第74話
報復
大船団が海の藻屑となって、間もなくしてのこと。
西の諸国は機密事項で特殊部隊を創設した。
特殊部隊のその目的は帝国領への報復で、北の王の暗殺こそを唯一無二の主眼とした。
表向きは降伏しながら帝国軍を進軍させ、その実、我々特殊部隊を北へと密送したのである。
帝国領に潜伏するまで作戦任務は順調で、わたしたちは本国からの最終指令を待っていた。
しかし遂に特殊部隊に次の指令は下されず、北の王は消息不明となって、戦は閉幕した。
帰還命令。
生まれ育った母国に呼び戻された時、わたしたちを待ち受けたのは――。
投獄、拘留処置だった。
「おい、待て! ふざけるな! 一体、どういうことだ!」
「……」
「わたしたちは国の命で北へと渡って、帰ってきた! 西の正規の一小隊だ! 今すぐ手枷を外せ!」
「……」
役人たちは素知らぬ顔で、話を聞いてはいなかった。
迂闊だった。機密事項で創設された特殊部隊……。
公僕としても、その存在を認めるわけにはいかないのだ。
剰え、わたしたちは王族殺しを受任した。
わたしたちを野放しになど……できようはずがなかったのだ。
「……」
西の国々による証拠隠滅、口封じ。
わたしたちは終戦直後に、戦の犠牲と相成った。
あれから数日。飲食物は一切与えられていない。大々的に処分ができず、こうする他にないのだろう。
特殊部隊の仲間たちは枯渇によって死亡した。恨み言さえ漏らさぬままに、失意のうちに果てていた。
わたしは最後の一人になって、虚ろな瞳で黙している。
小さな小さな戦女神が、わたしの目先に出現した。
「……ふふ、神の思し召しか。天の恵みだろうか」
「……」
「戦女神よ、聞いてくれ。わたしに力を貸してほしい」
西の諸国の役人たちを全員纏めて抹殺する。
悪霊だろうと何だろうと、わたしは堕ちるつもりでいた。
さもなくば、先に没した仲間に合わせる顔がない。
それには彼女の力が不可欠。
戦女神がわたしを見た。
「いいでしょう。貴女の前に二つの道を用意します」
「……?」
「一つは貴女が求める復讐のみに殉ずる道。もう一つは、貴女が仲間と再び相見える道です」
思いも寄らない二者択一に、わたしは絶句し、困惑した。
わたしが仲間と、再会する……?
一体、どういうことだろう。
「貴女の仲間は貴女と同じく、わたしに頭を垂れました。西の諸国に報復したいと、わたしに願いを乞いました。わたしは先と同じように二つの道を案内し、結果、彼らはその全員が後者の道を選んだのです」
「……」
「わたしは非力な女神。一度の選定は一人のみ。故に再会できたとしてもそれは僅かな一時です。しかし、仮に貴女一人が竹箆返しを望んだなら、二度と貴女は仲間たちと言葉を交わせはしないでしょう」
一歩、二歩、こちらに踏み寄り、小さなその手を差し伸べる。
「みんなでご飯を食べませんか」――戦女神が提案した。
「お仲間さんは貴女のことを心待ちにしています。食事の一席程度であれば、わたしが取り計らいます」
「……」
「わたし、これでも調理だとか、結構自信があるんです。わたしの手料理、ご馳走します」
「……」
「お腹、空いたでしょう?」
「腕に縒りをかけますから」と、戦女神が袖捲る。
家庭的な女神である……。
わたしは涙を零していた。
「仲間たちに、会えるのか……」
「はい。本の一時なら」
「みんなと、飯を食えるのか……」
「お腹いっぱい、召し上がれ」
「どちらの道を選びますか」――わたしの答えは決まっていた。
「仲間たちに、会わせてくれ……」
彼女は、こくりと頷いた。
クロユリ




