1.男子高校生へのおまじない4
「んー、目をつむって想像しながら話してみるとか?」
「あの子のことを想像ねー」
腕を組み唸る、奥村くん。
「ねー、さっきからあの子あの子って、名前はなに?」
「確か、桜井さんっていう名前だった」
桜井さんって言うのね。苗字からして、清楚なイメージがあるし、それによせた話し方を心がけてあげれば、きっと奥村くんも想像しやすくなるかな。
「それじゃあ、私を桜井さんだと想って、話しかけてみようよ」
「そんなんできっかなー」
「桜井さんを想う気持ちが強いならできるよ」
「余裕だぜ」
チョロいのね、奥村くん。
「それじゃあ、目をつぶって」
「わ、わかった」
覚悟を決めたのか、ためらいながら目を閉じる。
「そしたら、私を桜井さんだと思って、話しかけてみて」
「話しかけてみてって、どうすんだよ」
「そりゃ、奥村くんが考えてよ」
一目惚れした人に話しかけるなんて、したことないし、こればかりは力にはなれない。
「え、えー……だったら……連絡先教えてください!」
「ストレートすぎない?」
私は桜井さんではないけど、きっと彼女は怖がると思う。同じ女性として、これはない。
「え? そう」
「うん。ほぼ初めましての人に、連絡先教えてって、急に言われると怖いよ」
「そ、そうだよな……」
「さ、もう一回集中して」
そして、再び目を閉じる奥村くん。しっかりしてよね。
「よ、よし……お初にお目にかかります。私は奥村優と申します」
「かしこまりすぎ。それはそれで面白いけど」
これが一番ない。異性に話しかけること一回もないけど、それだけは分かる。
「どうすりゃーいんだよー」
「普通に話しかけてよ。普通に。ほら、目つむって」
私は目配せで、彼にしっかりやるよう合図を送った。
「んー……こ、こんにちは」
「ど、どうも」
「あの、この後お時間ありますか?」
「まあ。大丈夫ですけど……」
少し緊張しているのが分かるけど、うんうん、見事な滑り出しね。
「カフェで働いているのを見て、話してみたいなって」
「よ、よろこんで……」
「いける!」
「い、いい感じだったんじゃない?」
桜井さんではないけど、ちょっとドキドキしちゃってた、かも。なんだか恥ずかしい。
「後は本人を目の前に、話しかけられるかどうかだね」
「それなー。それで、どう? おまじない書けそ?」
奥村くんが、まだ赤い顔をしているだろう私を覗き込んできた。
「う、うーん」
「どうなんだよ」
「あ、ちょっと静かにして! もう少しで降りてきそう」
「まじ⁉ が、頑張れ、ゆりか!」
ま、まずい全然降りてくる気がしないんですけど。なんかすごく応援されちゃってるし。
お母さん……お母さんならどんなおまじないを書く? 奥村くんの力になれるおまじない、おまじない……
「ゆりかが思うおまじないでいいよ?」
「え?」
「な、なんか自信がないみたいだけど……きっとゆりかが頑張って考えてくれたおまじないなら、勇気をくれる気がするし」
「わ、わかった……後悔しないでよ?」
初めて他人が、私を肯定した気がして、私は胸が熱くなるのを感じた。そこから私は何かに取りつかれた様に考えた。蝉の声が遠くに聞こえるほどに。
「……よし。これでいいかな」
「んあ? できた?」
私がおまじないを考えているうちに、熱いと言っていた紅茶をすべて飲み干し、手持ち無沙汰に座っていた。
「はい、これ。奥村くんのおまじない」
「おー、これが俺の……」
私は三角くじのように折り曲げた紙を奥村くんに渡した。
「開けてみて」
「うん」
ゆっくりと紙を開く奥村くんの手をじっと見つめていた。頭の中ではまた、お客さんの願いを叶えられないんじゃないかと、嫌な結末を想像してしまい、ただただ怖い。
けど、もう一度、信じたい。




