六年生になりました
とうとう最高学年になりました。
六年生になっても相変わらず亮くんと一緒のクラスです。
今年はかなちゃんも由紀乃ちゃんも一緒になりました。
「修学旅行楽しみだね~」
「かなちゃん、まだ半年近く後だよ」
「いいの。一緒の班になろうね、由紀乃ちゃん、晶子ちゃん」
「そうだね~」
給食を食べながらにこにこしてるかなちゃん。
由紀乃ちゃんは去年あたりから段々クールになっていってる。何があったんだろうね?
小学生の最大のイベントと言えば、修学旅行ですよね。
自然学習とか、遠足も楽しかったけど、特筆すべき事はなかったのです。
「修学旅行って、京都、奈良でしょ? しかもお寺と神社巡りじゃ楽しくなさそう」
「由紀乃ちゃんノリ悪い~。自由行動あるんだから、そこでいっぱい遊ぶのよ!」
なんだかんだ言いつつもかなちゃんの話にのってあげる由紀乃ちゃん。
仲良いね。良いことだわ。
そう言えば、この二人が喧嘩してるのって見たことないわ。多少の言い合いはあっても、わりとすぐに仲直りっていうか、意見がまとまるからなぁ。
二人の話を聞き流しながらそんなことを考えていたら、いつのまにか授業が始まる五分前になってた。
ピアノ教室ではかなちゃんが凄く上達していってて、楽譜の進み具合が大分違うようになってきた。
まぁ、私はマイペースにやっています。
特に嫉妬とか焦りは感じない。だってかなちゃん楽しそうだし、すっごく上手いんだもん。
前の人生と比べて、充実した日々を過ごせている、と実感できる。
勉強もピアノも投げ出すことは今のところ無いし、友達とも壁を作らず本音で付き合えている。
何より、光希が生きてる。両親が仲が良い…若干暑苦しいくらい仲良過ぎるけども。
「あと、やりたいことって、何だろう?」
高校で入った調理部は楽しかったからまた入りたいな。
中学では吹奏楽部を途中で行かなく…いわゆる幽霊部員になっちゃってたからなぁ。
ピアノ教室続けるなら、吹奏楽じゃなくて、家庭科部かな? 確かあった気がする。
「……いつか、月光とか弾いてみたいなぁ」
「ピアノか?」
「ぅわぁっ!! …って、亮くん。ビックリした~」
「悪い。一応ノックはしたんだが、いつまで経っても返事がないから」
自室の勉強机で宿題しながら呟いてたら、後ろから覗き込んできた亮くん。
いつノックしたの? 全く聴こえてなかったわ。
椅子ごと体をくるりと回転させる。いわゆる事務椅子みたいな仕様なんですよ。
亮くんは光希の椅子に座りました。
まぁいつものことです。
「どうしたの? 何か約束あったっけ?」
「約束は特に無いよ。父さんがおじさんと呑むんだって」
お父さん同士の約束でしたか。
そして当然のように連れて来られたんですね。分かります。
「呑むって……まだ三時過ぎだよ? 早くない?」
「さぁ?」
しかもお父さん、光希迎えに行ったから今居ないよ。
おじさん何してるの? え、リビングに置いてきたの? 一人じゃないか。可哀想だよ。
自分の父親を全く気にしてない亮くんを連れて、リビングへ向かう。
一人で居るのかとちょっと心配になりながら来たけれど、リビングにはおじさんだけじゃなく敦さんもいた。
先に言ってよ。変な同情しちゃったじゃない。
「晶子ちゃん、おじゃましてます」
「久しぶりだね、晶子ちゃん」
「こんにちは、おじさん、敦さん」
二人ともにこやかにソファで寛いでます。
あれ、ここ私のうちだよね?
何か、亮くんといい、おじさん達といい、勝手知ったる感が半端無くないか? 私の気のせい? どこのうちもこんな感じなのかな?
向かいのソファに亮くんと一緒に座れば、お母さんがキッチンからお茶を持ってきてくれた。素早いです。
おじさん達は三人掛けのソファ。私と亮くんは二人掛けのソファ。お母さんはダイニングの椅子に座ってます。
「いつも亮太と遊んでくれてありがとうね」
「こいつ晶子ちゃんが大好きだからなぁ」
ハハハ、と笑いながら言うおじさんと敦さん。
ちょっと、変なことを言わないでくれないか、敦さん。
慌てた私を知ってか知らずか、亮くんは私の隣で当然のように頷いた。
「当たり前だろ」
「うぇっ!? り、亮くん?」
「なんだ? 晶子は俺が嫌いか?」
ビックリしたら逆に聞かれてしまった。
やめて、そんな純粋に真っ直ぐ見つめないで。私が間違ってるみたいじゃない。
亮くんの視線に耐えられず、好きだよ。と、言わされました。
凄くちっさな声だったけどね。バッチリ聞こえた亮くんは満足そうです。
おじさんと敦さん、ついでにお母さんまで満足そうに笑顔になるの、やめて欲しいな。
生暖かい大人達の空気になんとか耐えていると、光希とお父さんが帰ってきた。
「ただいまー! あっ、亮太くんっ!」
「ただいま。おや、いらっしゃい」
お父さん達が挨拶を交わしているうちに、光希がさっと荷物を片付け手を洗い、私とは逆の亮くんの隣に座った。
「ちょ、光希! 狭い狭いっ」
なんでそこに、てか、私が退けば良いのか。
そう思って立とうとしたけど、亮くんが体重をかけるようにこっちに来たので、ソファの肘掛けと亮くんにガッチリ挟まれて動けなくなった。
ちょ、マジで狭い。
「亮太くん聞いて! 僕今日ツーベースヒット打った!」
「へぇ、凄いじゃないか。光希は走るのも早いのか?」
「ちょっと早いけど呑み始めるか?」
「父さん、流石に早すぎるよ」
「ハハハ、桑崎さんは本当に呑むのが好きだなぁ。先に何かつまむもの作ってしまおうか」
「お父さん、桑崎さんにハム戴いたの。おもたせだけれど、焼きましょうか」
……皆さんマイペースっすね。
お願いだから、私と亮くんのこのあり得ない距離感に突っ込もうよ。私もう半分亮くんの膝の上だよ? ……あ、膝だっこに完全移行しました。
なんで亮くんは私の方を見ることなくナチュラルにそういうことをするの?
私ちゃんと六年生女子の平均体重あるよ? そんな猫か何かみたいに持ち上げないでください。
「………はぁ、」
人間諦めが肝心ですね。もう突っ込む気力もないよ。




