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雨宮喫茶店のおまじない  作者: 朴坂柳佑


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4/6

1.男子高校生へのおまじない2

 急にはきはきとした声が私の鼓膜を刺激し、肩を跳ねさせ、思わず顔までも上げさせた。


「あ、驚かせちゃってすいません」

「い、いえ大丈夫です……」


 目の前には声の持ち主であろう人がいた。制服が一緒だ。黒髪短髪で、背が高く、美少年と言った感じ。


「そ、それでなんですけど、おまじないってありますか?」

「あー、おまじないです、か」

「そうです。おまじないが欲しくて来たんですけど」


 お客さんは照れているのか、斜めの方向に視線を逸らす。初めて店に来たから緊張しているのかな。


「ないというか、おまじないは書いて渡すものなので」

「あ、そういうことか」


なんか挙動がすこし、アホっぽいというか、天然だな、この人。


「で、でもお母さんが今いないので……」

「お母さん?」

「はい、ここの店長をやってて、おまじないもお母さんが書いて渡しているんです。」

「そうなんですか……どうしよっかなー」


申し訳ないけど、これは仕方のないことなんです。もう少ししたら、帰ってきそうではあるけど。


「あ、でもすぐ戻ってくると思いますけど……」

「ほんとっすか⁉」


最近、忙しそうにしてるお母さんに、メールを送ろうとスマホを見ると、お母さんから連絡が来ていて、すぐには帰って来られないらしい。


「な、なんでこんな時に……」

「どうかしたんですか」

「あ、いえ、すいません。すぐには来ないかもです」

「ほんとっすか……」


分かりやすくしゅんとするじゃん。はてさて、どうしたものかな。


「そ、それじゃあ、お姉さんは書けないんですか⁉」

「わ、私ですか……? 私は……書けないです」


なんてことを言うんだ、この人は。私のおまじないなんて、おの字もないほど、効き目がないっていうのに。


「そっかー、どうしよっかなー」

「また明日でしたら、お母さんもいますし、大丈夫かなと」

「今……必要なんです。」


 え? 今必要なの?


「明日じゃダメなんです! お姉さん! なんとか書けないっすか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 私は書けないんですって!」


 真っ直ぐに見つめてくる彼は、いっさい視線を逸らそうとしてくれない。


「そこをなんとかー!」


 ど、どうしよう。今は私一人だし、誰かに頼ることなんてできない。やばい、変な汗出てきたかも。お、おかあさーん助けてよー!

 そ、そうだ! 後で問い合わせられるように、いろいろ聞いておくか。


「と、とりあえず! お客様の名前を教えてくださいますか?」

「八幡高校一年生の、奥村優です!」


 な、名前だけでいいのにな。というか、やっぱり同じ高校、同い年みたいね。


「鈴木さんですね。それじゃあ、なんでおまじないが必要なのか、聞かせていただけますか?」

「じ、実は、好きな人がいて……」


 ほ、ほうほう。好きな人がいるのね。なかなか面白そうじゃない。


「その子はショッピングモールにあるカフェで働いているんですけど、明日にはそのアルバイトを辞めるらしくて」

「なるほど。それで今日おまじないが必要だったんですね」

「は、はい」

「な、なら彼女のことをどうして好きになったの! こ、こほん。どうして、彼女のことを好きになったんですか?」


 あ、危なかった。お客さんに対して失礼な態度を取るところだった。同い年でも、あくまでお客さんと店員。しっかり接客しなきゃね、私。


「じ、実は一目惚れで……」

「キャー」


 素敵。高校生にしては純粋で、幼い恋の落ち方。けど、それがいい。これは長くなりそうね。紅茶を入れてあげようかな。


「ちょ、明らかテンション変わってますよね?」


 明らかにそうです。


「わ、私のことはいいんです。続けてください」

「わ、わかりました。それでなんですけど、好きになったはいいものの、その、緊張してしまって……まだろくに話したことがないんですよね」

「なるほど、それでおまじないが欲しいと」

「そういうことっす」


 自分の不甲斐なさに落ち込む奥村くん。


「でも、こうやって私とは普通に話せているじゃないですか」

「ゆりかとあの子では、全っ然違うんですよ!」


 な、失礼な。初対面でよくも面と向かって言ってくれるじゃん。この紅茶をぶっかけてあげようかな。


「ってゆりか? なんで私の名前を……」

「あ、い、いや~、実はさっきのお客さんとの会話が少し聞こえてて……」


 ほんとに? すごい焦って見えるんですけど。


「そ、それで! 話せるようにおまじないが必要なんです!」

「まあいいです。じゃあ、いつからその人を好きになったんですか?」


 タイマーを止めて私は、作業を止めずに軽く聞いてみた。


「だいたい、三か月前くらいですね」

「三か月も見ているだけ⁉」

「あ、あっつ!」

「だ、大丈夫⁉」


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