239 ある、権利の書
投稿詐欺な13日の金曜日、21回目の改稿でーす。でーす。でーすう〜。
ほんと誰でしょうね? そんなに遅くならないみたいに書いてたの。 …てへ、えへ、きゃーあ。にこちゃん、きゃーあ。
べしっ。
こっそり回したタイマーを、付けようとしたら払いやがった。俺の胸に顔を埋めたまま消し飛ばすとは。やりおるわ。
「じゃあ、もう時間切れで〜」
「やだ」
「これ、我が儘を言わないの」
「やーだあ〜〜〜」
どーすっかなー、めんどいなー。
「はっ!」
どうした事か、いきなり身を起こす。
がっちり掴んだ手は離さないが、きょろりきょろきょろ周囲を確認。
そろりと片手を離してじっと見る。
もう片手も離して自分の両手を見つめてる。この飛び付き抱っこ、下ろしていいか?
「わ、ぁ…」
「うん?」
「わあ、わあ、わああ!!」
「お?」
「我らが主よ!」
「はい」
「だーい好きぃいい!」
「うん? うん」
いきなりご機嫌、更にぐりぐりしがみ付く。ぐりぐり後は腕からぽんっと飛び降りる。したらば勢い後ろに飛んでみせ、くるっとターンで見せるキメ顔「きゃっはーっ!」
拳を突き上げる一等賞はなんだろう?
「実に、素晴らしきは我らが主の深慮遠謀!」
「ああ」
「言葉に尽くせぬ、この喜び!」
「うん」
実に良い顔で言ってて可愛いが、この手の笑顔は癖があってだ。
「この手、この素晴らしき! この手!」
「あ」
ピンときたあ!
「この拳に全てを乗せて!! あんの馬鹿を 殴ってきまぁああああーーーー!!!」
「これ、待ちなさ「ひゃっはああああ! 待ってやがれぇええーー!!」
最高の笑顔で駆け出す後ろ姿に指、ぱっちん。
がっしゃん! どん!
「いだあーー!!」
うんうん、ゆーこと聞かない子には閉鎖が一番。その場でへたる哀れな所にオートで第二弾が発動。
「ぃだだだ… ふぎゃあああーーっ! いた、いた、痛いですぅーーーー!!」
生物実験室及び、その付近の防犯防護保護捕獲は強力だと教えたのにな。それにしても間を置かずに即、声が出せると。うーん、馴染んでるよーで馴染んでないな。ま、馴染まれても困るんだけど。
「我らが主よ、あんまりですぅ」
うえ、うえ、と泣く姿に〜 はぁ。
あんまりな事になるから止めたんだけどな? お前の一大事なんだけどな? しかし、仕方あるまい。目先の欲がキラキラだもんな。
「うんうん、その手で殴りたかった」
「はい、それはもう!」
「で、どうやって行く気だったの?」
「…え?」
「問題の下の子の所に行こうとしたんだよね? どうやって」
「? いつも通りに」
「はい、やってみなさい」
指を振って、きらり輝く網を消してやる。
「ええ? はい」
ふわりと体が浮かんで〜 浮かんでえ〜〜 すすすい〜っと〜 おやぁ?
「これ、そっちは閉鎖してないぞ」
「えー、なんですー? 聞こえなー」
態と向こうに行ってんな。しかし、これは予想外。あ。
「これ、階段へ行くでない」
「えー? これがどうかあー? あ、れ? れれれっ!?」
「あー、誤差誤差。範囲内だわ」
流石、力技も一番の闇の子だ。
「ぎゃー! やー! おちー! うわわわ、我らが主よ!!」
「あやー、調子に乗って上がっちゃってまー」
階段室でバランス崩れて落ちてった。はいはい、拾いに行きましょ。
「うげえぇ… き、も、ぢ わる」
「はいはい、狂ちゃったねー」
四つん這いからゴロッと転がり床に伸びる姿に苦笑する。うんうん、顔色と心情が一致だねー。
「あー」
「勝手に上階の非常口を目指したりするから」
「…だってえー」
「今のお前は肉を持つ。でも、中身はない。だから、普段通りに飛べちゃった」
「…飛べちゃった」
「肉の慣らし飛びも無しでやるから、狂っちゃうのよ」
「怖かった…」
「だろうねー、下の子達が重ね着するのとは意味が違うのよ」
「普通に飛べたのに、飛べてたのに… 不意におかしくなって… ほんと怖かったんだからあーーっ!」
「うんうん、言う事を聞かないからね」
「うー」
「それにね」
「う?」
優しく優しく微笑んで、ダメ出しをする。
「完全な肉を持たないお前の腕力勝負なんて目に見えてるだろ」
「え」
「ナカミは物理の重みがない。ソトミで力が滞る。ほれ、これでどうやって下の子を殴り飛ばす気だ?」
「… 」
「脳筋なぞ要らぬが物理でなれんしなぁ」
「なんかひどいぃいい!」
「ほんと良かったねー、こ こ で」
含みを持たせて、にぃいっこり。闇の子の珍しい失態に、ふふっと微笑ましくいたら。らあ〜、サクッと覚醒。目付きも鋭く湧き上がる気概で現状問題に向き合って雪辱戦に持ち込もうとしてた。ふ、させるかよ。
「じゃ、これで終わりね」
「ま、待って あー! あーー!」
文句を言う頭を優しく撫でて。
与えた仮初のリアルを消失させた。そらもうキララララッとねー。
「うわあああん! やっぱり、お人形が最強説ーーーー!!」
もう、泣きが激しいったら。
「これ、そこで踞らない。着替えに行きたいのよ」
「だって、だって… お手伝いに対するご褒美がないなんて!」
「…これ、あれは自主性からでしょ」
「目論見の失墜」
「損失計算するでない」
健康診断書と鍵を片手に入り口で踞る体をぽーい。「わー!」「お?」 …踏み出した足に、もうしがみ付かれた。ほんと素早くて困るう〜。
「せめて、せめてあの馬鹿に厳罰注意処分を!」
んん?
「厳重注意?」
「厳罰注意で!」
「…厳罰しちゃうぞ、やーめーれぇ〜?」
「いいえ、厳罰解して今後はやめれ」
「解して?」
「解して」
「それって罰を喰らって初めて事態を理解させ?」
「そう! 今後はさせないサンプル表示!」
「…サンプルの表示期間の希望は長く?」
「長く!」
「…その場合における下の子の命数に対する見解は?」
「厳罰注意処分ですから命数配慮は不要でしょう?」
さらりと命数を流した。
流した。
何でもない顔で。
……………………厳罰効果を当て込んだ姿勢に教育指導を入れるべきか、否か。いや、それより当て込んでいない場合がだ。
うむ、そこが分かれ目ではあるが だ、な。
「…僕の希望はおかしいですか?」
どう教育実習まで持ち込むか、どこで実習させるか等を考え過ぎたか、流し見やれば不安顔。からの攻勢顔。
「知らぬとは言え、今の僕の手を煩わせ続ける事は反逆ではなくても損失です。そして、在るべき物への畏敬が足りない」
「畏敬への不服、それは不遜」
「現状、警告と読めぬを是正する労力は割けません」
「僕の立場で放置する事こそ、認められません」
「でも、お人形はダメなのでしょう?」
「ならばどうか、厳罰を」
「知らしめる為に、厳罰注意処分を!」
ほんとに熱意が凄いわー。
下の子達への思考的介入は禁止してある手前、困る。
「もちろん、処分内容は下向きで」
なんで今と思うが今だからだろうし、後でと言ったら泣き喚いて暴れそうだし。ペーパー出しした診断書でペラペラ自分を煽いでみる。
「それと促し系は要りませんので」
ほんっと困った子になってえー。
「はいはい、どこだって?」
帰ってきたら家の中が煤けてても嫌なんで、ぽちぽちぽちっと操作して画面上に問題の地点の壁を映し出す。
「うん?」
今日も元気にガキンガキン。
…してるんだけど、してないぞ。何これめっちゃ弱いけど?
画面上に映った子はひょろい。しかも、泣きの入った汚れた顔で歯を食い縛りながらの一生懸命さで剣を振るってた。それがまた振り下ろす力も大した事なく、ガキン!なんていきやしねえ。
「…我らが主よ、違います」
「え」
「そこポイント違いー」
「あ?」
「僕の担当区域と違ってえ」
「あー?」
ここ、ここと指差すポイントが違ってた。違うとこ出してた。
「でも、これでわかったでしょう! どこの地点でもこーゆー問題が発生してるんです! 放置は敵です! 多発は屑です! 大体、警告が理解できなくなったのは下の子達の問題ですから!」
鼻息も荒く、きゃいきゃい言われた。
言われたが、だ。
どういうこったろうな、これは。まぁ、音声でも出すか。
『は、は、ふうっ ひっ』
地点を聞いて、そこを出した筈なのに違う地点が映し出された。この早く終えたい時に聞いた指定地を間違えた? 聞き間違えた? ないわ、ないない。んじゃあ、これは?
『はぁ、はぁ、はーーー!』
手にした剣で壁の破壊活動に精を出してる、この子は。
ああ… 何度その鼻水と涙を拭ったかわからない袖なんて汚いし、見窄らしいし。壁の破壊なんて当たり前にできそうもないし。しかし、ちょいと見ただけでわかってしまう。
「我らが主よ、如何して?」
映る姿に照準を合わせ、この子の基本台帳を片目でアップ。一欠片の可能性も信じずに剣を振るう姿を見続ける。あ、落っことして転けた。
…握力が尽きたかあ〜。
「うーん、うーん、うーんん〜〜」
「なんて一目瞭然な」
今日も元気にガッキガキ。こっちは普通に元気くん。画面上に二人の子を横並べにして見てるが、こーれーはあ〜〜。
「歴然ですね、決定ですね。るーんたったあ〜 るんたったあ〜〜♪」
うーん、機嫌を取るのに見つけたってかあ? いやいや、まさかあ〜。
「るーるるるーの、るんたったあ〜♪」
後ろで歌い踊る闇の子に見なかった事にしようなんて言えやしないし。
「果ては闇のゆーしゃか、せいじんかあ〜♪ それか、けんじゃもいーかもねー♪ それ、るーんたったあ〜 るんたったあ〜♪」
闇と土の子の専有スキル、歌歌いによる美声が響いて 響いて… あ、ブースの卵ちゃんと黒卵には良い環境か。喜びを歌ってんだし。
あ! 黒卵の方が共鳴してね?
え、まじ?
あ、ちょっとやめない? あ、止まんな? うわああ??
「ああ、誠に誠に我らが主は素晴らしく。畏敬の念を覚えます。この心が震えます」
ああ、それはそーだろ。こんな時まで凄いわ、俺。
「なんて清く正しく美しく! うわー、うわー、下の子がこんなにもできるだなんてえ〜〜 わぁい、るーんたったあ〜 るんたったあ〜 僕らの子〜 だあ〜 るんたったあ〜♪」
あ、ダメだ。
お誕生祝いになりそーだ。これを止めて一位にバレたら刺されそうで嫌だな。
「え、やだ」
「だって、それじゃあ何の解決もしてないです」
「あれはあれ、これはこれ。大体、僕の担当区域ではありませんし!」
祝いの恩赦は無理らしい。
「そもそも、厳罰と申しましても我らが主のお声掛かり。そこに何の不満が? 不服を唱えるなど傲慢の極み」
あー、うーん、まぁ〜 嫌な声掛かりだろな?
「我らが主が行いは、何時如何なる事でも特別で」
「ですが厳罰もダメなら僕にシンケンをー」
なんかもっと欲を出してきたぞ。
「下されたら、直ぐにとーに連絡して調整をお願いしますから」
「…待て、どこに連絡を入れるって?」
「もちろん、きゅーれーとーです」
「…シンケン振り翳して〜 まさかの生き送り?」
「はい! 産地直送、直送り!」
「生き送りなんて何考えてんの!?」
「あの子の為にも試しておこう。きゅーれーとーで ☆レッツ☆ お化けやしきぃ〜〜〜 ぱちぱちぱちぱち〜〜〜」
「…あ〜〜ああ」
「そんなに感動されなくても」
「まぁ感動はしてるがな」
実証を試みる事は正しい。
「そんなに気にされなくても、あそこにそのまま辿り着く子って偶にいますでしょ? 偶然も必然も行き着く先が同じなら、それは些細な言い回し。下の子が聞こえの為に連ねる言葉、ね?」
人差し指を口に当て、にこーっと笑う。
確かに些細な事だと思う。
さっさと任せて御宅訪問したいと思う。
思うんだが〜 特段の必要性もないのに摘み捨てるとか、趣味じゃねえ。それを上の子の中でも最上位に位置するシリーズが苦情と陳情を合理に変えて正当と化させている。
見遣る画面上では、どちらもが休憩に入ってた。輝きに違いがある二つの命。
「夢では駄目なのかな?」
「ゆめ? …警告夢、です?」
「そう、夢では駄目かな?」
「…… 」
むー、と口を横に引く。
その顔を見るに付け、俺が留守の間、この手の事案の対処をどうしていたのか不安が募る。今まで特段聞いてない、聞いた覚えもなくてだな。いや、今回の事態が異例なだけ としてもだよ。一つ一つが小さな事案であれば〜〜 不安だ。
取り零しは仕方ない。仕方ないから、それは良い。だが、合理を口に楽な方へと事態を動かしている可能性がある。
今回は俺が居たから言いに来た、で、正解なのではと思える。
自我とは。
役職を持たせた、この子にとっての自我は。
「我らが主よ、あれは図太いので夢は忘れそうですよ?」
「あ?」
流れるに易き、逸脱は自我か。
「それに覚えていても『自分が軟弱だからだ!』とか、これは『乗り越える恐怖の試練!』なんて愚にもつかない事を言い出して自分ポジティブでいっちゃうタイプですよ?」
「えー」
自我は逸脱か。
「ほんとですよー」
「よく見てんなあー」
それとも希薄か。
「だから、現実で殴んないとー 難しいんですってえー ねー だからやっぱり、お人形っていーでしょー ねー ねー ね〜〜〜〜え!」
…話が最初に戻ってしまった。ま、一生懸命なのは認める。
「やったー! ケンリしょー!」
「今回だけぞ、記した規約を守れよ」
「はあああああああい!」
両手で掲げてくるくる回る闇の子の笑顔はかわええ〜〜。心が和むぅ〜〜〜。
「我らが主よ、うれしーですぅうう!」
「うんうん、頑張りなさい」
「はい、いー感じにやってみます! でも、上手くできなかったら ごめんなさい」
「気負わずにやりなさい」
「はい、どの子も最後は次に期待!です」
「…うん、そーだねぇえー」
『じゃーぶ、じゃぶっ』
『じゃーぶ、じゃぶっ』
『それ、じゃーぶって』
『ぶうって』
『いーのーちーは じゃーぶって』
『じゃーぶったらあ〜 いーのーちーは』
『きゅーれーとーでー』
『きゅー れー でぇええっす♪』
『それ、ほーぞーんっ』
『それ、ほーぞーんっ』
『それ、まーわーすっ』
『それ、まーわーすっ』
『きゅーれーとー でー きゅー れー でーっす♪』
思い出すあの子達の歌声は… どこぞの湯揉み歌のよーにしか聞こえんな。しかし、みーんな上手くなっちゃって。
知識が自我を補完する。
家の基幹システムを知ってる上の子にしたら、下の子なんぞそーれぽーいの『来世に期待!』で終わるよなー。そもそも家の道理を一番に動く子に、命の 一期一会なぞ… しまった、上の子達の方が余程に一期一会であったわ。
命張ってんのは自分らだ!と下の子に怒鳴らんだけましか。
そうよなぁ、上の子にとって下の子の命は流れにぽいっしょするものでー あってー 特定するものではー それに俺と同じ方法はー あー、そいやカラーボールどしたっけ?
「我らが主よ、僕はこのケンリしょで ええと 下の子の、ええ〜〜 命を 星と 抱き締められたら それは、きっと ええと、喜びに きっと、そうと」
驚いた。
ああ、驚いた。
これこそ、自我よ。
与えられし役割から踏み越えようとする自我よ。生まれいづる力よ。
「…抱き締めるは重みぞ?」
「星は花でありましょう?」
はにかむ笑顔がきらっきら。
あああああ、感動! 俺の教えよ!! そこからの芽吹きよ!!
しかし、その輝きの裏に闇の子特有の煌めきがふつーに混じってるから、ちょーっと俺の期待と違ってそーな気もする。が、抱き締めてよしよしよしよししておいた。
奇跡とは軌跡があってこそよ。 …生殺与奪の安心感を通り越した何かであると信じたい。
「さて、行ってくるね」
「はーい、お気を付けて〜」
「うぎゃあああ!」
「はあ?」
心置きなく踏み出した所で聞こえた悲鳴に、くるっとターンで慌てて廊下を逆戻り。生物実験室に飛び込んだ。
「どしたって!?」
虫籠の覆いを捲った姿で立っていた。ゆっくり動いて、ひでえ目付きでこっち見た。俺に向かって見る目じゃねーわ。
あ、これ。
覆いを元に戻しなさい。
「ああ?」
「ですから、どうしてこうなって… くうっ!」
「いや、どしてって… なったからよ?」
「他には!? この子達だけでした!?」
「あー、他にもいたけどならんかった」
「逃げたなあー!」
「は? …各々の決断の元、ならんかった事実に何を言っとる」
「いたあ!」
ちょっと見過ごせない物言いにベシッといた。話にならん、傲慢であろうが。反省しなさい。
「ですから、バランスが最悪でー!」
「あ?」
「この子達を他家の言い方にしますと! 一玉は光のせーじょ、二玉は炎のゆーしゃ! そんで三玉は闇のまほーしです!」
「うん?」
「おはよう組が二、おやすみ組が一! それもさんとふぁいの組み合わせ! 眩し過ぎるでしょうぅう!?」
「え、ええ〜」
なんかやっと言いたい事が。
「せめて、せめてふぁいじゃなくてしーたなら! なのに、なのにぃい〜〜」
「いや、唸っても。もうね?」
「決断の元に消えた子らが居ればこの子の苦労は少なくて済んだはず!」
「…過去を望むでない。そんで保護区に放すんだから」
「このまま放せば酷いことになりますのに? それが見えてますのに? この子の未来が潰れるのを指を咥えて見守れと!?」
「あ?」
「奇数組には奇数の子が寄って行きます。正確には仲間の居ない子が」
「おや」
そうか、一つ星とて寂しいか。
「この明るさだと高確率で僕らの子が来るでしょう。ええ、真っ先に来るでしょう。場所に光を求めてくるんです。そうした子は仲良くしますが行き過ぎて先にいる同種の子の始末に走ります」
「おやぁ?」
「または取り込むとも言います。この子達はキッズですが、引き継いで生まれた子達でしょう?」
「…ぽやぽやの子とガチの一つ星の対戦カード?」
「そうです、我らが主よ。接戦どころか大貧民なのです!」
「…うん?」
「秘密の花園での朝焼け、それは身内のせーじょとゆーしゃのペッカペカでまともに眠れず! 睡眠不足の状態でおはようと叩き起こされ、遊びに行こうと引き回されて! ふらつく所を襲われて「あー!」な目に遭っちゃうんですよ! ほぼほぼ、その後の「あー!」で喰われちゃうんですよ!? あそこだって生存競争厳しいんですよ!? わかってます!? 我らが主、下手すると知らないんじゃないんです!?」
…なんか、虫の共食いが起きてるらしい。しかしだな?
「俺が知らんでも保護区である以上、管理は置いてるが?」
黙るので繰り返してみた。
「か・ん・り・は、置いてるが??」
「…あいつら、自然観察者気取りで役に立たない」
「あ?」
「第一期である事を良いことに! 希少性があろうとなかろうと自然現象・淘汰の性よと気取りやがって仕事してなぁあああああい! あれもどーにかしてくださいよーーーーー!」
なんか出られない部屋にいるみたいな。
「だからな」
「そう言われましても最終は僕らの子がですよ!? あれを見るだけでも悲しいのに!」
「そうは言ってもだ」
「…僕らの子が 僕らの子が いちと いちで いちになっちゃうんですよ!? この数の暴力をなんと言えば!?」
「あー」
最後は数が合わないと。
「あー、なんだ。所詮、キッズの食い合いなんて〜 ほら、栄養の消化とゆーより合体婚みたいなー 方向になるで正解だったよーなあ〜 そーなると、これまた違う子の誕生とゆー形でえー 尚且つ〜 品質の向上が見込まれてえー あー、その誕生の際には〜「ちーがーうーのー!」
遮られた。
「質じゃないの! 質じゃないのーーーー!! わーんんっ!!」
誤魔化しが効かなくて、真面目に出られらない部屋だわー。
「でもね、行動の阻害をしちゃったら〜 一つ星がより一層寂しくなるんでないの?」
「あっちに行きたいのに行けない自分」
「一人、近くて遠い場所から眺める事しかできない自分」
「何らかの制限がある自分」
「どうして自分だけが」
つーらつらと隔離時の哀れな心情を語って激情を宥めてみる。
一人部屋は有効だ。育ち切った所で出してやれば、直ぐに分化するだろし? 他の子よりも【俺、強えーー!】ができるからあ〜〜 らあ〜〜 協調が弱い上に待てができなくて拠り所で失敗すんだよなー。色々退行を起こすしよー。 …一人部屋に寂しがりは入れられんわ。
「我らが主よ」
呟きで滲み出す。
俯きに肩が震えて、握り締めた拳を広げたら。 そっから、どんどこどんどん伸びてっちゃう闇の手ぇ〜〜 広げて広げて真っ黒モード全開にぃ〜〜 あー、とーけだーしたー。
おかしいなぁ、ここでそーゆー事やっちゃ駄目だって教えたのにな? まぁ、かわいーったらないわ。笑ったろか。
「うわー、ブースの卵ちゃんが泣いちゃう〜〜 悲しみと苦しみと激情が生み出した妄想の酷夢に包み込まれて覗き見る闇の淵の寄るべ無さに死喰いを覚えて染まっちゃう〜〜 巻き込まれで帰るべきお家がわからなくなちゃうううう〜〜 うわー、かーわいーそーー」
密度がピタリ。
暗闇にカッと目が開く。
ブースの方を伺いながら、そろりそろりと姿を纏めて降りてきた。未だ権利書を握ってるから、早くポッケに入れなさいと思う。
しょぼくれから反省を口にするまで待った。
不貞腐れていなかったのでよし、資格返上まで口にしたので更によし。本来なら剥奪ものだが俺が噛んでいるので免停に。でないと報告を受けた一位に俺が刺される。
しかし、さっきの闇広がりに大喜びした黒卵の方が非常に微妙。便乗応援か栄養補給か絶妙に微妙。沈黙卵やってるのも微妙。 …動機不純な気がしてならないので仕方なし。
「お使い猫から降格もあるな」
直ぐに沈黙が破られた。うむ、自分可愛さでよろしい。
「お前達の数が多いと調整が取れなくなるのはわかってるでしょ?」
「ですが、このアリスリアも」
「消えてない、死んでない、終わってない」
「でも、今回の騒動での累計 わっ」
増加希望がしつこい子の襟首を引っ掴み、虫籠を吊るしに引っ掛ける。
「いー加減に御宅訪問に行きたいのよ、わかる? お前は鍛錬を怠るんじゃないぞ、いーなあ?」
黒卵に一声掛けて生物実験室を出る。反対向けて「もう一つはどーすんの?」でぽいっと。後は振り向かない。
「……そうだ! 我らが主よ、僕らの子は! あの子の権利は!!」
「現地担当者と連絡して取り合えー」
「わぁい! 行ってらっしゃーい!」
やっとループを抜け出せた。
自室に寄って、衣装部屋に滑り込み。
貰った訪問着を手に取った所で何故かいきなりピキーンときた。
美意識がぶん回る。
鏡を前に身に当て、眺め。眺め、眺め、眺め、クローゼットオープン。数あるサバゲー仕様に手を伸ばす。
洒落と着込んで足元固め、小物を付けて、鏡の前で右左。
「やっぱ、こっちのがいーわ」
自分らしさに笑みが零れる。
襟柄と同じ飾り帯を締め、手袋嵌めて、指輪を連ね、耳を飾って、片手に腕輪を通す。貰い物の首飾りで色を纏め、再び鏡の前に立つ。
「…………いやいやいやいや、まーさかねー。この俺が人様の御宅訪問で貰い物を身に着けるとは」
ちょいと首飾りを持ち上げる。これをご父兄はどう取るかと思うが全く気に掛けない気もする。
「ま、本職ならな。 …ん〜 一応、外衣も着とくか?」
隠しの多い風の重ねをふわりと纏い、内扉から隣の部屋へ。
「なーに持って行くかなー」
あれこれそれと突っ込んで、見栄えに一本業物いるか?と手に取って〜 基本でも在り来り。どうしたものか。
「お、これでいくか」
指先で触れ、少し待つ。
瞼が震え、肢体が熱を持ち、尻尾の先がちょろりと振れ始める。
パチリと赤眼が開いたら、銀光ボディが滑らかに動いて手に乗り、頭を擦り付ける。かわええ。
「頼むよ」
ちろりと覗かせる赤い舌の了承と共に素早く肩に登ってくる。これでよかろう。
「お、おお」
暫く起こしてなかったから、スキンシップが強めだな〜。あ、腹減りか。よしよし、待て。 あ、待て。 待てとゆーに。
「さて、次はマニアさんか」
診察に行ったら、すかすぴょ寝られてた。
ささっと診てから担当の子を連れて病室を出る。寝ていても聞いている、それが基本だ。
確認後はマニアさんに回診に来ていた事を伝えるよーにと念押しし、引き続き任せる。
「…あの、もしも。もしもなのですが」
俺の帰宅が遅かったら。
その間に、うにゃにゃにゃにゃがあったなら。
安全の為、マニアさんを病床に縛り付けていーかと問われた。 …手術と入院に対する同意は取ったが、もしもの暴行に対する拘束許可は取ってなかった〜 かな? 協力に含まれ〜 あれ?
「ないとは思うのですが」
「あー、うーん、そうよなあー」
「なので、使用許可を」
困り顔からの控え目な促し笑みに、どうせ同じと許可したら。
「じゃ、縄取ってきまーす」
「あれ?」
そっちなの?
「あ、先程確認したら丁度良さげな糾いの縄を見つけたものですから」
もーもいーろ と あおいろの〜 綯ったばかりの縄が出たー。
「我らが主よ、お帰りに際しまして。もしも、もしもの事がございますれば お眠りの御方を 繋ぎに してしまうやも」
「やめなさい」
さっきまで、すんごく良いナース顔だったのに!
「あの桃色で勝算ありますよ?」
「やめなさい」
「…本当に勝算ありですよ?」
「真面目にやめなさい」
「えー」
「不安にさせてごめんだからほんとにその辺は調整がややっこしいから、ね?」
帰ってきて自宅の壁がピンクハーレムになってたら泣くぞ。
「戸締りできてるな?」
『はい、確実に』
「頼み忘れはなし、行ってくるわ」
『どうぞ、お気を付けて。 …余りにも、ご帰宅が遅い場合は手段を選ばす動いても?』
どうやる気だと疑うような事を言い出した。因みに待ち時間を問うたら、何時ものサバゲー基準だった。それは正しい。
「サバゲー程、時間は掛かんないよ」
『それ、フラグだと聞きました』
「やめい」
ったく、感化されて困るぅ。
「よっ」
家から飛び地に向かって跳んだ。
「わぁ、我らが主だ!」
「わぁ、わぁ、お久しぶりなのです!」
「きゃあーい!」
降り立ったら、どーん!とくる。
居合わせた全てのあるふぁ達が飛んでくる。うむ、愛がごちゃごちゃしてて前が見え難いったら。
「よしよし、可愛い可愛い」
「あのね、あのね」
「聞いて、聞いて」
「あそこに落としてやったから」
「褒めてえ」
大量、豊漁。
多過ぎるあるふぁ達をくっ付く限りにくっ付かせ、纏めて撫でて全体統合。一個体にするも、後で散け易いよーにドールはやめてヌイグルミの方に。直後、自分の腕で俺の腕にしがみ付き、「きゃーーい!」
これがまた喜ぶんだわー。
そんで大きな子ができたら、残った子達も喜んで跳ねて回って全終了。あー、はいはい楽しいねえ〜 良かったねえ〜〜。
「我らが主よ」
「おーう」
振り向き様に統括を抱き締めて文句を殺す。寧ろ、言わせない。 あ、ごめん?
「で、あそこにですね」
ぷんすか口調をヘラッと流して不敵侵入しよーとしたのを眺める。
「なかなかにしぶとく」
「言ってやるなよ」
丸く丸く体を丸めているのは、生き残りを賭けたか暴発手前か。 …まぁ、暴発したくてもできないね。かあいそーに。
「透かし見る内部の火は強く、とても良く」
「…動力に良さげと?」
「はい」
「身元不明なまま?」
「……… 」
「名乗り上げはあったのね?」
「……… 」
「あったのね?」
「あれが欲しいです。あれがあったら、すいせんが馬鹿打ちできます」
「違うでしょー」
おかしいなぁ、ここは防衛を担ってるからちゃーんと必要予算にプラスも計上してやってんのになんでこんなにがめつくなってんだ? 俺か? 俺の甲斐性がないってか?
「だってー」
「そんな権利は与えてません」
「いえ、状況下における「今、緊急時でもないよね?」
「ぶー」
「これ」
「だから、ほら」
「言ったじゃん」
「ポッケないないしとけばよかったのよー」
「今度はさー」
「くぉら」
「きゃーあ」「きゃーあ」「きゃーあ〜〜」「うわーい」
周囲がきゃいきゃい騒ぐ中、未遂を延々怒っても仕方ない。ので、二位にお前の不手際ぞと連絡を入れといた。
『…よく言っておきますので』
「今、お前何したぞ」
『え、なにも〜〜?』
「手のリアクションが見えんとでも思ってか」
『え〜〜〜〜』
「お前、何か決意したんじゃなかったの?」
『…はい』
「検索と犯罪識別コードに掛けとけ。そんで報告も纏めとけ」
通信を切って振り向けば、項垂れる姿。
二位への連絡に反省も後悔もしたようだが、やはり我が家には合理化の波が訪れているよーで改革の荒波が俺を襲う。しかも意識改革。自我が育って仕事も出来るよーになって権限と権利を有する子達のヌルッと流す意識の改革。
自我が起こす権利。
うむ、考えるだけめんどい。ボウケンの書である方が易しいわ。
「ま、御宅訪問してくるわ」
かる〜く跳んで宙に浮き。見遣る。
「ほら、ゆーことないの?」
「い、いってらっしゃいませ! お気を付けて!」「いってらっしゃー」「しゃーい!」「しゃーあ!」「お早い、おかえりをー」
「おーう」
見送りの声に笑みを返して、貰った鍵を 放り上げた。