新しい人生
「しょーこー! 早くしなさーい!」
「ちょっとまってー!」
朝早くからドタバタと準備して、気付けばもう十時過ぎてしまいました。
おかしいな、昨日ちゃんと服もアクセサリーもメイク道具も準備しておいたのに、何でこんなに時間がなくなるの?
「お待たせっ、まさか財布がバッグに入らないとはっ!」
「もぅ、だからバッグとセットのを買いなさいって言ったのに」
「母さんその辺で。時間あんまりないよ」
「ほら、二人とも乗って。行くよ~」
「「はーい」」
光希とお父さんに急かされ車に乗り込む。
直ぐに出発した車は、特に渋滞にハマることなくホテルに着きました。
ロビーへ行けば、亮くんが一人ソファで寛いでいました。
……絵になりますね。周囲の女の人達の目がハートですよ。
中学でぐんと伸びた筈の亮くんの身長は止まらず、高校卒業前には百九十センチに届きそうなまでになりました。
光希はやっと百八十センチになったと喜んでました。
ちなみに二人ともまだ伸びてる模様。いつ止まるのか……。
私の身長? ははは。とりあえず亮くんの横に並ぶなら五センチ以上のヒールが必要ですね。首が痛いの、物理的に。
「亮太君。本日はおめでとうございます」
「有り難うございます。母さん達はまだ控え室に居るので、先にチャペルへ行きましょう」
お父さんの言葉に合わせて皆でお辞儀する。亮くんも微笑みながらお辞儀しました。
なんと! 今日は!
敦さんの結婚式です!
亮くんと、色々なことを告白しあった日から、約一年。
亮くんの計画 (?)はうちの家族と亮くんの家族を巻き込み、本当に敦さんの結婚を纏めてしまいました。
敦さんの彼女さん、恭子さんは、敦さんと中学生からの同級生だそうです。
高校から付き合いだしたけれど、高三の時に事故に合って車イス生活になってしまいました。
敦さんと別れる。と言っていたそうですが、敦さんはそれを拒否。
恭子さんのご両親に直談判して結婚をもぎ取ったとか。
まぁ、亮くんのお兄さんだもの。車イスになったくらいで別れるとか、有り得ませんよね。
「わぁ~、綺麗」
「そうだな。来年が楽しみだ」
「亮くん…」
チャペルにはステンドグラスが沢山ありました。
時間的にタイミングが良いのか、光が差し込んだステンドグラスの影がバージンロードを色とりどりに染めていて素敵です。
感動してため息を吐けば、隣にきた亮くんが楽しそうに呟きました。
今日、敦さんと恭子さんの結婚式をするこのホテル。
来年には私と亮くんが、更に言えば、再来年には光希と早苗ちゃんが式を挙げるのです。
予定ではなく、決定事項です。ちなみに日付も押さえてあるそうです。
早苗ちゃんと二人、叫んだのは記憶に新しいです。
「晶子、進路は決まったのか?」
「うん。やっぱり調理師学校にするわ」
`前´とは違っても良いと亮くんに言われて、本当にやりたいことを考えました。
そして、お母さんとも先生とも色々相談して、三駅向こうにある食物調理専門学校? に行くことに決めました。
家から通える距離です。亮くんにもオッケーを貰えましたよ。
将来の夢というほど壮大ではないけれど、出来れば洋菓子屋さんに就職したいな。と思いまして。
早苗ちゃんの家のある商店街にあった、小さなケーキ屋さんみたいなお店、良いよね。こじんまりしているけど、アットホームな感じで。
「亮くんは、やっぱりS大?」
「そうだな。行きたい学部で一番近いのはあそこだし、オープンキャンパスで興味を引く教授がいたからな」
「そっかぁ。…詳しくは聞かないからね、聞いても理解出来ないし」
最近亮くんの興味が理数系特有になってきて、言ってる意味が解んないんだよね。
まぁ、やりたいことが増えたらしいので、楽しそうなんですけどね。
「晶子、亮太君、そろそろ始まるわよ」
「はぁい」
「はい、じゃあまた後でな」
お母さんに声を掛けられて、チャペルのベンチ? へ移動します。
亮くんは家族なので、前の方。私達は一応友人枠? みたいな扱いらしいので、後ろの方ですね。
おばさん達に言わせれば、親族で良いんじゃない? って感じらしいんですが、恭子さんの親族さん達に不思議に思われますから。自重大事。
「大変お待たせいたしました。ただいまより………」
スタッフのお姉さんの綺麗な声で結婚式が始まりました。
「………はぁ~、恭子さん綺麗だった」
「お料理も美味しかったわ~」
「姉ちゃんの時は、ドレス、木内さん? に頼むんだっけ?」
「そうだよ~。木内君が良いよって言ってくれて良かったよ」
「この前デザイン画を見せてくれた男の子だよな? いやぁ、凄いよなぁ、あんなに沢山のドレスデザインがするする出てくるんだもん」
式と披露宴が終わって、おうちに帰って来ました。
リビングで四人、だらぁ…っと寛いでます。
亮くんは流石に今日は帰りましたよ。敦さんの門出ですのでね。家族水入らず、大事です。
「はぁ~、来年は晶子が、再来年には光希が結婚ねぇ。楽しみだわぁ」
「はは、お母さんは若いおばぁちゃんになりたいって昔から言ってたからなぁ」
「やあねぇお父さん。孫と歩いてて、親子に間違われたいのよ~」
お母さんとお父さんの会話に、ちょっとびっくりしました。
孫? 早すぎません? 先に就職させて?
ほら、光希もちょっと呆れた表情してますよ?
私と光希の結婚式の費用は、親から借金となります。
亮くんも光希もちゃんと自分のお金でやりたかったようですが、だったら就職してからだね。って言ったら、親に借りると手のひら返しました。
借りたからちゃんと返すんだと言ってます。
まぁ、現金じゃなく、旅行とか食事とかで返すつもりです。
「さて。明日も学校だし、お風呂入って寝よーっと」
「そうね~。じゃあ明日のご飯仕掛けとかなくちゃ」
「あ、明日持ってくものあったんだった」
「お父さんは有休取ったから風呂は最後で良いぞ~。明日は写真を現像するかな」
四人、それぞれに動き出す。
お風呂場へ向かいながら、自分の家族の顔を見て、クスリと笑みが溢れる。
こういう、何気ない日常が一番大切だと、一番うれしいと感じる。
両親がいて、光希がいて、明日になれば亮くんにも会える。
私の`人生´は、まだまだこれから、ずっと続いていく。
亮くんの隣で、いつか、`前の人生´を笑いながら、何でもないことのように振り返る日がくるように。
私は`生きて´いく。
これで、一応終わりです。
読了有り難うございました!
あとがき的なのは、活動報告にて。