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プロローグ2 夏季休暇を使って

 8月は割と自分の時間を取れる。

 お役所勤務だけに夏期特別休暇なんてものを強制的に取らされるから。

 ただ休みであっても実家にいては自由時間はとれない。

 これ幸いと面倒な家族に捕まるだけだ。


 父親に捕まった場合は事務所の手伝いをさせられたり下らない自慢話を聞かされたりする。

 祖父に捕まった場合は農作業の手伝い。

 母親や祖母に捕まったら買い物だの何だの。

 最悪な場合は近所の名家のお付き合いとやらにまで。


 だから僕は早朝から車を30分程走らせ、ネットカフェなんて所へと逃れた。

 防音でいかがわしい動画を見るにも最適な部屋へ入って一息。

 勿論こんな部屋を取ったのはエロ動画を見る為では無い。

 移住計画をこっそり進める為だ。


 今日は移住すべき場所を調べて予約した後、語学の勉強をする予定。

 防音の個室を借りたのは発音も伴う語学の勉強をするからだ。


 ちひのメールで知った異世界移住。

 まだ僕も完全に信じている訳では無い。


 それでもはまってしまった原因は大きく分けると2つ。

 異世界での生活に惹かれる事。

 そして現状から逃げたい事だ。


 ◇◇◇


 Webサイトで見る限り移住先は何処も自然が豊か。

 開拓者として移住する者に対しては広大な土地を無料提供。

 税金やその他の制度も優遇制度がある。


 もともとアウトドア的活動は好きだった。

 大学時代、旅行研究会の中で分派を作って春休みと夏休みはサバイバル活動なんて事をやっていた位だ。

 勿論ちひも分派メンバーの1人。

 だから自然豊かな土地で開拓生活なんて正直憧れる。

 

 現在のオースの科学技術水準そのものは地球の近代かそれ以前のレベル。

 しかし魔法のおかげで生活水準は低くない。


 この魔法の存在も僕を惹きつける魅力のひとつだ。

 惑星オースの魔法はファンタジーにあるようなものとは違う。

 クラークの第三法則『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』をまさに地で行くような存在だ。


 厳密にデザインされた遺伝子による生物型マイクロマシン。

 それらによる三次元と時間次元以上の空間まで使用可能なセンサー機能、エネルギー操作機能、情報ネットワーク機能の提供。

 それが惑星オース魔法の正体。


 地球上にもそのマイクロマシンは存在する。

 通常空間以上の次元を使用して存在を隠蔽したりするので確認は不可能。

 また濃度が惑星オースより遙かに低いのでそのままでは魔法を起動する事も出来ない。


 そんな地球上でも例外的に魔法を起動する方法はある。

 マイクロマシンを集める効果がある魔法陣を四隅に設置するのだ。

 24時間程度で付近に存在するマイクロマシンが周囲から集まってくる。

 結果、惑星オース上ほどの威力はないまでも魔法を起動できるようになる訳だ。


 ちひの住んでいたアパートを確認しに行った翌々日、実験をしてみた。

 机の上に鍋敷きを置き、その上に水が入った鍋を置く。

 その中に温度計を入れ、温度計の表示が写るようスマホで動画を撮影する。

 その条件で加熱魔法と冷却魔法を起動。


 結果、鍋の中の水はそれぞれの魔法で沸騰し、凍り付いた。

 僕の目で見ても、動画の記録でもそうだった。

 この時点で僕はこの異世界移住のWebサイトが、少なくとも地球の科学知識を超えるものではある事を受け入れたのだ。


 勿論そんな技術を持っているからと言って、異世界移住が詐欺ではないという保証はない。

 異世界移住に際して地球の科学を超える事は必要条件。

 しかし十分条件ではないから。

 それでも興味を持つに値する物である事は認めざるを得ない。

 ちひが興味を持つだろう事も想像できる。


 ◇◇◇


 更に僕は現在の、自分を取り巻く環境に嫌気がさしている。

 四六時中何処かへ逃げ出したいなんて思っていたりする。

 此処ではない何処かへと。


 うちは田舎のこの付近では名家とされている。

 少なくとも僕以外の住人はそう自認している。

 家長は代々市会議員を務めていて、僕も将来議員になる事を前提に役場勤め。


 しかし僕から見ると同居する父方の祖父祖母、そして両親ともに尊大だが頭が悪い時代遅れの老人だ。

 気位だけは高く平気で散財しまくる。

 しかし実収入は父親の市議会議員としての報酬しか無い。

 祖父母は田や畑も持っているが既に自給用作物だけの状態。


 結果、家計は火の車。

 気がつくと僕の給料まで家計に組み込まれている始末。

 食費と光熱費、アパートを借りた場合の家賃を引かれる程度ならまだ納得できる。

 しかし手取り18万円まるまる消えるというのは納得できない。

 一戸建てすら4万円で借りられる田舎なのに。


 給料を横取りした手口はすぐに判明。

 ATM用のカード、いつの間にか家族用という事でもう1つ作られていた。

 通帳を机の引き出しに入れていたのが敗因だ。

 預金口座を変えたくとも給与振込先は地元信用金庫1行しか指定されていない。


 仕方なく奨学金の返済額を最大限にして給料から自動引き落としにし、更に簡単に下ろせない定期口座繰入額を増やす。

 少しでも取られないようにという作戦だ。

 結果、次の給料日の翌日にお金が無いと母から苦情が来た。

 だったら無駄遣いをするなと文句を言った。

 そうしたら母と祖父と祖母3人に両親は敬うべきだとか長幼の序とか、2時間くらい中身のない説教を食らった。


 定期口座への繰入額は元に戻さざるを得なかった。

 奨学金は早々と返納完了できた。

 そして現在でも自分が使える金はあまりない。


 他にも実家については文句がいくらでも出る。

 不意打ちで婚約させられそうになった話とか。

 でもこの辺にしておこう。

 きりがないから。

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