06 あの日の出会いと嘘のない日
すべての騒乱が終わり、穏やかな夕暮れがテラスを黄金色に染めていた。
私はルーカス様の膝に頭を預け、彼が私の髪を優しくなで、私は完全に彼に身を委ねていた。
「ねえ、ルーカス様。……どうして、そんなに私を大切にしてくださるのですか?」
ふと、ずっと気になっていたことを口にした。
前世で彼が私のために時を戻したとき、彼は私に「一度も愛していると言ったことがなかった」と嘆いていた。でも、私を想うその執着は、あまりにも深く、あまりにも長かった。
ルーカス様の手が、一瞬だけ止まる。
彼は懐かしむように目を細め、静かに語り始めた。
「……君は覚えていないだろうな。十五年も前のことだ」
彼は、王妃である母を亡くし、世界が灰色の絶望に包まれていた日のことを話し始めた。
幼いルーカス様は、王宮の裏庭で一人、泣き崩れていたという。誰にも見せられない子供の脆さを露呈し、明日さえ見えなくなっていた暗い日。
そこに、偶然迷い込んだ小さな女の子がいた。
当時、王宮の招宴についてきていた五歳の私。
「君は、泣いている俺を見つけても怖がらずに、ただそばに座ってくれたんだ」
彼は、幼い日の私の声を再現するように、低く柔らかな声で言った。
「『悲しい時は、空を見てね。お空の向こうで、誰かがずっとあなたを見ていてくれるから』と。……君はそう言って、俺の手をぎゅっと握ってくれたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に、まるで古い写真がセピア色に染まっていくような感覚が蘇った。
……そう、あった。そんな記憶が、確かに。
小さな手が、誰かの冷たい掌を包み込んだ、温かな感触。忘れていたはずの幼い日の記憶が、今、鮮やかに胸の中に花開く。
「……あの日、手を握ったのは、私だったのね」
私は驚いて彼を見上げた。彼の瞳に浮かぶのは、嘘偽りのない、二十年越しにようやく花開いた純粋な初恋の輝きだ。
「その日から、君は俺の光になった。……でも、ガレウス王の陰謀が渦巻くあの王宮で、君を守り抜くためには、俺は冷徹な仮面を被らなければならなかったんだ。君を誰にも狙われないように、俺自身の手で君から距離を置くしかなかった」
彼の手が、私の頬を優しく撫でる。
それは、彼が守りたかったのは王冠ではなく、ただ私一人だったという切実な告白だった。
「俺は、君をずっと追いかけていた。……けれど、君は俺のことなど忘れてしまっていた。それが、俺にとっては、唯一の『嘘のない、残酷な真実』だった」
胸が、締め付けられるほど熱くなった。
私は彼の手を両手で包み込み、その手の甲に何度も口づけをした。
「……忘れてしまっていて、ごめんなさい。あんなに私を守るために苦しんでいたのに」
「いいや。君が俺を忘れていたからこそ、俺は何度でも君に恋をすることができた。……俺の最初の救いが、俺の最後の愛になる。これ以上の奇跡が、この世にあるかい?」
彼は優しく微笑むと、私をしっかりと抱きしめた。
私の瞳には、もう彼を偽るものも、彼を憎む理由もない。
空を見上げると、そこにはあの日彼が見上げたのと同じ、広い空が広がっている。
もう、一人じゃない。今の私たちは、二人で手を取り合い、この空の下で、嘘のない人生を歩んでいけるのだから。
完
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