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僕の仲間には生きてる人がいません  作者: らんこ
六章 旅する理由
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旅の理由

 私はクロエ、今年で十五歳(さんじゅうさん)になる。カーミラがくれた奇跡で私とサニアは再び人間として生きる機会を得た。

 街へ帰る馬車の中、浴びる風、秋のにおい、触れ合う肌の感触、全てが真新しく感じて私達はどんな些細なことにも胸をときめかせた。

 それほどまでに生というものは素晴らしく尊い、掛け替えのないものだと実感する。


 サニアがリュウに甘える、そこに私が割り込んで皆で揉みくちゃになる……いつものそんな遣り取りが温かく柔らかな感触と沢山の幸せで私達を包む。ああ……私は今、生きているんだ……


 旅の街に着くと、直ぐに大騒ぎになった。山賊を討伐した私達を讃える声、生き返ったサニアを見て失神するお母様、そして何故かサニアの家に泊まり込んでいたカーミラとキルケーが巻き起こす破廉恥な騒動の数々……


 カーミラはあれから一足先に旅の街へやってきて、リュウの母を名乗って居座っているらしい。見た目は十七~八にしか見えないのに母は不自然だろうといつも思う、そして予告通りというか前から煩わしかった不自然に大きな胸は益々大きくなっていた。


「リュウ君!サニアちゃんやクロエちゃんばかり構ってずるいよ!ほら、また祝福(キス)しよ?ね?」


「あのねぇ……母親を名乗るんならもう少しお母さんらしくしてくださいよ……普通は母子でそんなことしませんから……」


「じゃ、じゃあ従姉にする!」


 こんな風に毎日リュウを追い掛け回しては破廉恥な誘惑を続けている。人間になり肉欲に目覚めた彼女は初めての感覚にやや暴走気味だった。必死すぎて怖いのかリュウは完全に怯えている。

 いつか彼女も私やサニアのように家族の一員になるんじゃないだろうか……またしてもリュウの甲斐性が試されるだろう。

 因みに彼女の肉欲は同性の私達へも向いている、制御不能になった欲望というのはかくも恐ろしいものなのか。


 旅の街での休息を経て、私達は再び旅に出た。今度は目的ある旅ではない、強いてひとつ目的を挙げるなら出会った人達との再会のための旅だ。



 まず訪れたのは海の街だ。悲しい死を遂げたルアさんの御家族を探して周り、彼女は今天国で彼と共に平和に暮らしていることを伝えた。ついでにキルケーを家まで送り届けてきた、この子がいるとまた余計な騒ぎを起こすので帰ってもらうことにしたのだが……どうせ転移魔法を使ってちょくちょく顔を見せに現れるのだろう。


 次に王都へ赴いた、王立協会の会長さんへ旅の顛末を報告するためだ。彼ならこの荒唐無稽な冒険の話も信じてくれるだろう。


「いやいや……悪魔に神様とな……前に会ったボインちゃんが神様だったんじゃろ……はぁーっ長生きはするもんじゃな」


「それで死霊だった二人がこうして生き返りまして……神の奇跡というほかないですね」


「どれどれ……はぁーっ!クロエちゃん、ほっぺがぷにぷにじゃの!前に会ったときは何かに触れとるくらいの感触しかなかったのに……してサニアちゃんはお腹はどうなったかの?」


「あっ、もうすっかりです。ほら」


「ひぁーっ!こりゃたまげた!綺麗さっぱり穴が無くなっとる!!ううーむ、やっぱり奇跡なんじゃなぁ……凄まじいのう。ワシもついて行けばよかったわい……」


「お爺様には長旅は辛う御座いますわ、それに山賊との戦いも大変でしたのよ?」


「ほほーっ!して山賊共どうやってやっつけたんじゃ?」


 こうして私達の小さな武勇伝を口々に自慢しあった。サニアが岩を持ち上げて軽々投げ飛ばしたり、私が山賊を殴り倒したり、最後にはリュウが山賊の鉈を両断したり……少し大げさにしてしまったかもしれないが、今となっては楽しい思い出話だ。



 お爺様に別れを告げて、私達は宿場町へ向かった。リュウがお世話になった鍛冶屋の親方さんへご挨拶に伺うためだ。


「よぉ!坊主!おめぇ随分と男らしくなったんじゃねぇか?女でも出来たか?それとも人の二三人でも斬ってきたか?」


「あはは……流石に誰も斬ってませんよ。ただ西の山賊達を皆で討伐してきましたよ!国から報奨金も沢山貰えましたし」


「はぁーっ!あの根性なしの坊主が山賊退治?!信じらんねえな!アッハッハッ!!」


「あれ?そちらの方は」


「ああこいつか?こいつは俺の女房よ、息子が死んで塞ぎ込んじまってな……まあ俺もだったんだが。おめぇが来てからまた誰かと働くのも悪くねぇと思ってよ、まずは女房を誘ってみたのよ」


「夫が大変お世話になりまして……感謝の言葉もございません。あれから夫は憑き物が落ちたように元気になりまして、今では夫婦でこうして楽しく働いています」


「奥さんもお元気になられて本当に良かった。親方さん今度は二人で旅の街に遊びにきてくださいよ。うちの親方も喜ぶはずですから」


「ああ!近いうちにな!おめぇもまたこいよ!リュウ!」



 次に向かったのは商人の街だ、ただここは碌な思い出がないため通り過ぎた。二度と立ち寄るものか。


 最後に向かったのは森の都、私の故郷だ。早速、領主(アリア)に山賊討伐とリュウ救出の報告をしてあげよう。きっと首を長くして待っているに違いない。


「お帰りなさい!リュウさん、サニアさん、姉様!心配しておりました……もしもの事があったらどうしようかと」


「水臭いじゃないか、そろいも揃って私に内緒だなんて。少年の一大事とあれば私もついて行ったのに」


「ニアさんごめんなさい。知らせたらきっと寝込んでしまうと思って……」


「あ、いやまあ確かに……正常でいられる自信はあまりないかな……」


「そうそう、アリア。何か気付かないかしら?」


「何です?姉様」


「ふふ、顔をこちらに。そうそう私の前にね」


 (アリア)が顔を寄せてくる、その額にカーミラのように祝福(キス)をしてやった。


「私の可愛いアリア、どうかしら?何か気付かない?」


「あれ?感触が……姉様……そのお体……」


「そうよ?私は生き返ったの。あっ、でもここへ帰ってくるとややこしいことになるから私は旅の街に住むわね。リュウの所へ嫁ぐことにしたから」


「い!生き返った……?そんな奇跡が……ううん何よりも姉様が生き返えるなんて何て素晴らしい奇跡でしょう!気を遣わずともいつでも帰っていらしてください……今やたった一人の肉親なのですから。それにご結婚まで……なんとお目出度いことで――――」


「アリア?しっかりなさい。アリアってば」


「い、いえ取り乱してすみません……ちなみによく聞こえなかったのですがどなたと……」


「だからリュウよ、旅の街のリュウ!どう?羨ましいでしょう?」


「……」


「……」


 アリアもニーアもすっかり固まっている。こうして二人に悪戯をするのも子供の頃に戻ったようで楽しい。


「あ、ちなみに私もです。平民には結婚の決まりごとは殆どないので……」


「それなら私も少年のところへ嫁いでも何ら問題はないわけだね?!残念だったねアリアちゃん!」


「ちょっと!ニアちゃん!!裏切りは重罪ですよ!極刑です!!極刑!!」


 三十路を控えた女達の醜い足の引っ張り合いが始まってしまった。


「どうして誰も僕の意見は聞かないんですかね……」


 あなたはそういう星のもとに生まれてしまったのだから、早めに諦めたほうがいいわよ。美女に囲まれて暮らすのも悪くはないでしょう。ただあなたに求められる甲斐性のハードルが際限なく高くなっていくだけのこと……


 こうして私達は御礼参りとも言える短い旅を終えた。今日は私の誕生日、第二の故郷であり私達の家庭がある旅の街で、皆が私を祝ってくれる。十九年ぶりの私の誕生日だ。


 楽しい祝宴のなか、私とリュウとサニアは窓辺で星空を見上げていた。まだ見ぬ遠い国、遠い世界……同じ星空の下には広い広い世界がひろがっている。


「ねぇ、リュウ、サニア。私達の旅はこれでおしまいなのかしら」


「どうかな……この国の外の世界も見てみたい気もするけど」


「それじゃあまた皆で行こうよ!私達は自由になれた、過去の柵も何もかも清算して、これからは私達だけの新しい旅が始められるんだよ」


「そうね、何かに導かれてじゃなく……私達で選んで踏み出す私達だけの旅……本当の自由な旅ね」


「きっとまた僕達は新しい何かを見つけられるよ、宝物になるようなそんな何かが」


 そう、私達を縛るものは何もない、過去の因果も消え導く神もいなくなった。これからは私達自身の足で歩んでいくんだ、そうしてより確かなものにしていこう……私達だけの幸せの形を。


 私達が旅をする理由……それは私達の幸せを探すため。長い長い人生という旅路を愛する人達と分かち合うために私達はいつまでも、どこまでも旅を続けよう。


 そうして辿り着くんだ、後悔のない明日へ。






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