騎士団
「お?帰ってきた。」
「ヤッホー、お邪魔してるよ。」
屋敷に戻ったネロがメイドから客が来ていると連絡を受け応接室に行くと、見慣れた三人の女性冒険者達がネロを出迎える。
「前に会った時より背が伸びたね。」
「……これが、成長期。」
「あんたらか、なんか用か?」
久々の再会に成長した自分の容姿を弄られつつ、今日来るという連絡は受けていないネロはダイヤモンドダスト一行に訪れた理由を尋ねる。
「まあね、ただ用があるのはこの子だったんだけど」
そう言ってリグレットは立ち上がるとエーコの頭にポンっと手を置く。
「もうすぐブランの誕生日だから……」
「我ら娘三人衆で誕生日プレゼントとしてエーコに頼んでいた剣を受け取りに来たの。」
「誕生日か……」
その言葉にネロは表情を曇らせる。
本来はこうやって知人から祝ってもらえる嬉しい日のはずなのだが、ネロからすれば死が襲い掛かる恐怖の日でしかない。
「あ、ネロくんの誕生日はいつ?」
「私達、お姉ちゃんズが盛大に祝ってあげるわ。」
ネロの顔を見て祝ってほしいと勘違いした三人が尋ねてくる。
普段ならすぐに訂正するところだがネロは否定することなくその言葉にそのまま頷いた。
「そうだな……その時が来たら祝ってもらうかな。」
「お、意外にも乗り気な返答。」
「オッケー、オッケー、お姉ちゃん達に任せなさい。」
ネロの返答に三人は少し意外そうな顔を見せるもリグレット達は嬉しそうに日付を聞くのも忘れて、計画を立て始める。
そんな三人にネロは呆れつつも小さく笑みを見せる。
「それより王都にはすぐ戻るのか?」
「あ、うん。明日の朝には戻るつもり。」
「そうか、なら俺もその船に乗るよ、少し城に用事がにようがあるからな。」
「了解。エレナちゃんも誘う?」
「いや、すぐに戻る予定だからいいさ。」
「そっか……まあ将軍様だもんね。遊びに、と言うわけにもいかないか。」
リグレットはそう言いつつも、少し残念そうな表情を浮かべる。
しかしそれはリグレットだけでなくここにいる三人以外のメイド達も今の言葉を聞いて同じ様な表情をしていた。
その事についてネロも気付いていた。
旅に戻ってきてから、特にここ最近はネロはエレナと会う回数が確実に減っており
幼い頃から何かと一緒に過ごしてきた二人のことを昔から見てきた者達にとってはそれは違和感しかなく、二人の関係に少し不安を感じているのだろう。
だがネロはそんな周囲の視線に気付かぬフリをして日常を過ごしていた。
次の日朝になると、四人は早速王都へと向かうために船に乗る。
朝方から島を出発し、半日かけて本土の王都最寄りの港へと到着した。
「……随分時間がかかったな。」
「あらそう?たった数時間で早い方よ?」
「リグ、行きし文句言ってた。」
「何のことでしょう?」
おどけるリグレットに対しリンスとロールが口をとがらせて抗議をする。
そんな三人を見てネロは苦笑すると、島がある方向の海を眺める。
――そっか、こんなに遠かったんだな。
決して遠くない距離でもこれほどの時間がかかる。
以前はエーテルのテレポートで一瞬で気づかなかった事だ。それをこの一年の間だ何度も気付かされていた。
「さあ、行くよ!」
「……ああ。」
気づけば三人は前を歩き、ネロもすぐに後を追った。
その後、四人はそのままの足で王都へと向かう。
距離は短いがちょっとした冒険にネロも一年前を思い出しながら楽しく旅をする。
そして数日後、王都につくと入り口に入ったところでネロはリグレット達に別れを告げる。
「じゃあね、ネロくん短い間だったけど楽しかったわ。」
「例の件、許可が出たら連絡してねー。」
「……また今度」
「ああ。」
手を振りながら去っていく三人を見送ったあと、ネロも寄り道する事なく真っ直ぐに城へと向かう。
城門に着くと門番の兵士に要件を伝え、その場で待つこと数分、ネロはあっさりと謁見の許可が通り王の元へと案内される。
玉座の間に着くと、そこには玉座に座るカラクと、定位置とも言える場所、即ちカラクの側で大臣のゾシモスとネロの成人まで将軍代理を務めているバルゴが控えていた。
「よう、久々だな。何か用か?」
カラクが早速ネロに用件を尋ねると、その場にいたもの達からどよめきが起こる。
「まさか!王が将軍を目の前に正常にしているだと⁉︎」
「明日は龍でも襲ってくるんじゃ……」
「ええい、静まれ!我らが王とて一人の人間、こう言うことくらいあるわ!」
「お前ら、俺をなんだと思っているのだ……」
騒ぎ立てる兵士達をカラクは冷めた目で見る、
「しかし、どうしたのです?普段の王らしくない。」
「ま、こいつがいきなり来るなんて珍しいからな。何か重要な話かと思ってな。」
――流石、こう言うところは鋭いな。
普段はふざけている事の多いカラクだが、こう言うところでの勘の働きにはネロも一目置いていた。
「はい、実はお願いがございまして。」
そう言うと、ネロはこの場に来た理由を告げる。
「……自分専用の騎士団を作りたい?」
カラクが聞き直すとネロは小さく頷く。
「はい、自分がこの先何があったとしても、代わりにこの国を守れる者達を用意しておきたいのです。」
「ほほう、それは中々妙案ですな。将軍殿の名前は武王決定戦で一気に名は広まりましたが、現状我らが誇れる武力は将軍殿のみ、戦争など起こらぬように友好外交を施しておりますが戦力がある事に越したものはないです。」
「それに仕事柄突然亡くなるなんてことも十分にあり得る。今後を見据えると悪くはない提案だ。」
ネロの提案を聞いた二人の側近は関心を見せる。
しかし、王であるカラクはそれに対し険しい表情をしていた。
「如何なされました?私的には妙案だと思うのですが。」
「いや、提案自体は構わない……が――」
カラクが目線を突き刺すようにネロに向ける。
「ただ、俺にはその提案がお前がいなくなる前提で考えられているように思えてな。」
「⁉︎それは……」
カラクの一言にネロは言葉を詰まらせる。
ネロ自身はそんなつもりはなかったが、カラクはそういう風に受け取ったようだ。
些かの動揺を見せたネロに対しカラクは一つ息を吐く。
「……まあいい、一応検討しておこう。で、その騎士団のメンバーには宛はあるのか?」
「あ、はい、既に何人かには声をかけて了承を得ています。」
「そうか、なら話は早い。ネロ、無茶はするなよ。お前は子供なんだからな。」
「はい、何度も聞いていますので」
「ああ、だがお前には何度も言わなけりゃならない気がしてな。だから何度でもいう、もう少し大人を頼ってみせろ」
「……はい。」
そうして用件を伝え終えると、ネロは特に雑談をすることも無く城を後にした。
「頼ってみせろ……か。」
――それが出来たらどれだけ嬉しいか……




