表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/34

+(5)+ ★



 ――『本物の聖女は三人だ』――。


 そういう噂が囁かれ始めたのだ。


 大人たちから疑いの眼差しが降るようになると、少女たちは小さな心を痛めるようになった。



「嘘つきは泥棒の始まりよ」



「そうだそうだ~っ!」


「嘘つきって、はるかちゃんのこと?」


 意見の揃った三人の証言によって、大人たちの冷ややかな視線が一斉に集まった。


 もともと日本での姿と殆ど変わりのない遥香は、この世界では異様な存在である。疑われるのも無理はなかった。


「ち、ちがうよ。わたし、ちがう」


「ねぇ、あんた。わかるよね、黒髪は悪魔の子。本物の『せいじょさま』ではないの」


「そうだよ、悪魔だよ~っ」


「はるかちゃんは、にせものなの? ねぇ、まりちゃん?」


「いいから、ほむらちゃんは黙ってて」



「そうそう~、黙ってて!」


 大人たちに腕を掴まれて、遥香は三人から引き離された。


 連れて行かれたのは、薄暗い地下室。大人が何かの話をしている。


「全部で、子供が三人だ」


「分かった。引き受けよう」


 眩しいほどの光がやってきて、部屋の全貌が分かった。

 遥香の側に薄汚れ、やせ細った体の子供が二人、横たわっていた。


「ひっ」


 子供たちは腕に枷をはめられ、狭い箱のような中に押し込まれた。

 遥香が気がついた時には違う大人たちの眼前である。


 異臭とはまさにこのこと、尿意というほどのアンモニアと絹の擦れたカビ臭さが鼻に集中しぐっと顔を覆った、一瞬で頭の中が真っ白になった。


 目の前の光景が脳裏か離れない。



「この髪、まるで炭を塗りたくったようだ。漆黒の体毛……? 妙な色味だが、売れるのか?」


「ハハッ、悪魔(崇高)的だろう。こういうのがお好みの方もいるかもしれんねぇ」


「分かった。ほら、奴隷印だ」


 遥香は訳が分からないうちに背中をむき出しにされた。空気のような何かの気配が先に肌へ触れた。


「なに? ――ぎゃああ!」



 魔術による焼き印なのであるが、日本の子供にそんなことが分かるはずもない。


 ――熱い! 痛い! 痛い、お母さん!


 バタバタと足を揺らしたが当然のように掴まれた腕から逃げられない。苦痛に身をよじらせた。



 そこからの意識はない。



 ――遥香のように奴隷印を施された子供や若い娘はたくさんいた。


 地下の寒々しい石床の上で、耳の尖った同じ年頃の少女。彼女と遥香は、互いに身を寄せて震え合うのだ。


 「怖いね、怖いね」といつも慰め合う耳の尖った友達は、内気で言葉も上手くなく、いつも遥香の後ろに隠れていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ