月との距離
「勿体ないと私は思うんだよねー」
鈴はポテトをつまみながらそう言った。俺も次いでポテトをつまんだ。
「何が?」
「月ちゃんのことだよ」
「わたし……ですか……?」
「そう! だってこんなに可愛いんだよ!」
「ぇ?」
「だからもっと、こうなんだろ。とにかく勿体ないの!」
「なんだそれ」
「つきちゃんにはつきちゃんの性格とかあるから仕方ないよー」
「そうなんだけどさー」
鈴は不満そうにまたポテトをつまんだ。
「きっと、すずはつきちゃんと仲良くなりたいんだ」
彗がサポートするように言う。月夜野さんはストローでジュースを飲んでいる。何を考えているのか分からない。彼女は望んでここにいるのだろうか。
「なぁ健吾。部活はどうだ?」
「ん、どうした? 藪から棒に」
健吾は唐揚げを飲み込んでからそう言った。
「大した意味はないよ」
「そうか? まぁ楽しいよ。ってこの話しなかったか? てか朝日もっと飯食えよ。大きくなれないぞ」
「余計なお世話だ」
「ねぇ! 男子二人もこっちの会話参加してよー」
鈴がこちらにぐいと体を寄せて不満そうに言う。
「何の話だっけ?」
「だからー、月ちゃんと仲良くなろうって話。月ちゃんは本当にかわいいの」
「かわいいとか、全然そんなこと……ないです」
月夜野さんは髪を執拗に触りながら、視線を下に下げている。
「もー可愛いんだからー! 彗もそう思うよね?」
「うん。かわいい。かわいい子が謙遜しすぎるのは逆にいやみ」
「それって何言っても駄目じゃないですかぁ……」
どうやらだいぶ打ち解けたらしい。それは何よりだ。
「あ、そうそう。この後のショッピングさ、まずは服見に行こうと思うんだけど、どうかな?」
「別にいいぞ」
「どっちの先に見る?」
「どっちのって?」
「男物が先か女物が先か」
「朝日、俺ら新しく服買うか?」
「いや、俺はいいかな」
「だよな。俺もだ。ということでそっちの買い物に付き合うぜ」
「いいの?」
「おう! 何なら選んでやってもいいぞ」
「えー、健吾って服のセンスなさそう?」
「お? やるか?」
「やっちゃう?」
「やらないやらない。ほら行くぞー」
俺は伝票をもって席を立つ。
「あさひのおごり?」
「ちげーよ。何人分だよ」
「わたしのだけでもいいよ」
「彼女でもないし奢らないよ」
「じゃあ今だけあさひのかのじょになる」
「そんな下心マシマシの彼女いやだわ」
割り勘で会計を済まし、店の外にでた。みんなも続々と店から出てくる。仲良くなったのは店の外でも変わらないらしく、鈴は月夜野さんの腕にしがみついている。なんで女の子は同性同士のスキンシップがこんなにも激しいのだろう。
「んじゃま行きますか」
「おう!」
「ごーごーれっつごー」
ショッピングモールは土曜日ということもあり、家族やカップルなど様々な人達で溢れかえっていた。俺たちは二階にあるセレクトショップに入った。
「これ、どっちがいいかな?」
「んー、右のほうが爽やかでいいんじゃないか?」
「なるほど、なるほど」
「こっちは?」
「いや、それは動きずらくないか?」
「健吾には聞いてないですー」
「なんだと!?」
「わたしはかわいくていいと思うなー」
「だよね!」
「月ちゃんはどう思う?」
「えっと、いい……と思います」
「だよねだよねー」
「月ちゃんの服もいっしょえらぼー。彗も選ぶよ!」
「ぎょいぎょい」
そこから服選び兼ファッションショーが始まり、終わったのはそこから一時間半ほど経ってからだった。終わってからは、軍手や歯ブラシセットなど、必要なものを買い揃えた。ウィンドウショッピングも含めて、買い物が全部終わる頃には空が赤くなっていた。
「そろそろ帰るかー」
「だねー」
「送っていくよ」
「ありがとー」
「月夜野さんはどっち方面?」
鈴と彗は同じ方面だけれど月夜野さんの帰る方向が分からない。月夜野さんのことはまだ好きにはなれてないし苦手意識もあるけれど、女の子はできるだけ安全に家に帰してあげたい。
「私、電車ですので。いりません」
「……そっか。鈴、彗、送っていくよ」
やっぱり俺はこの子の苦手意識は拭えなさそうだ。俺、月夜野さんに嫌なことした覚えはないんだけどな。




