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第1ラウンド:異世界のリングに、ベルは鳴らねぇ

俺はジョン・L・サリバン。

ボストン・ストロングボーイ。この名前を聞いて震え上がらねえ奴は、マサチューセッツには一人もいねえ。

……はずだった。


「おい、死にたいのか? どけと言ってるんだ。この薄汚いデカブツが」


目の前で、安っぽいメッキの鎧を着たガキが、細い剣を俺の鼻先に突きつけてやがる。


周りを見渡せば、石造りの見慣れねえ街並み。空には太陽が二つ。どうやら俺は、ミシシッピ川の蒸気船で酔っ払って寝ていたはずが、とんでもねえ「別世界」に放り出されたらしい。


だが、場所が変わろうが、俺のやることは変わらねえ。


俺はゆっくりと立ち上がった。身長6フィート、体重200ポンド。鍛え抜かれた俺の肉体が影を落とすと、鎧のガキの顔が引きつった。


「なんだ、その針金みたいな棒は?歯に詰まったチキンでも取ってくれるのか?」


「き、貴様……これは王家より賜りし魔剣……」


「魔剣だか何だか知らねえが、男なら拳で語れ……おっと、ガキは玩具を手放せないか?」


俺は、あの懐かしい構えをとった。

腰を深く落とし、左腕を垂直に立てて前に出す、右拳は胸の前に…19世紀のリングを支配した、誇り高きベアナックル・ポーズだ。


「……なんだその不格好な構えは! 降参のポーズか!」


ガキが魔法とやらを込めた剣を振り下ろす。

遅い。

あくびが出るほど遅い。


俺は一歩、右斜め前に踏み込んだ。

剣の軌道を紙一重でかわし、ガラ空きのボディへ左を突き立てる。


「ガハッ!?」


これは「愛の鞭」だ。


最短距離で放たれた拳が、鎧をひしゃげさせ、ガキの肺から空気を全部叩き出した。


だが、俺のボクシングはここで終わらねえ。


悶絶するガキの顎を、下から右のショート・アッパーで撥ね上げる。


「聞き分けのないガキにゃ、お星様を見せてやるのが礼儀だろ?」


快音


ガキは糸の切れた人形のように宙を舞い、地面に叩きつけられた。ピクリとも動かねえ。


「ふぅ……。おい、レフェリーはどうした? カウントを始めろよ」


あたりを見渡すと、街の住人たちが、口をあんぐりと開けて俺を見ていた。


ただの恐怖だけじゃねえ。それは、神か何かを拝むような、奇妙な羨望と畏怖が入り混じった眼差しだった。


「な、なんだあの技は……。魔法障壁を……素手で?」


「あんな構え、見たことないぞ。……おい、見たか? あの左の突き。あれこそが伝説の……」


壮大な勘違いの予感がした。


だが、俺は喉が渇いていた。


「おい、お前ら。この近くにマシな酒場はねえのか? 勝利の美酒がねえと、興行ショーは締まらねえんだよ」


俺がそう言うと、一人の村人が震える手で、俺の構えを真似し始めた。


ぎこちなく、左腕を立てて。


「し、師匠! その……強さの極意、ぜひ我らにも!」


「……はぁ? 師匠だと?」


「はい! あの無駄のない動き、圧倒的な破壊力! あれこそ、失われた古代の武術に違いありません!」


「…まぁ、いい。まずは酒だ!話はそれからだ」


俺はシルクハットを被り直し、ひしゃげた鎧のガキを跨いで歩き出した。


異世界。魔法。魔物。


よく分からねえが、この世界にゃあ「ボクシング」が足りねえことだけは理解した。


俺の名前はジョン・L・サリバン。


今日からこの世界が、俺のリングだ。

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