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act 6

「貴族の間で流行ったら、一般市民の間にも浸透するんじゃないか?」

「だといいよな」

「これもふたを開けてみないとわからないか。とりあえず、出来る準備だけしよう」

オリヴィエ殿下の言葉に頷いて、次に続ける。


「だな。でもさ、当日、俺達だけが滑るのはなんだし、スノボに必要な一式をレンタル出来るようにして、集まった人達にも滑ってもらえるようにしたらどうだろう?」

「あー、その方がわかりやすいよな。じゃあ、その一式をどれくらい用意する? スキー場でレンタル管理出来るよう寄贈しようか」

「そうだな。成人男性十五セット、成人女性五セットぐらいでどうだろ? 当日は、貸し出し無料にして」

「王家でも用意出来ないか聞いてみるな。作ってくれる工房は今のところ、一軒だけだろ? 俺自身の分も合わせて間に合うかな。他の工房に掛け合ってみるかな」

「なら、おススメの工房がないかリサーチしておくよ。あとはヘルメットをどうするかだな。これからスノボを楽しむ人達が、みんなちゃんとした魔術師に頼むとは限らないから、必要と言えば必要かとも思うんだけど」

「そこだよなあ。頼まない人にこそメットが必要なんだけどな」

「魔術強制にするわけにもいかないからなあ。初めから、かぶるものなんだってイメージ定着させた方が良い気もする」

「じゃあ、レンタル一式に加えておくか? あとは自己責任で。魔術推奨を強くおすのは忘れずに。それからヘルメットはスキー用のものを参考にして作成してもらおうか」

「はじめのうちはかけてもらう魔術にも隙があるかもしれないしな。そうしよう」







「お父様もお母様も反対じゃないけど、心配だわ。ユリウスがオリヴィエ殿下と発案したイベントだからゴーサインを出したけど、危ない事はしないでね?」

「大丈夫です、母上。僕達は麓側の家族連れエリアで転び方の練習からなので。それにデューレ団長の術が守ってくれてます」

「ユリウスは次から次によく思い付くな。私達もどこまでやらせていいのか見極めるのが難しい」

「父上……、無理はしないつもりです」

「良い心がけだ」



ひと月が経ち、あっという間にその日はやってきた。


天気は快晴。


オリヴィエ殿下も参加するとあって、国中の貴族が招待客に名を連ねる事態となったナザリハインド山脈にあるスキー場は、前代未聞の様相を見せていた。

貸切にはなっているものの、ロビーは貴族の従者達が溢れて、ゲレンデ前にはスキー客とは程遠い格好の貴族達がひしめき合っている。


そんな中でコケる練習をするのも複雑だけど、前世での経験があるとは言え、幼児でしかない今、必要なことから身に付けるのは重要だ。なるようにしかならないのもあるけれど。


三十代になったばかりの金髪の父に頭を撫でられて、よしと気合いを入れ、観客エリアの一番前に並ぶ王家の皆様達に一礼して、オリヴィエ殿下が出てくるのを待つ。

ちなみに母はあと二年で三十代だ。


オリヴィエ殿下も俺と同じように、国王陛下と王妃様に釘を刺されたようで、渋い顔でゲレンデに出てきて、お互いに苦笑する。


グレーのスノボ用ブーツで雪の感触を確かめながら、板を片手に滑り始める場所まで歩く。


結局ヘルメットは薄くても軽くて丈夫な金属製のものになった。竜の牙を削り出して使う案もあったけど、コストがかかり過ぎるので、こちらの案になった。

スキー客も魔術推奨になっているために、ヘルメットをつけている人を見かける事はそんなにないのだけれど、魔術が安定して定着するまではこのヘルメットを率先して着用しようかなと思っている。着けていて冷たいのは、中にニット帽をかぶる事でカバーだ。

デューレ団長もこの後滑ることになっているから、整うまでにそんなに時間はかからないはずだ。


後は最低限必要な魔術をまとめて、必要な物一式の製作方法もまとめて、いつでも広められるようにしておくだけだ。


「王家お抱えの職人は流石に違いますね」

「馴染みがないとはいえ、臨機応変に対応するのも仕事だからな。探してくれたのに悪い」

「いえ、王家と情報共有が可能になって幸運です」


オリヴィエ殿下の黒を基調として赤いラインの入ったウェアは、王家に仕える職人の手によるもので、黒い板ともよく合っている。

俺が着ている水色のトップスと黒のボトムス、水色と黄色、紫のぼやけた水玉模様の板はお気に入りだけど、まとまりには欠けるかもしれない。


そんな事に気を取られながら、ようやく滑り始める地点に到着する。


「じゃあ、ユリウスから」

「俺からですか」


手袋をはめてゴーグルを下げ、板を雪面につけてブーツを固定する。いよいよ、初滑りだ。

足元がおぼつかなくて立っているのがやっとなものの、すぅーっとゆっくり前に滑り出す。

緊張で変なところに力が入っているのかもしれない。腰の下あたりが固まってる気がする。


「ユリウス、うまいな! じゃあ、俺もいきますか!」


最初からフルスロットルで俺のスタート地点よりも距離を取ったオリヴィエ殿下がやわらかい雪を巻き上げ、俺を追い越し、ズザザザと派手にコケている。

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