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平和な日常

いくら言葉を尽くして否定しても、その直後の亮くんの行動1つーー頭をポンポンしたり、私の荷物を持ったり、手を引いて歩いたりーーで元の木阿弥。

消えない噂に半分諦めモードになった。

五年生です。


「由紀乃ちゃん、大変だ!」

「おはよう晶子ちゃん。なんとなく分かるけど、一応聞くね。…どうしたの?」

「呆れた顔してる! でも言う! リコーダー忘れた!!」


今年は由紀乃ちゃんが一緒のクラスです。


教室に着くなり由紀乃ちゃんの席に来た私に、ランドセルくらい置きなよ。とため息を吐き呆れた表情をする由紀乃ちゃん。

年々凛々しい感じになっていくのは、気のせいかな? まぁ格好いいからいいけど。


「リコーダー忘れるって……それどうしようもないじゃない。素直に忘れたって言うしかないよ」

「だって今日はリコーダーのテストだよっ? テストは受けなきゃダメなんだよっ? ………か、貸して?」


分かってる。

リコーダーなんて貸し借りするようなものではない。

特に思春期きちゃってる小学生なんて、間接キスだとか何だとかで敏感な時期ですよね。

由紀乃ちゃんがものすごい嫌そうな表情をした。


「嫌だし。晶子ちゃんが嫌いな訳じゃないけど、リコーダーだよ? ムリムリ」

「だ~よ~ねぇ~……」


たかが小学生のテスト。だけど、結構な練習してたんだもん。やっぱりちゃんと評価が欲しいのよ。

今回の人生、やれることはきちんとやっておきたい。


「ふぐぅ……光希はまだリコーダー使ってないし……」

「弟のもどうかと……、晶子ちゃん」

「ん? 貸してくれるの?」


どうしようかと机に突っ伏すと、由紀乃ちゃんが何か思い付いたのか、右手を拳にして左手にポン、と軽く叩いた。


顔を上げれば、にっこり笑った由紀乃ちゃん。やな予感。


「桑崎君に借りなさい」

「言うと思ったー!!」


予感的中! 嬉しくないっ!


「何で亮くんなの!? 由紀乃ちゃんよりハードル高くない?ムリムリムリ!!」

「何が無理なんだ?」

「だって亮くんのリコーダー借りる、と、か………え?」


勢い良く首を横に振っていたら、後ろから低めの声が……

由紀乃ちゃん。視線が明後日にいってるよ? 助けて……くれないんですね。分かります。


ゆっくり後ろに顔を向ければ、今登校してきたばかりなのか、ランドセルを背負ったままの亮くんが立っていた。


「おはよー、亮くん」

「おはよう。晶子、リコーダー忘れたのか?」


わぁ、がっつり聞かれてるわぁ。

隠しても仕方ないので頷けば、亮くんは仕方ないなぁ、みたいに軽くため息を吐いた。


「せ、先生に言って、私だけ別の日にやってもら、」

「テストは名簿順だろ? 貸すから、今日受けろよ」


……、はい。

普段と変わらない表情で言われると、間接キスうんぬん考えてる私がおかしいみたいじゃないか。自意識過剰なの? 私?

由紀乃ちゃんはニヤニヤして見てるだけだし。他の子も、あぁまたか。的にスルーしてます。




何でしょうかね。最近気が抜けすぎてるような?

学年が上がって、光希が生きているのを実感して、注意力散漫すぎる。


「晶子、最近ぼうっとしすぎてないか? 大丈夫か?」


額に手を当てられながら本気のトーンで心配されました。

亮くんのみならず、お父さんにまで……

いらぬ心配かけちゃってるわ。気をつくなくっちゃね。


とか思ってたのに、今日は国語の教科書忘れました。


「かなちゃ~んっ国語の教科書かして~っ!」

「晶子……」

「桑崎君、晶子ちゃんは頭打ったりしたの?」


慌てて教室を飛び出した私を、亮くんと由紀乃ちゃんが深いため息を吐いて見てたのなんて、知りません。


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