第1話 拠点の整備
冗長だという意見があったので少し短く詰めました。それに伴いプロローグ内のお話の整理もしました。もしお話が飛んだと感じられた場合は、前のお話から見て頂けると幸いです。
足下の感覚が戻った。
僕は目を開け、周囲を見回す。
青い空と海、そして白い砂浜は地球と同じ。
珊瑚礁的なものは発達していない。
日本の海ともそれほど変わりなく見える。
しかし海と反対側は明らかに日本と違う風景。
具体的には植生、つまりここから見える森に茂る樹木と下草、そして雑草のように生えている草が違う。
それが僕の目にはいかにも異世界と見えた。
この辺は事前情報の通り。
それにここは地球より若い恒星系だ。
動植物の進化具合も地球とは異なるのだろう。
事前資料によれば動物は爬虫類全盛期、植物は裸子植物やシダ類がメイン。
つまり地球上なら中生代相当。
被子植物や哺乳類も若干いるらしいので白亜紀期あたりだろうか。
地球と同じような進化をしているとは限らないけれど。
さて、この時点で目的3つのうち2つはほぼ達成。
息苦しい環境から脱出する事。
異世界への移住先がWebに記載している通りの場所であるか確認する事。
この2つ。
もう1つの目的は勿論ちひに会う事。
しかし探すにはそれなりに時間も手間もかかるだろう。
今すぐに何かどうこう出来るという話ではない。
それではこの世界での拠点を設置しよう。
草地と森の境目、森側にしようと思う。
理由は簡単、悪天候でも波をかぶらないだろうから。
木々が生い茂っているとはそういう事だ。
周囲を警戒する為、偵察魔法を起動する。
これは僕が構築した独自魔法のひとつ。
魔法を構成するマイクロマシンにはセンサー機能を持った一群が存在する。
視力と同等以上の光センサー、熱センサー、超音波センサー、更には磁気センサーから重力場センサーまで。
これらを活用し『認識可能な任意の場所で、任意の方向を任意の視野角で確認する魔法』。
これが僕の偵察魔法だ。
周囲をこの魔法で警戒しながら海と反対方向へと歩く。
此処は南半球で太陽が概ね後ろ海方向。
だから森に向かう方向が南側で海が北側。
事前に確認した地図でもそうなっている。
砂浜が終わりぽつぽつ草が生える場所となった。
日本にあるようなイネ科の雑草ではない。
平べったく幅がある長い葉が地面にだらんと伸びている形。
蘭と昆布を足し合わせたような植物だ。
知識魔法で確認する。
『ビアルネイパ:この付近で一般的な雑草。地球上で言うところの裸子植物でウェルウィッチアに近い。毒やトゲ等はないが一般に食用とはされない』
無害だが役にもたたない雑草の模様。
それにしても魔法は便利でいい。
偵察魔法も知識魔法も。
魔法そのものは惑星オースに現存している文明によるものではない。
もっと進んだ未知の技術だ。
ヘリオ・セス・デルタ型惑星開発による産物。
そうWebには書いてあった。
その開発がどのようなもので、どのような存在が計画し実行しているかは不明。
この世界ではそんな魔法技術をブラックボックス的に使っている。
理論や機構がわからないまま便利な道具として。
現代日本にあった一般的な電気機器と同じだ。
スマホを構成する理論や機構を意識して扱っている人がほとんどいないのと。
僕は魔法と視覚で有害なものがいないか注意しつつゆっくり森の入口部分へ。
乾いた草原から樹木が茂り始めている場所へと到着。
ただし日本の森とはかなり植物相が異なる。
主な樹木は枝が無くまっすぐな幹の上に巨大なシダっぽい葉がついている代物だ。
よく見ると巨大なゼンマイといった形の新芽がそこここの幹の天辺から生えている。
この樹木もシダ類なのだろうか。
知識魔法で確認しておこう。
『ヘイゴ:この付近で一般的な樹木。地球上で言うところのシダ類の一種。新芽の他、育った幹内部の芯も食用となる』
やはりシダ類だ。
この辺が拠点を置く場所として最適解だろう。
海が近く、波がかからない。
ただ地面が若干湿気ている模様。
そして何より木々や下草が邪魔だ。
だから造成してやろう。
ブルドーザー等の土木機械はない。
しかし今の僕には魔法がある。
『剪断魔法』
僕が独自開発したベクトル操作魔法のひとつ。
結果は意識した平面での剪断だ。
木々が倒れる方向も同様にベクトル操作魔法で操る。
具体的には俺から見て左側に向けて倒した。
これらを高熱魔法で分解して更地が完成。
ただ下が湿気ていて物を置いたら傷みそうだ。
周りより少し高くして、かつ乾かして固めた方がいいだろう。
背後を振り返り、砂浜の砂をアイテムボックス魔法で収納する。
この魔法、収納可能重量は術者の魔力依存で、今の僕の場合はおよそ2,700kgを収納可能。
いろいろ収納している現時点でもおよそ400kg程度は収納余力がある。
そんなアイテムボックス魔法で、
① 砂浜の砂を収納し、
② 今作った更地の上で取り出す
作業を繰り返す。
時々魔力が余分に減るのは砂に混じった小動物を一緒に収納してしまっているからだろう。
しかしこのくらいの魔力消費なら問題ない。
その上で、
① ある程度上の作業で砂を出して周囲より少し高くなった後
② 出した砂と熱分解した草木灰、下の土壌をベクトル操作魔法でこねくり交ぜて
③ やはりベクトル操作魔法で下方向に押し固めて
④ 高熱魔法で固くなるまで焼く
なんて作業を実施。
これで固くて乾いている拠点用地が完成だ。
なおこの拠点用地は全くの水平ではない。
少しだけこちらに向かって下がるよう整地した。
水はけをよくする為だ。
手前側の草地は砂交じりの地面。
流れた水を吸いこんでくれるだろう。
拠点をアイテムボックス魔法で拠点用地の上に出す。
出現したのはアルミ製のトラックコンテナ。
大きさと耐候性、頑丈さ、何より金額の安さという多項式の最適解だった。
本当は窓・扉付きのユニットハウスくらいは用意したかった。
それがこうなったのは資金の都合。
このコンテナ、頑丈さと耐候性は問題ない。
しかし防寒だの防暑、居住性は微妙。
その辺は魔法で対処する予定となっている。
さて、住む前に作業をしておこう。
まずは扉の簡単な改造だ。
コンテナの入口部分、扉を1箇所固定し、もう1箇所を外からロックできないようにしておく。
元々が家ではなくトラックコンテナ。
外から開け閉めし、鍵も外側からかける仕組み。
ここを改造しておかないと面倒な事になりかねない。
扉は両面開きで、後部全面が開くタイプ。
そのうち開けない左扉はロック棒を動かないよう魔法で加熱し溶かして固定。
もう片方はロック棒をやはり熱で溶かして除去。
魔法による作業は思った以上に簡単だ。
思い通りの温度に加熱可能で、思い通りの方向に動かせる。
扉外側の改造は思った以上にあっさり終わった。
内側は金具を両面テープで貼り付けるだけの予定。
これは後でいいだろう。
それでは扉の次に外装全般の補修。
一応雨漏りは無いらしいが念の為。
あとは内部の改装もやらないと。
内鍵をつけたりクッションフロアで防水したり等。
何せ安いコンテナだから居住に適していない。
その分は手作業でカバーだ。