シーン3 さよならもありがとうも
シーン3 さよならもありがとうも
どうして、どうして! 駅員さん! おじさんもボクを置いてくの!!どこに行くのさ!「もう遅い、家に帰るんだよ」眼鏡くんの声は陽だまりみたいにあったかい。
ボクのなかで、あきらめの花が咲く。あきらめの花が降り注ぎ始める。埋もれたボクはグシュンとへこんだ。どうして…いつも…こうなるの…。
眼鏡くんが「えぃ!!」と声を上げて、ボクの中に入ってきた。
「なんで!!」と言ったボクに、「一緒に居たいからさ。僕らの世界は小さくない。1人で歩くには広すぎる。誰かと力を合わせなきゃ」眼鏡くんがボクを励ます。それでもボクは「家に帰れなくなるんだぞ!!会えなくなっちゃうんだぞ!!見えなくなっちゃうんだぞ!!」と言った。「僕はね、僕は眼鏡だから人の心が深く見えちゃうんだ。人間の意地の悪さを知ってる。心の中にはいつも、あれが、これが、だからが、必ずあるのに正直に話さない。どうしてって僕は考える。そういうのに……疲れた。だから君の中にいたいんだ。話すのも、見えるのも君だけでいい。ここに居ていいだろう?」と眼鏡くんがボクに聞く。
ボクの心を読んだ眼鏡くんが、ニッと笑って「ありがどう」と言った。
「君はボクの心になるんだね」と言うと、眼鏡くんが泣き出した。涙が暖かいってボクは眼鏡くんに教わった。強くなるよ。ボクは君を守れるくらいに強くなるよ。
君とたくさん話して、親友になれるように、怖がらずに君に甘えよう。
いつか2人で、お星様を見上げて願い事をしよう。
さよならも、ありがとうも、これからは君と一緒だ。
ボクは君を大切にする。
ぼくの中でシンシンと咲いていたあきらめの花が、七色に光って消えてゆく。
「仲良くするのよ」と言ったハンドタオルさんに会いたくなった。
いつの間にかに、知らない駅員さんがボクの前に立っていた。「このぬいぐるみですか?」と聞いた駅員さんに、「あっ!!その子です!!!」とさきちゃんが言った。
さきちゃんとパパが迎えに来てくれた。
『ぬいぐるみ』これにて完結となります。「パパ」と書いていますが、「パパ」という言葉を大切な誰かに、大好きなどなたかに、愛する人の名に置き換えて読んでみてください。あなただけの物語りになります。今回も最後までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。感謝いたします。 さゆり