ヴァルハラ藹々
「はあ、はあ……っ! 自称女神、お願い! 助けてちょうだい!」
「?」
昼食の支度にいざ参らんと大食卓へと向かう途中、わたしは不意に呼び止められてくるりと後ろを振り向いた。
見やれば、リップが「ぜえぜえ」言いつつ、わたしのもとへと走ってくる。
すぐ後ろには双子の兄妹。
ははーん。わたしはにやりとした。
「笑ってないで、助けてったら!」
「何を?」
「見れば分かるでしょ!」
わたしの背後に回り、リップが縮こまって身を隠す。
しかしわたしの小さな身体に隠れることなどできはせず、敢えなく発見されてしまい、間もなく二人が追いついた。
「お母さんったら、全くもう! 逃げないでって言ってるでしょ!」
「なあ、ロメリア、少し落ち着け……」
「わたしは充分落ち着いてる!」
ぷんぷんしているロメリア嬢を兄のアルスが宥めている。
リップは何やら困った様子だ。視線を落としてしまっていた。
「リップ、どうしてそんな顔を? 貴女の可愛い実子でしょう?」
「それは、もちろんそうだけど……いろいろ突然すぎたから……」
「……」
「我が子と再会したのは、ほんとに嬉しかったけど……あたしにだって、心の準備や整理が必要だったのよ……」
「今更、いきなり母親面とか、できる立場じゃないんだし」――合わせる顔がなかったのだと、リップは静かに弁解した。
それを聞いて、子供たちは肩を落として、しゅんとする。
わたしは「えー、おほんおほん!」と、咳を払って開口した。
「アルス、ロメリア、リップはね、ほんとは会う気でいたの」
「え……?」
「うんとうんとお金を貯めて、二人に会う気でいたの」
「ちょ……っ!」
「いきなり何を言ってんのよ!」と、リップがわたしに食いかかる。
わたしは彼女を直視していた。
彼女は二の句を継げずにいた。
「リップ、貴女は手にしたお金をほとんど使わず、貯め込んでた。わたしに初めて会った時もお金のことを気にしてた」
「……」
「貴女の一人部屋には厚手の衣服が散らばってた。温暖気候の南の国では、防寒着、必要ないでしょう?」
つまり、リップは北の国へと立ち返ろうとしていたのだ。
故郷に帰り、自分の子供を迎えに行く気でいたのである。
「お母さん、ほんと? それ……」
「……」
「……」
「母さん……」
「……」
恥ずかしそうに外方を向いて、リップは「ぐぬぬ」と黙っていた。
「お母さん!」――ロメリア嬢が、満面笑顔で飛びかかる。
「お母さん、大好き! ぎゅうーっ!」
「わっ、わっ! ロメリア、こら……っ!」
「やだやだ! 絶対離さないから!」
「この子と来たら、全くもう……っ!」
嬉しそうなロメリア嬢に、わたしは内心、ほっとする。
アルスがわたしの隣りに立った。
彼も微かに笑っていた。
「アルスも、ぎゅうーっ! とすればいいのに」
「俺は幼稚じゃないんだ」
「……ふふ」
「再会できて、ほんとによかった」
「ね。ほんとによかったです」
戯れている母子に向かって、わたしは「そうだ」と提案する。
これから、親子水入らずで、一緒に昼食を作りましょう。
「あ、賛成! 楽しそう! お母さん、いいでしょ?」
「ええ……?」
「心配しなくて大丈夫! お兄ちゃんも、ほらほら!」
「ああ」
ロメリア嬢の左右のその手を、母と兄が繫いでいた。
「ラーズ様も、早く早く!」――彼女がこちらを振り向いた。
「せっかくですし、アスシア嬢も呼んで、合流しましょうか」
「アスシア嬢……?」
「あのね、あのね! それはね、お兄ちゃんの――」
「おいっ!」
「要らんことを言うんじゃない!」「えー、どうしてどうして?」と、今日も今日とて双子の兄妹は変わらず仲良しさんだった。
そんな愛息と愛娘を見て、リップもくすりと笑っている。
それは、確かに我が子を見守る、二人の実母の笑みだった。




