブはモブでも物語の進行に大きく関わる。この世界の抑止の力は私が役目を免れようとすることを許してくれないようだ。


 ◇


 逃亡やら予防が出来ないかといろいろ悪あがきして、この世界からの退場まで残り一カ月となった時、私は方針転換する。


 薔薇熱の死亡フラグは回避出来そうもない。


 泣いても笑ってもどうにもならないなら、この運命を受け入れるしかなかった。


(でも悲壮な気持ちで終わりたくない! だってモブなのにスタイルもよく、しかも伯爵令嬢に転生したのだ。それなのにあと一カ月でこの世界から退場、だなんて!)


 しかも未婚のまま、散る。


(前世でも彼氏いない歴年齢で終わっている。そしてここでも同じ……冗談ではない!)


 せっかくなので冥土の土産の思い出として、素敵な貴公子と恋をしたい!――そう思ってしまった。


(本当はドラマチックな出会いから、愛の言葉をささやいてもらい、結ばれる恋愛が理想。でも残り一カ月ではそんなもたもたしていられない。キスはおろか、手をつなぐこともなく病に倒れる可能性もなきにしもあらず)


 こうなったら舞踏会で逆ナンして、何ならお酒の勢いのワンナイトラブに持ち込むしかない──。


 私って肉食系女子だったっけ?と思ってしまうが、背に腹は代えられなかった。このまま喪女で終わるなんて、せっかくのスタイルの良さが、宝の持ち腐れになる!


 こうして私はこの日以降、舞踏会に足を運ぶが……。


「えっ、君はラウンズベリー伯爵令嬢だよね?」

「そうです! でも今晩一緒に過ごしても、誰にも言いません」

「いやぁ……悪い。ラウンズベリー伯爵はうちより家門の力があるから……。君が男爵令嬢だったら……。後から責任取れとなったら困る」

「そんな! そんな後から責任を取れだなんて言いません! そんなことは絶対にしません!」

「君がそうでも、君の両親が許さないと思うよ」


 こんな感じの押し問答ばかりで、この世界の貴族令息はガードが固い。


(このままでは私の冥土の土産の素敵な思い出計画すら、叶わない……)


 せっかくの伯爵令嬢に転生したのだ。しかもなかなかの美人でスタイルもいい。生きたかった。恋だってしたい。でもそれを全部我慢して、舞踏会で慣れないナンパもどきもしているのに!


 失敗の連続に堪忍袋の緒が切れる。


(あまりではないか! この世界に転生させた人? 神? 許さない)


 私が怒り心頭になるのには理由がある。

 貴族令嬢と令息の出会いの場である舞踏会。それは社交シーズンに開催される。だがしかし、間もなくその季節も終わってしまうのだ!


 私は、この年一番たくさんの貴族が集まる宮殿で開催される仮面舞踏会に、最後の望みをかけた。


 ◇


 髪はアップにして繊細な銀細工の髪留めでまとめる。仮面舞踏会に欠かせないハーフマスクの仮面(コロンビーナ)には宝石もあしらわれ、とってもゴージャス。


 ドレスは体のラインが出るマーメイドで、色はミッドナイトブルー。シックで落ち着いているが、素材はシルクなので艶もあり、会場に着くと視線を感じる。


(お願い。本当は死にたくないと泣き叫んで言うのを我慢している。最後に夢を見させてください……!)


お読みいただきありがとうございます!

完結まで執筆済。

最後まで、物語をお楽しみくださいませ☆彡

次話は20時頃公開予定です。


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