1.男子高校生へのおまじない2
急にはきはきとした声が私の鼓膜を刺激し、肩を跳ねさせ、思わず顔までも上げさせた。
「あ、驚かせちゃってすいません」
「い、いえ大丈夫です……」
目の前には声の持ち主であろう人がいた。制服が一緒だ。黒髪短髪で、背が高く、美少年と言った感じ。
「そ、それでなんですけど、おまじないってありますか?」
「あー、おまじないです、か」
「そうです。おまじないが欲しくて来たんですけど」
お客さんは照れているのか、斜めの方向に視線を逸らす。初めて店に来たから緊張しているのかな。
「ないというか、おまじないは書いて渡すものなので」
「あ、そういうことか」
なんか挙動がすこし、アホっぽいというか、天然だな、この人。
「で、でもお母さんが今いないので……」
「お母さん?」
「はい、ここの店長をやってて、おまじないもお母さんが書いて渡しているんです。」
「そうなんですか……どうしよっかなー」
申し訳ないけど、これは仕方のないことなんです。もう少ししたら、帰ってきそうではあるけど。
「あ、でもすぐ戻ってくると思いますけど……」
「ほんとっすか⁉」
最近、忙しそうにしてるお母さんに、メールを送ろうとスマホを見ると、お母さんから連絡が来ていて、すぐには帰って来られないらしい。
「な、なんでこんな時に……」
「どうかしたんですか」
「あ、いえ、すいません。すぐには来ないかもです」
「ほんとっすか……」
分かりやすくしゅんとするじゃん。はてさて、どうしたものかな。
「そ、それじゃあ、お姉さんは書けないんですか⁉」
「わ、私ですか……? 私は……書けないです」
なんてことを言うんだ、この人は。私のおまじないなんて、おの字もないほど、効き目がないっていうのに。
「そっかー、どうしよっかなー」
「また明日でしたら、お母さんもいますし、大丈夫かなと」
「今……必要なんです。」
え? 今必要なの?
「明日じゃダメなんです! お姉さん! なんとか書けないっすか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私は書けないんですって!」
真っ直ぐに見つめてくる彼は、いっさい視線を逸らそうとしてくれない。
「そこをなんとかー!」
ど、どうしよう。今は私一人だし、誰かに頼ることなんてできない。やばい、変な汗出てきたかも。お、おかあさーん助けてよー!
そ、そうだ! 後で問い合わせられるように、いろいろ聞いておくか。
「と、とりあえず! お客様の名前を教えてくださいますか?」
「八幡高校一年生の、奥村優です!」
な、名前だけでいいのにな。というか、やっぱり同じ高校、同い年みたいね。
「鈴木さんですね。それじゃあ、なんでおまじないが必要なのか、聞かせていただけますか?」
「じ、実は、好きな人がいて……」
ほ、ほうほう。好きな人がいるのね。なかなか面白そうじゃない。
「その子はショッピングモールにあるカフェで働いているんですけど、明日にはそのアルバイトを辞めるらしくて」
「なるほど。それで今日おまじないが必要だったんですね」
「は、はい」
「な、なら彼女のことをどうして好きになったの! こ、こほん。どうして、彼女のことを好きになったんですか?」
あ、危なかった。お客さんに対して失礼な態度を取るところだった。同い年でも、あくまでお客さんと店員。しっかり接客しなきゃね、私。
「じ、実は一目惚れで……」
「キャー」
素敵。高校生にしては純粋で、幼い恋の落ち方。けど、それがいい。これは長くなりそうね。紅茶を入れてあげようかな。
「ちょ、明らかテンション変わってますよね?」
明らかにそうです。
「わ、私のことはいいんです。続けてください」
「わ、わかりました。それでなんですけど、好きになったはいいものの、その、緊張してしまって……まだろくに話したことがないんですよね」
「なるほど、それでおまじないが欲しいと」
「そういうことっす」
自分の不甲斐なさに落ち込む奥村くん。
「でも、こうやって私とは普通に話せているじゃないですか」
「ゆりかとあの子では、全っ然違うんですよ!」
な、失礼な。初対面でよくも面と向かって言ってくれるじゃん。この紅茶をぶっかけてあげようかな。
「ってゆりか? なんで私の名前を……」
「あ、い、いや~、実はさっきのお客さんとの会話が少し聞こえてて……」
ほんとに? すごい焦って見えるんですけど。
「そ、それで! 話せるようにおまじないが必要なんです!」
「まあいいです。じゃあ、いつからその人を好きになったんですか?」
タイマーを止めて私は、作業を止めずに軽く聞いてみた。
「だいたい、三か月前くらいですね」
「三か月も見ているだけ⁉」
「あ、あっつ!」
「だ、大丈夫⁉」




