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第8話

「わたくしが側妃に?」


「ああ。もう皆に言い渡してある。明日から後宮に部屋を設けよう」



 突然のジョージの申し出に、わたしはパオロを抱いたまま固まってしまった!



「し、しかし……わたくしのような者がそのようなことは恐れ多く……」


「そんなことはない! あなたは美しいだけではなくとても教養もお有りだ。所作も上品で妃としての素質は充分にあります」



 ジョージはわたしの手を握りしめ、瞳を覗きこんできた。

 天に舞い上がるほどうれしい!

 だが、わたしにそんな資格があるのだろうか。

 それに眼鏡で変装しているが、もしアミデーイ家のサラだとばれたらどうしよう。



「これはもう決定事項なのです。あなたは身1つでわたしの元へいらしてください。明日を心待ちにしております!」



 それだけ言うとジョージはパオロに手を振り行ってしまった。

 あとに残されたわたしは途方にくれた。

 どうしたらいいのか。

 この世界には相談できる相手がどこにもいない。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 考えあぐね、またあの橋の袂へパオロを背負いやってきた。

 ペンダントを紋章に翳した。

 


「まただわ……」



 霧が出はじめた。

 だが、橋から人がやってくる様子はない。

 思い切って橋を渡りはじめた。

 半分ほど進んだところに女性が佇んでいた。

 現代の服装をしている。

 悲しげな顔をして欄干にもたれている。

 思わず声を掛けてしまった。



「こんなところで、どうされましたか?」



 女はこちらに顔を向けた。

 やつれて憔悴しきっていた。



「実は……政略結婚で好きでもない男性と添い遂げなくてはなりません。それがどうしても嫌で死ぬほど悩んでいるのです……」


「そうですか……。わたしは反対でした。大好きな人が政略結婚してしまいました。それを許したことをいまでも後悔しています」


「まあ! それはいけません! わたしのように皆が不幸になります! 絶対に愛する人を離してはいけませんよ! 自分を貫いてください! それこそが皆の未来を明るく輝かせる結果となるでしょう! 負けてはいけませんよ!」



 女はそれだけ言うと立ち去った。



「あっ! 待って……!」



 いそいで追いかけようとするとあっという間に霧が晴れた!

 気が付くと橋の袂に立っていた。

 またこの前と一緒だ。

 わたしはまだ異世界にいる。

 背中ではパオロがスヤスヤと眠っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日わたしは後宮に部屋を与えられ第3側室の身分を与えられた。

 さっそく、ジョージがやってきた。



「ジュリア、どうだい? 後宮の居心地は?」


「ジョルジオさま……このように豪華にしていただき、たいへん申し訳なく思います」


「もっと喜んでおくれよ! 最新の飾り付けで君にふさわしい空間を作り出したのだよ!」



 わたしに与えられた後宮は、どの妃の部屋よりも豪華できらびやかだった。

 他の妃たちからなんと言われるか気が気ではない。



「さっそく今日からここで過ごすとしよう! パオロ、おいで! 君の本当のパパになれたよ!」


「パパー!」



 パオロがさっそくジョージに飛びついた!

 ジョージはパオロを抱きしめ、心底いとおしそうに頬を寄せる。

 これが本来の親子のあるべき姿だ。

 だが、この先このことがどのような事態に発展していくかはわたしの想像を遥かに超えていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 表向きは何事もなく過ぎていった。

 わたしは眼鏡を絶対にはずさず人前に出ない生活を送っていた。

 アミデーイ家の人間だとバレたら、わたしは確実に殺される。


 フランチェスカは毎日のようにわたしとパオロの元へ通ってきていた。

 いまではわたしを本当の母親のように慕ってくれている。

 今日もフランチェスカの美しい髪を梳きながら話をしていた。



「ジュリア……ジュリアの子守唄がなぜか懐かしくて仕方がないの。あなた母上だったらどんなにいいか……。パオロがうらやましい。父上にもあんなに可愛がられて」


「ジョルジオさまはフランチェスカさまをとても可愛がっておいでですよ。パオロと同じぐらい! 親というのは子供に対しいつも平等の心を持っているものです」


「それは母親が同じ場合だわ。パオロはジュリアの子供だから、父上もあんなに可愛がっているんだわ!」


「それは……」



 喉元まで出掛かった言葉を発することは叶わなかった。

 いつになったら本当の親子の名乗りができるのだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ケホッ! ケホッ!」


「誰がこんなことを!」



 パオロのスープにひどい味付けがされていた!

 このように大量の香辛料が入っていたら、幼いパオロは喉を痛めてしまうだろう。

 最近このような嫌がらせが多発していた。

 いたずら程度ならいいが、それがエスカレートしていくのが恐い。

 早急に犯人を突きとめる必要があった。



「ジュリア! パオロが嫌がらせをされているって!」


 

 ジョルジオが飛び込んできた。

 心配をかけたくなくて、彼にはこのことと伝えていなかった。



「ジョルジオさま、なぜそのことを?」


「フランチェスカが教えてくれた。いま内密に調べている。もう少し待っていてくれ! パオロには護衛をつける! なにかあってからでは手遅れになるから!」


「ありがとうございます。わたくしも気をつけて参ります」



 ◇ ◇ ◇ ◇



 パオロと庭を散歩していると物が落ちてきたり、食べ物に異物が混入していたりとその後も嫌がらせは続いた。

 その度に護衛が助けてくれた。

 遂にプッタネスカがエリザベッタと共に城を出されることになった。

 かつてのガーネットの娼館『グラナート』を貰い受け引き継ぐことになった。

 ブッタネスかは後宮を去る日わたしのところへ挨拶にやってきた。



「ブッタネスカ……このようなことになってしまって……」


「なんでだい? わたしにとっちゃひどく喜ばしい日だよ! やっと堅苦しい生活から解放されるんだ! しかも有名な娼館までいただけるんだよ! こんあ幸運はない! あんたにゃ感謝してるよ!」


「そうなの? なんで? あなたはかつてジョルジオさまの寵妃で子供まで産んだ人なのに……くやしいほうが先に立たない?」


「そんなこと全然ないさ! エリザベッタだって本当の母親であるわたしと暮らせほうが幸せさ! それに……わたしは娼婦だけど意外と一途な女なんだよ? ユリアとは違うって言ったろ? 愛する男はひとりでいい! あんたも頑張りな! 今のジョルジオ王をいちばん愛しているのは、間違いなくあんただよ! ジュリア!」


「ブッタネスカ、どうもありがとう! どうか、お元気で……!」



 ブッタネスカはエリザベッタを腕に抱き意気揚々と後宮を出ていった。

 王宮になんの未練も無さそうだ。

 思えば彼女は、言いたいことを言う蓮っ葉な女だが嘘はついていないようだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 ブッタネスカが去ったあとも嫌がらせは続いた。

 ある日、ロッシが訪ねてきてくれた。



「ロッシさま!」


「ジュリアさま、どうか『さま』はやめてください! 今はあなたは皇太子の寵妃。恐れ多いです」


「そんなことはありません! あなたのお蔭でここまでこれたのです。パオロともども感謝しております」


「困っているご婦人に当然のことをしたまでですよ。わたしはこのたび役目を終え故郷へ帰ることになりました。やっと、愛しい妻と息子の元へ帰ることができます。最後にパオロを抱かせてもらえませんか?」


「まあ! それはよかった! 家族は一緒に暮らすべきです! パオロ、ロッシさまに抱いていただきなさい」


「はい!」


「パオロ! 大きくなったね? しっかりとしたおにいちゃんになった。幸せにおなりよ……」


 

 ロッシがパオロを抱き上げて頬ずりをしてくれた。

 彼のお蔭でここまでこれた。

 感謝の念に絶えなかった。

 ロッシは挨拶をして城から去っていった。

 また1人知り合いがいなくなり、わたしは心細くなってしまった。

 かつて暮らした山や村人たちのことが思い出された。

 マジョリカは元気でいるだろうか。

 むかしのように皆とにぎやかに普通の暮らしができたらどんなにいいだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇



――ドンッ!



「何をなされます!」



 翌日、衛兵がやってきてわたしとパオロを後宮から追い出そうとした!

 わたしはパオロを抱いて必死に抵抗した。



「皇太子后さまからのお達しだ! 汚らわしい娼婦は後宮にふさわしくないとな!」


「なんですって! わたしは娼婦などでは……!」



 そこへ、アレッサンドラがやってきた!



「アレッサンドラさま! わたくしは……」


「おだまり! おまえはガーネットとかいう娼婦の下で男を取っていたそうじゃないか!」


「そ、それは……!」



 ブッタネスカの告げ口だろうか?

 彼女はこの後宮になんの未練もなさそうだったのに。



「ジュリアが娼館『グラナート』で働いていたことは裏付けが取れている! 客まで取っていたとは……」


「誤解でございます! 下働きだけで、そのような仕事は一度もしたことはございません!」


「それと、パオロのことだが……本当はガーネットという娼婦の子供だったそうじゃないか! そんな嘘まで吐いて皇太子に取り入ろうとは!」


「違います! 訳あってそのようなことになっておりましたが、パオロは誓ってわたしの子供です!」


「おだまり! おまえは嘘だらけの女で信用できない! ロッシとのことだって噂になってるよ! 彼の愛人でだったってね!」


「そんなことは! 誤解です! わたしはただ1人、ジョージのことを……!」


「それをどの男にも言っていたのだろう! 出ていくがよい!」


「そんな……」



 わたしはパオロを抱きしめ泣く泣く後宮を出ていった。

 まとまった金額だけは持たされていた。



「ジュリア! ジュリア!」


「えっ?」

 


 ユリアに呼び止められた。



「こっちへいらっしゃい!」


「ユリアさま……」


「これからどうするの?」


「しばらくは旧アミデーイ邸に身を寄せようかと思います。他に頼る場所がなくて……」


「あそこに滞在されるのね。だったら、大金を持っていくのは危ないわ! 預かっておいてあげる! アミデーイ邸までは護衛をつけて送ってあげる。アレッサンドラの一派が襲ってくるかもしれないから」


「ええっ! でも……出て行けばもう、わたしは関係ないのでは?」


「ジュリア、それは違うわよ! あなたはジョルジオさまの寵妃。ジョルジオさまはいま隣国へ出向いているわ。戻ってきてあなたがいないとなれば探すでしょう。その前にアレッサンドラ王后に何をされるかわかったものではないわ」


「そういえば、そうですね。ユリアさま、ご親切にどうもありがとうございます。わかりました……わたしだけならまだしも、パオロの身も心配です。財産はユリアさまに預けて参ります」


「それがいいわ。あなたたちが心配で心配で……」



 ユリアは優しそうな顔を曇らせながらいつまでも同情の想いを寄せてくれた。

 彼女の好意に甘えて金を預け、旧アミデーイ邸まで送ってもらった。

 ユリアに全財産を渡したので、わたしは異世界にはじめて降り立った日ポケットに入っていた金貨数枚しか手元に残らなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 アミデーイの屋敷は立派すぎて気が引けるので、メイド長のカテリーナと夫の庭師リッカルドの小屋にパオロと泊めてもらった。



「ジュリア、とんだ苦労だったわね。では、皇太子さまもあんたを誤解したままなのかい?」


「はい……これからどうしたら……」


「ロッシさまも故郷へ帰ってしまわれたし……。それにしてもロッシさまとの仲を疑うなんて! 誰もそんな噂をしたことなんてないよ!」


「どうもありがとう……。どうしてこんなことになってしまったのか……。わたしはただ、パオロとみんなで仲良く暮らしていければそれでよかったのに……」



 パオロを抱きしめながら途方に暮れた。

 わたしはこのさきどうなってしまうのだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇


 

 その夜、恐ろしいことが起きた。

 旧アミデーイの屋敷に火が放たれたのだ!

 幸い使用人たちは逃げ出して誰も怪我などせずに済んだ。

 わたしのいた小屋は無事だった。

 焼け跡から物色をしたような痕跡が見つかった。



「ジュリア……これは王城の衛兵たちの靴跡だよ! たぶん、ジュリアとパオロの命が狙われたんだよ! あんたたちを探してもいなかったから、火を放ったにちがいないよ!」


「そんな恐ろしいことが……どうしたら……」


「ジュリア、わたしたち夫婦はアミデーイ家を頼って行くつもりだ。あんたも一緒に行くかい?」


「アミデーイ家に? 隣国にいるのよね? わかったわ。わたしも連れていってちょうだい!」



 ここにきてわたしは遂にアミデーイ家と接触をする決心をした。

 アレッサンドラに命を狙われている以上、帝都に留まるのは危険だった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ジュリア! パオロ!」


「えっ?」



 カテリーナたちと今まさにアミデーイ家へ出発しようとしているとき、フランが飛び込んできた!



「フランチェスカさま! いったいどうして?」



 彼女はなぜか平民の服を着ており、お供もひとりしかいなかった。



「ジュリア、たいへんなことになったのよ! 父上が隣国に捕らわれてしまったの!」


「なんですって! たしか隣国の王子はジョルジオさまのご友人のはずです! どうしてですか?」


「それについてはわたくしめが……」


 

 お供の男が説明してくれた。



「隣国の王子はアレッサンドラの愛人でした。いま帝都はアレッサンドラ率いるドナーティ家の手中にあります。皇帝ご一家も拘束されました」


「なんてことなの……フラン! あなたはどうやってここへ? アレッサンドラは?」


「皇帝陛下がなんとかフランチェスカさまだけでも逃がすことに成功しました。皇帝は以前からアレッサンドラを疑っていました。内密で捜査した結果、アレッサンドラ王后がフランチェスカさまを産んだ記録を見つけることができませんでした。前後の行動を照らし合わせても出産をする時間はなかったはずです」


「そうでしたか……。たしかにフランチェスカさまは、アレッサンドラの子供ではありません。今は理由を申し上げられませんがわたくしがそう断言いたします。わたしたちはこれから、アミデーイ家を頼って出発いたします。フラン、あなたも一緒に行きましょう!」


「ジュリア……」


「そうしていただけると助かります。いま帝都を救えるのはアミデーイ家しかありません! なんとかアミデーイ家の救援を取り付けてきてくださいませんか」


「わかりました! 救援を呼んで参ります!」


「それはありがたい! どうか、よろしくお願い致しまする!」


 

 決意も新たにフランの手を握りパオロを背負い、カテリーナ夫婦と共に帝都をあとにした。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「サラ! 無事で……生きていたのね……!」


「お母さま……お父さま……」


 

 無事アミデーイ家に到着したわたしは、自分の身分を明かした。

 皆がサラ・アミデーイの帰還を祝福してくれた。

 わたしにアミデーイ家の記憶はないが、現実世界と同じ容姿をした両親に懐かしさを感じることができた。



「こちらがフランとパオロ……わたしの子です!」


「おじいたま……おばあたま……」


「ジュリア……本当はサラというのね? わたしがあなたの子……?」


「ええ、そうよ……フラン! あなたは本当はわたしとジョルジオ、ジョージの子供なの! あなたは記憶を操作されているんだわ!」


「本当に! うれしい! どんなにあなたの子供だったらいいかと思っていたの! それが現実になるなんて……! では、ここ最近おもい出している山小屋や農場の生活は……」


「そうよ! 本当の出来事よ! わたしのかわいいフラン!」


「お母さま! ママー!」



 フランは旅の途中で段段と昔の記憶が甦ってきた。

 なんらかの薬物で洗脳されていたのだろう。

 薬が切れたので自然と過去を思い出せるようになったのだ。

 わたしはフランを思い切り抱きしめた。

 やっと、やっと戻ってきた。

 わたしの最愛の娘がやっと!

 パオロと3人で抱き合い、感動にむせび泣いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 帝都は完全にドナーティ家に掌握されているらしい。

 ジョージは隣国より帝都に移送されているそうだ。

 隣国の王子が今はアレッサンドラの夫として帝都に君臨している。

 何もかもが許すまじき行為だ。

 本来ならば、わたしとジョージが婚姻して帝都を治めるべきはずだった。

 歴史は正しく遂行されなければならない。


 アミデーイ家は近隣諸国の協力を仰ぎ教皇と共に帝都へ向かった。

 わたしもフランとパオロと共に追随した。

 


 ◇ ◇ ◇ ◇



 教皇とアミデーイ家の軍隊は帝都の手前までやってきた。

 皆と一緒に休息しているわたしたちの元へブッタネスカが訪ねてきた。



「ブッタネスカ! どうなさったのですか?」


「ジュリア……いやサラ・アミデーイさまだったんだね……。わたしみたいな女でも名誉を回復したくてきたんだよ」


「名誉を? どうしてまた?」


「ガーネットのことさ。わたしが告げ口したと思っているのだろうが、それは違うよ! 犯人はユリアさ!」


「ユリアさまが? 彼女がなぜ? ユリアさまはいまどうされているのです?」


「知らないのかい? ユリアはアレッサンドラとグルなんだよ!」


「あのユリアさまが? まさか……では、パオロへの数々の嫌がらせは……」


「そうさ、ユリアさ! その証拠に、わたしが後宮を去っても嫌がらせは終わらなかったろ? わたしも北国でエリザベッタを産むときにいろいろ邪魔されたから、あの女の裏の顔を知っているんだよ。ユリアは澄ました顔で残酷なことができる性悪女だ。ジョルジオさまだってあんな女と結婚したくなかったんだ。それを無理矢理わたしから引き離して……」


「そうだったの……誤解していたわ。ブッタネスカ、本当にごめんなさい」


「いいってことよ! ユリアが誤解させるように仕組んだんだろ? あの女は欲深いよ。あんたが城を去るときにもらった財産をだまし取られたんじゃないかと心配で……」


「ご心配の通りよ。ぜんぶ彼女に預けてしまったわ」


「なんてこったい! 先に言っておいてやればよかったよ!」


「よいのです。子供たちさえ無事ならば……」


「お詫びついでに真実を教えてあげる! エリザベッタはジョルジオ王の子だけど、ジョルジオ皇太子とは別人だよ! たぶんだけど……ジョルジオ皇太子の義理の兄なんだと思う。亡くなった北国のジョルジオ王は皇帝の妾の子さ」


「亡くなった? あなたはいま北国のジョルジオ王が亡くなったとおっしゃったの?」


「ああ、そうだよ。わたしの愛しのジョルジオ王は亡くなった。三年近く前に船が転覆したとき家臣たちと一緒にね。暗殺じゃないよ。単なる事故だ。だけどユリアによってジョルジオ王が亡くなったことは伏せられた。運良く帝都の皇太子が河で溺れていた。北国の戦士が見つけて故郷に連れ帰ったのさ。なぜかって? 皇太子はジョルジオ王にそっくりだったからさ! ニセモノに仕立てあげたんだよ! 義理の弟をね!」


「そうだったの……偶然とはいえそんなことが……。それですべてが納得できるわ! ブッタネスカ、どうもありがとう」


「いいんだよ、わたしも黙っていて心苦しかったからさ! ユリアはとっとと北国に逃げ帰ったよ! まったく、あの女ときたら! 王妃のくせにちゃっかりしてるったら! サラ、がんばっとくれ! あんたにこの国の未来がかかってるんだ! 勝利を祈ってるよ!」



 それだけ言うとブッタネスカは去っていった。

 これですべての謎が解けた。

 ジョージはわたしたちを裏切ってはいなかったのだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日、教皇とアミデーイ軍が一気に帝都へ攻め入った!



――ワアアアアーッ!


――アミデーイ家だ! 復讐にきたぞー!


――サラさまが生きていた! ジョルジオさまの側妃だったジュリアさまがサラさまだった!


――サラさまばんざーい! アミデーイ家バンザーイ! 教皇バンザーイ!



 国民のほとんどが、いまや教皇率いるアミデーイ軍の味方だった。

 教皇派はたちまちのうちに皇帝派のドナーティ家を城ごと包囲してしまった!

 アレッサンドラたちが逃げ出した!

 皆であの橋の袂まで追い詰めた!



「サラ! よくも謀ったな!」


「アレッサンドラ、あなたの負けよ。あなたは7年前わたしからジョルジオを奪った。それがすべてのはじまりだったわ!」


「おまえなんかにジョルジオさまも帝都も渡さない! 侍従! ジョルジオさまをここへ!」


「はっ!」



――オオオオーッ!


 

 皆がどよめいた。

 国民の前に鎖に繋がれたジョージが引き出された。

 ひどくやつれているが怪我などはなさそうだ。

 


「ジョージ! あなた!」


「サラ! 記憶を取り戻した! 君と家族と共に暮らしたい!」


「よかった……神さま……!」


「おのれサラめ! ジョルジオさまがどうなってもいいのか!」


「わあっ!」



 ジョージが橋の欄干の上へ立たされた!

 鎖で縛られているので河へ落ちたら今度こそ助からない!

 


「皆の者! 皇太子の命が惜しければ剣をおしまい!」



 皆の動きが止まった。

 ジョージに剣を突きつけ、アレッサンドラが勝ち誇ったように笑いはじめた。



「ホホホホッホホ! わらわに馬車を用意するがいい! 侍従、すぐに出発するよ! さあ! 早くおし!」



 皇太子を人質に取られては、引き下がるしかない。

 


「待て! みんな! わたしのことはよいからこの女を討ち取れ!」


「ジョージ……どうしたら……」



 わたしたちは追いつめられた。

 ジョージが死んでしまっては、なんのためにわたしがここまできたのかわからなくなる。

 そのとき、目の前に女が進み出た!



「アレッサンドラ! いい加減におし! この世界にあんたはいらない! 消えておしまい!」



 女の手から光線が出た!



「アアアアーッ! 助けてくれーっ! ギャアアアアーッ!」



 みるみるアレッサンドラが消えていく!



――ワアアアアーッ!


――アレッサンドラさまが消えた! おれたちもやられるぞー!


――逃げろー!


 それを見ていたドナーティ家側の軍隊が次々と逃げ出していく!



「ジョージ! あなた!」


「サラ!」



 なんと目の前に現れた女性はサラ本人、わたし自身だった!

 ジョージと抱きあい涙を流している。

 彼女の背にはいつの間にかパオロがいて、傍らにはフランも立っている。

 皆で無事の再会を喜びあっている。


 呆然と佇むわたしを振り返り、もうひとりのわたしサラ・アミデーイが微笑んだ。



「沙羅! わたしの代わりに子供たちを守ってくれてどうもありがとう! 現実世界に戻ってちょうだい! 万事上手く納まっているわ」


「えっ? 今なんて? 本当に?」



 サラからの返事は得られなかった。

 気が付くとわたしは、橋のたもとに佇んでいたのだ。

 それは普通の日本の橋で、おかしな星の紋章などは刻まれていなかった。

 


――リーンゴーン! リーンゴーン!



 向こう岸から教会の鐘の音が聴こえてくる。



「まさか……今日は譲二の結婚式当日! あの日の続きでは! だったら譲二はもう……」



――タッタッタッタッ!



「おーい!」



 誰かが橋の向こうからこちらへ走ってくる!

 譲二だ!

 門田譲二がこちらにやってくる!

 ジーンズにシャツの普通の格好をしている。



「譲二! うそみたい! 結婚式はどうしたの?」


「沙羅! 結婚は中止だ! 相手の女性が駆け落ちしたんだ!」


「なんですって! じゃあ……」


「ああ、我が家は倒産した。でも、親父たちはそれでいいって……好きな人と結ばれなさいって言ってもらえた」


「それで……それでよかったの?」


「うん、それがいちばんいいんだ。偽りの生活に本当の幸せはないよ」


「譲二……うれしい! わたしうれしいわ! あなたと共に歩んでいきたい! 永遠に……!」


「沙羅に先に言われちゃったな! おれもそうだ。沙羅と結婚したい! 一緒に楽しい家庭を築いていこうよ! 永遠に!」


「譲二……」


「沙羅……」



 わたしたちは異世界のときのようにかたく抱き合い誓いのキスをした。

 


――リーンゴーン! リーンゴーン!



 その日きこえた鐘の音は最高に美しいものだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 その後わたしと譲二は皆に祝福されながら結婚した。

 女の子と男の子の子宝にも恵まれ、譲二と2人で幸せな日々を送っている。

 あれらの出来事を本当にわたしは体験したのだろうか?

 いまでも信じられない。

 白昼夢か幻だったのではないか。

 だが現実世界に戻ったわたしのジーンズのポケットには数枚の金貨があり、首には星をかたどったペンダントを掛かっていた。

 だとすればわたしがこんなに幸福な人生を送れているということは、サラ・アミデーイも異世界でジョージ、フランそしてパオロたちと幸せな日々を暮らしているにちがいない。 


 だから、わたしは毎日一生懸命に生きている。

 愛する家族とサラ・アミデーイのために。



(異世界に行ってもあなたと ~サラの選択~)

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