第29話
背反
気付けば、すっかり暗くなって夜更けの時分になっていた。
深く考え込んでしまい、時間の経過を忘れていた。
西では泣く子も黙るであろう成らず者の傭兵部隊。それが俺の所属している雇われ兵の団体だ。
団員たちは皆々、各地で傭兵としての依頼を受け、賞金稼ぎを生業として各々暮らしを立てている。
……本日、実に数年ぶりに全ての団員が招集され、団長からの指令を諾する大集会が催された。
団長からの指令というのは北との戦についてであり、我々団体は西方ではなく、北方につくとのことだった。
今や帝国は破竹の勢い、向かうところに敵なしで、世界の情勢を鑑みれば至極当然の判断である。
団員たちが満場一致で賛成、宴を始める中……しかし、俺は心情的に、酒など以っての外だった。
傭兵部隊が出立したのは故郷の西の大陸で、俺は雇われ兵の中でも古参で、初期から属していた。
当初はたった十人ほどの小規模組合だったのだが、拡大化して今となっては大規模組織と化している。
帝国に次ぐ軍事力を持つのは竜王国である。北は東と西を制圧、外野の敵を一掃し、駐屯地点を確保した上、南に進軍する気だろう。
成らず者の傭兵部隊が帝国軍に加われば、南の諸国の脅威になるのは……論を俟たないことだった。
「……」
思えば、大遠征が浅慮早計に過ぎたのだ。大船団が敗北し、もはや西に未来はないと察した団長は利口である。
それでも、俺は、生まれ故郷の祖国を見限りたくはない。
傭兵稼業に身を置いても、世界の敵となった帝国に与するなんて……ご免である。
団長の指令は絶対であり、決して団員は逆らえない。そもそも、此度の指令については団員たちも同じていて、反対派である俺の言葉に耳を貸したりしないだろう。
しかし、今、団員たちは泥酔していて、寝入っている。いくら手練れの兵でも、仲間に寝込みを襲われたのでは抗う術はないだろう。
とはいえ、こちらは一人なので、騒ぎになったらそれまでだ。果たして、何人やれるだろうか……。
俺は愛剣を手に取った。
「行くのですか」
そんな折に、戦女神が出現する。
初めて会ったが、彼女の登場の意味を……俺は知っていた。
「正直、今も迷ってたが、あんたのお陰で吹っ切れたよ」
「わたしは何も。わたしは単に、貴方を見つけただけですから」
戦女神は死期を迎えた者の前に現れる。
俺の行方は決まったようだ。
剣の鞘を投げ捨てた。
「貴方の決意、そして行為が正しいものかは分かりません。しかし、貴方のその魂には穢れがないと――断言します」
俺の背中を見送る声に、一度、ゆっくり振り返れば、戦女神は鞘を拾い上げて、胸に抱いていた。
ゲッケイジュ




