第36章 実験の成功と代償
宿に戻った。
部屋に入る。
リオンはベッドに座った。
体が重い。
今まで感じたことのない重さ。
疲労感。
ミラが水を持ってくる。
「飲んで」
リオンが受け取る。
「ありがとう」
飲む。
でも。
体の重さは消えない。
リオンは鏡を見た。
自分の顔。
そして。
気づく。
髪に白髪が混じっている。
数本。
でも、確かに。
「10年……」
小さくつぶやく。
ミラが聞く。
「何?」
リオンが振り返る。
「何でもない」
ミラが近づく。
「嘘。何かあったわ」
リオンの髪を見る。
「白髪……?」
驚く。
「なぜ?」
リオンが答える。
「寿命だ……」
ミラが首を傾げる。
「寿命?」
リオンが説明し始める。
「錬金術師エルヴィンが……」
ミラが聞く。
リオンが続ける。
「お前の腕を治すために……俺の寿命10年と引き換えにした……」
ミラの顔が青ざめる。
「そんな……」
リオンが頷く。
「等価交換……錬金術の法則だ……」
ミラが震える。
「10年……」
リオンが続ける。
「でも、お前の腕は治った」
微笑む。
「それでいい」
ミラが叫ぶ。
「よくない!」
リオンが驚く。
ミラが続ける。
「勝手に! 勝手に決めて!」
怒りで震えている。
「私は……治してほしいなんて頼んでない!」
リオンが答える。
「でも……」
ミラが遮る。
「でも、じゃない!」
涙が溢れる。
「なんで勝手に決めるの!」
リオンが立ち上がる。
「お前の腕が……動かなかったら……」
ミラが叫ぶ。
「それでもよかった!」
リオンを睨む。
「腕より、あなたの命の方が大事に決まってるでしょ!」
リオンが黙る。
ミラが続ける。
「10年よ! 10年!」
涙が止まらない。
「あなたはそれだけ失ったのよ!」
リオンが答える。
「でも……お前を助けたかった……」
ミラが首を横に振る。
「私は……」
涙を拭う。
「私のために死んでほしくない……」
リオンが驚く。
「死ぬわけじゃ……」
ミラが遮る。
「10年短くなったのよ! それは死に近づいたってことでしょ!」
リオンが黙る。
ミラが続ける。
「ごめん……」
小さく言う。
「私のせいで……」
リオンが首を横に振る。
「お前のせいじゃない」
ミラが答える。
「でも……」
リオンが続ける。
「俺が選んだんだ」
ミラが涙を流す。
「それが……嫌なの……」
リオンが首を傾げる。
「嫌?」
ミラが頷く。
「あなたは……私のために犠牲になろうとする……」
リオンが答える。
「それは……」
ミラが遮る。
「謝らないで」
荷物に向かう。
自分の荷物。
まとめ始める。
リオンが驚く。
「何を……」
ミラが答える。
「もう……一緒にいられない……」
リオンが叫ぶ。
「待ってくれ!」
ミラが振り返る。
涙を流したまま。
「待てない」
リオンが近づく。
「なぜだ!」
ミラが答える。
「あなたは私のために死ぬ気?」
リオンが黙る。
ミラが続ける。
「そんなの耐えられない」
荷物をまとめ終わる。
背負う。
扉に向かう。
リオンが手を伸ばす。
「ミラ!」
ミラが立ち止まる。
振り返らない。
「ごめんなさい……」
小さく言う。
「でも……これ以上あなたを犠牲にできない……」
扉を開ける。
出ていく。
扉を閉める。
リオンは呼び止められなかった。
ただ立っている。
部屋に。
一人で。
「ミラ……」
小さく言う。
膝から力が抜ける。
座り込む。
「なぜだ……」
つぶやく。
「なぜ……行ってしまうんだ……」
涙が溢れる。
「俺は……お前を助けたかっただけなのに……」
頭を抱える。
「なぜ……」
部屋は静か。
リオンの声だけが響く。
時間が過ぎる。
1時間。
2時間。
リオンは動かない。
ただ座っている。
窓の外。
太陽が沈む。
夜が来る。
星が見える。
でも。
リオンは見ない。
ただ床を見つめている。
「ミラ……」
何度も名前を呼ぶ。
でも。
誰も答えない。
部屋は空っぽ。
ミラの荷物はない。
ミラの匂いだけが残っている。
リオンは立ち上がった。
窓に向かう。
外を見る。
街の明かり。
人々が歩いている。
でも。
ミラの姿はない。
「どこに行ったんだ……」
つぶやく。
探しに行くべきか。
でも。
ミラは怒っている。
悲しんでいる。
今、追いかけても。
何も変わらない。
リオンは窓から離れた。
ベッドに座る。
頭を抱える。
「俺は……間違えたのか……」
つぶやく。
「お前を助けることが……間違いだったのか……」
でも。
答えは出ない。
リオンは横になった。
天井を見つめる。
「ミラ……」
小さく言う。
「すまない……」
涙が流れる。
「すまない……」
夜が更けていく。
リオンは眠れない。
ただ。
天井を見つめている。
ミラのことを考えている。
自分の選択を考えている。
そして。
これからどうするべきかを考えている。
でも。
答えは出ない。
ただ。
後悔だけが残る。
リオンは思った。
『俺は……間違えた……』
『ミラを怒らせた……』
『悲しませた……』
『そして……失った……』
拳を握る。
「くそ……」
小さく言う。
朝が来る。
リオンは起き上がった。
窓の外。
太陽が昇っている。
でも。
リオンの心は暗い。
ミラがいない。
それだけで。
全てが意味を失った気がする。
リオンは荷物をまとめた。
自分の荷物。
剣。
本。
薬草。
全てを。
部屋を出る。
宿を出る。
街を歩く。
どこに行くのか、わからない。
ただ歩く。
前に。
でも。
心はここにない。
ミラと一緒に。
どこかに。
リオンは思った。
『ミラ……』
『待っててくれ……』
『いつか……必ず……』
『また会おう……』
決意する。
でもそれがいつになるのか、わからない。
リオンは一人で歩き続けた。
街を出て。
街道を。
北へ。
魔王の封印地へ。
一人で。
ミラなしで。
6667回目の挑戦。
また一人に戻った。
リオンの旅が続く。
孤独の中で。




