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1章 四月の、また初めまして
四月の風は、まだ少し冷たかった。
桜が散りきった後の校庭には、薄ピンクの花びらが地面に貼り付いて、踏まれるたびに茶色く変わっていく。僕はいつもそれを見ながら登校する。誰かが踏みつぶした美しいものの残骸を。
「おはよう」
声をかけたのは、反射だった。
坂口芽依は振り返って、少し首を傾けた。
「……おはよう」
一拍、間があった。その一拍が、僕には長かった。
「あの、えっと」と彼女は続けた。「ごめん、名前……」
「佐々木陸。同じクラスの」
「あ、そっか。ごめんね」
彼女は申し訳なさそうに笑った。その笑い方を、僕は知っていた。三週間前から、ずっと見てきた笑い方だった。
でも彼女は、僕のことを知らなかった。
また。
最初に気づいたのは、出会って四日目のことだ。
図書室で隣に座った。本の話をした。帰り道が同じだとわかった。三十分、並んで歩いた。彼女は笑いながら「また明日ね」と言った。
翌日、声をかけたら「あなた誰?」という顔をされた。
最初は冗談だと思った。次の日も試した。また同じだった。
僕との記憶だけが、一日分ずつ、消えていた。
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