一兎追うもの二兎得ることできず
「それでなんで月もいるんだ」
次の日。先輩が教室に来る前にメッセージを送っておいて、現地集合にしてもらった。購買でいつものようにパンを買った後、食堂へ向かうと、そこには対面同士で座る先輩と月の姿があった。
「朝日さんが浮気しないようにと」
「したことないだろ」
「予備軍がいるので」
「予備軍って」
てかなんで月が気にしているかも分からない。彗の友達だからという理由なのだろうか。そういえば昨日のことまだ彗に話せてなかったな。早く言わないとまた面倒くさいことになりそうだ。
俺は昨日と同じように先輩の隣の席に座り、パンの袋を開ける。すぐにパン独特のいい匂いが鼻孔をくすぐる。先輩は変わらずタヌキうどんを頼んでいた。
「こんにちは」
「遅かったわね」
「そうでもないですよ」
「それはあんたが決めることじゃないわ」
「それは理不尽では?」
「うるさいわね」
本当にこの人は俺のこと気になってるのか?
このメンバーでの食事は二回目だけれど、一回目と異なりあまりにも静かだった。なんかすごい気まずい。気づいたらもうパンはなくなってしまった。俺は黙々と食べる二人を眺める。
「そういえば彗ちゃんには言ったんですか?」
「いや、まだだけど……」
「早め言ってあげてくださいね」
「私がなに?」
声がした方を振り向くと、そこには弁当をもった彗がいた。なぜここに。いや、別に悪いこともやましいこともないのだけれど。
「彗、どうした?」
「ん。最近あさひといれないから探してた」
「それはありがとう」
「ん」
「いっしょ食べようか」
「珍しいくみあわせ。月と海先輩も仲良くなったの?」
「ち……そうです」
「彗ちゃん、おひさー」
「おひさ」
彗は月の隣に座って弁当を広げる。中は彩り豊かで、その中でもタコさんウインナーがより輝いている気がする。
「あ、彗ちゃん。一つ言って置きたいことがあるんだった」
「なに、ですか?」
先輩が箸をおいて彗の方に向き合った。まさか今言うのか?
「あたしさ、ちょっとこいつのこと気になってるのよね」
堂々と言う先輩に彗は珍しくぽかんと呆けている。それはそうだよな。俺も突然言われたときは焦ったものだ。といってもまだ渦中なのだけれど。
「それはれんあい的ないみ?」
「そうよ。だからアタックするけどいいかしら」
「それは、すきにしてください」
ふいっと彗が弁当に視線を落とした。なんかこの二人の友情の邪魔をしてしまった気分になる。
「それと……」
先輩は腰を少し上げて彗に近づく。彗はそれに合わせて視線を上げる。
「彗ちゃんとももっと仲良くなりたいわ!」
そのまま彗に人差し指を向けた。
「二兎追うものは一兎をも得ず」
「ううん。私は二兎欲しいの。二兎は二兎追わないと手に入れられないでしょ?」
そう言って首を傾げるその先輩の屈託のない笑顔に、横にいる俺もつい見とれてしまった。




