第115話
追従
『邪魔するぜい! この組合の女僧侶は、あんたかい?』
『……誰?』
『俺はエンゼルランプ! 俺の相棒になってくれ!』
――。
『なあ、俺と組もうぜ。きっと上手く行くから!』
『……』
『名前も教えてくれないのかよ。可愛い顔して、強情だな……』
『名乗る必要なんてないわ。貴方と組む気はないもの』
『ええ……?』
『生憎だけど、貴方みたいな軽薄な人、大っ嫌い』
――。
『いよう! 僧侶ちゃん、考え直してくれた?』
『はあ……』
『その様子だと、よろしい返事は期待できないみたいだなあ……』
『五月蠅い五月蠅い。鬱陶しいのよ。馴れ馴れしいから。噛みつくわよ』
『あはは! ところで、今度組合で魔物退治に行くからさ。僧侶ちゃんも来てくれよな』
『……行かない!』
『とにかく、伝えたからー』
――。
『おい、大変だ! ランプが! 瀕死の重傷だ!』
『僧侶さん、助けてください! 貴女の力が必要です!』
『えっ、でも……』
『ランプさんはわたしを庇ってくれたんです! それで、魔物に襲われちゃって……どうか、どうかお願いします!』
――。
『いやー、九死に一生! お陰で何とか助かったぜ!』
『……』
『流石は僧侶ちゃんだ。世話になったな。ありがとだ』
『……ねえ、どうしてわたしなのよ。わたしじゃなくてもいいでしょ』
『んー?』
『後衛、援護。僧侶なんてわたしの他にもいるじゃない』
『あー、まあ、それはだな……言ってしまえば、顔だな』
『はあ……?』
『あの組合で、あんたが一番、美人だなーって思ったのさ』
……。
『……何だよ。恥ずかしいけど、勇気を出して答えたのに』
『ふふふ、あはは! ランプ、貴方……とっても可笑しな人ね!』
『……』
『いいわ。名前、教えてあげる。わたしはパプリカ。よろしくね』
『へ……?』
『だから、組むんじゃないの? しっかりしてよね、相棒さん』
――。
『パプリカ、決心した。俺は組合から出ていくよ』
『そんな、どうして? わたしと貴方で、お仕事、順調だったのに……』
『賞金稼ぎで独立するのが俺の目標だったんだ。充分、剣の腕も上げた。きっと何とかなると思う』
『……』
『それで、その、まあ……これは提案、なんだけど』
『……?』
『俺と組合を抜けて、一緒に――』
世界を巡ってほしい。
ランプがわたしに申し出たのは突拍子もないことだった。
それでも、わたしは彼と一緒についていこうと決心した。
いつからだろう。ランプの隣りにずっといたいと思ったのは。
「危なっかしくて見てらんない」「全く、世話の焼ける人」――いつまで経っても素直になれないわたしに、彼は笑っていて、そんな彼の背中を追うのが当たり前になっていた。
ランプの剣技と、わたしの魔法。旅路は順風だったと思う。
たくさんたくさんお金も貯まり、随分余裕ができた頃……気付けば、彼とのその関係は、男女の仲へと変わっていた。
『嫌だ! ランプ、死なないで! わたしを一人にしないで!』
『……』
『ねえ、約束したじゃない! わたしと、ずっと一緒に――』
『……行け!』
「最後の仕事を無事に終えたら」――そんな矢先のことだった。
「故郷に戻って、腰を据えよう」――ランプは、今は遠くにいる。
せめて彼の敵を討とうと一人で世界を練り歩き、そうして、わたしは打ち捨てられたとある街へと到着した。
フレイヤ教の信者が集った、今では寂れた廃教会。
そこには、敵の……濡れ羽の色の鎧が、転がり落ちていた。
「仮に貴女が怨敵相手と再び対顔しようとも、たった一人で敵討ちなど、それこそ浅略だったのでは?」
「勝ち負けなんてどうでもよかった。同じ相手であったなら。わたしも敵に殺されたかった。意地を張ってただけだったの」
相棒のために「何かを為した」と、わたしは思いたかったのだ。
わたしも、あの時、ランプと一緒に……命を落としたかったのだ。
「……彼は最期に、貴女に対して生きてほしいと伝えたはず」
「契約違反よ。彼はわたしに、一緒に生きよう。そう言ったわ」
もはや敵は存在しない。生きる理由を失った。
女神様が見守る前で、わたしは自尽し、落命した。
パプリカ




