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叛逆のヴァルキューレ  作者: 雪野螢
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第30話

敬愛




 僕と父は親子揃って哀憫会の信仰者で、僕は父に倣う経緯(かたち)でこの宗教に入信した。


 我が家は先祖代々続く由緒正しい家系であり、騎士の家に生まれた僕は近衛隊に属していた。

 僕にとって実の父は近衛隊の上官で、ずっと、僕は小さい頃から彼を誇りに思っていた。


 そんな中で、ある日のこと。突然、母が失踪した。

 父は母の営利誘拐を疑い、憤慨していたが、僕は彼女が姿を消した理由に……実は気付いていた。


 近衛隊の長としての務めを全うする反面、父は宗教信者としても非常に活動的だった。

 哀憫会は人口数の削減、低下を野心とする。母はそんな負の側面に大いに心を痛めていて、精神的に限界となり我が家を去っていったのだ。


 母がいなくなったことで父は荒みきってしまい、軍規違反の抵触行為を何度も何度も繰り返した。

 犯罪人の故意殺害など、中には重罰罪もあり、父は軍から追放されて騎士の称号を失った。


 そうして、僕も……逃げ出すように、近衛隊から脱退した。

 父は遂に狂ってしまい、一人で暴れるようになり、今では、僕に毎日毎日――。


 酒と女を求めてくる。


「フリージア、フリージア! 酒はどうした! 持ってこい!」

「……」

「しかし、今度の女は……っ! なかなか上玉じゃないか……っ!」

「……」


 今では僕は街の通り魔。正真正銘の犯罪者だ。

 今まで、何人、女を攫ってきたか……憶えてさえもいない。


 皮肉なことに父親譲りの剣の手腕が幸いし、夜の街での犯罪活動自体は容易なものだった。

 父は女を与えられると、死ぬまで暴行、凌辱し、相手が息をしなくなっても構わず死姦を続けていた。


 ……僕は毎日、父の部屋の前で蹲っている。

 実の父が死んだ女を犯す音が聞こえてくる。


 父は僕の憧れだった。それは今でも変わらない。だから父のためになりたい。


 本当に、それだけだったのに――。


「自身の過ち、父子(ちちこ)の罪。前非の悔悟は済みましたか」


 頭を上げると、戦女神が現れ、こちらを見つめていた。


 とても綺麗な二つの瞳が僕には眩しく、不快であり、現実逃避をするかのように僕は視線を逸らしていた。


「……どうやら、僕も父と同じく頭が狂ってしまったらしい。今では何にも感じないんだ。呵責なんて微塵もない」

「フリージア、こちらを見なさい」

「……」

「こちらを見なさい」

「……」


 恐る恐る、戦女神のその双眸に目を向けた。


 激怒しているようでもあるし、今にも泣き出しそうでもある。

 彼女はそういう表情(かお)を浮かべ、とても……悲しそうだった。


「貴方に攫われ、殺害された女性が、わたしの従者(かぞく)にいます。彼女は我が身に何があったか、一切憶えていません」

「……」

「罪を悔やみ、罪を償い、貴方が彼女に説明なさい。貴方の歩む死後の道は、貴方自身で決めるのです」


 戦女神はそう告げると、そのまま姿を消し去った。


 父が死ぬまで、父が求める酒と女を用意する。そうして父がいなくなったら、僕も命を絶つ気でいた。

 

 しかし、こんな僕にさえも為すべきことができたらしい。

 灰色だった世界が、色めき――。


 今では、光が射している。


「……」


 僕は腰を上げて、胸の懐剣を取り出した。

 近衛隊に入隊した時、父から貰ったものである。

 

 僕と父は親子揃って哀憫会の信仰者だ。

 哀憫会の信者は、自分が死ぬ時、抗ったりはしない。


 扉を開き、父の部屋に入り、懐剣を引き抜いた。

 父は以前攫った女を、骨の髄まで嬲っていた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……っ!」

「父さん、ごめん。一緒に死のう」


 僕はきっと、もっと早く、もっと早くこうすべきで……。

 自分で答えを見出せなかったことを、偏に後悔した。




フリージア

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