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――『本物の聖女は三人だ』――。
そういう噂が囁かれ始めたのだ。
大人たちから疑いの眼差しが降るようになると、少女たちは小さな心を痛めるようになった。
「嘘つきは泥棒の始まりよ」
「そうだそうだ~っ!」
「嘘つきって、はるかちゃんのこと?」
意見の揃った三人の証言によって、大人たちの冷ややかな視線が一斉に集まった。
もともと日本での姿と殆ど変わりのない遥香は、この世界では異様な存在である。疑われるのも無理はなかった。
「ち、ちがうよ。わたし、ちがう」
「ねぇ、あんた。わかるよね、黒髪は悪魔の子。本物の『せいじょさま』ではないの」
「そうだよ、悪魔だよ~っ」
「はるかちゃんは、にせものなの? ねぇ、まりちゃん?」
「いいから、ほむらちゃんは黙ってて」
「そうそう~、黙ってて!」
大人たちに腕を掴まれて、遥香は三人から引き離された。
連れて行かれたのは、薄暗い地下室。大人が何かの話をしている。
「全部で、子供が三人だ」
「分かった。引き受けよう」
眩しいほどの光がやってきて、部屋の全貌が分かった。
遥香の側に薄汚れ、やせ細った体の子供が二人、横たわっていた。
「ひっ」
子供たちは腕に枷をはめられ、狭い箱のような中に押し込まれた。
遥香が気がついた時には違う大人たちの眼前である。
異臭とはまさにこのこと、尿意というほどのアンモニアと絹の擦れたカビ臭さが鼻に集中しぐっと顔を覆った、一瞬で頭の中が真っ白になった。
目の前の光景が脳裏か離れない。
「この髪、まるで炭を塗りたくったようだ。漆黒の体毛……? 妙な色味だが、売れるのか?」
「ハハッ、悪魔的だろう。こういうのがお好みの方もいるかもしれんねぇ」
「分かった。ほら、奴隷印だ」
遥香は訳が分からないうちに背中をむき出しにされた。空気のような何かの気配が先に肌へ触れた。
「なに? ――ぎゃああ!」
魔術による焼き印なのであるが、日本の子供にそんなことが分かるはずもない。
――熱い! 痛い! 痛い、お母さん!
バタバタと足を揺らしたが当然のように掴まれた腕から逃げられない。苦痛に身をよじらせた。
そこからの意識はない。
+
――遥香のように奴隷印を施された子供や若い娘はたくさんいた。
地下の寒々しい石床の上で、耳の尖った同じ年頃の少女。彼女と遥香は、互いに身を寄せて震え合うのだ。
「怖いね、怖いね」といつも慰め合う耳の尖った友達は、内気で言葉も上手くなく、いつも遥香の後ろに隠れていた。