第35章 錬金術師の取引
7日目。
朝。
リオンは目を覚ました。
いつもと違う感覚。
体が軽い。
そして。
目が違う。
鏡を見る。
錬金術師エルヴィンの目。
知的で。
冷たい目。
エルヴィンが立ち上がる。
ミラを見る。
寝ている。
左腕が黒く染まっている。
エルヴィンが近づく。
腕を診る。
触れる。
魔力を感じ取る。
「ふむ……」
つぶやく。
「これは治せる」
ミラが目を覚ます。
「リオン……?」
エルヴィンが答える。
「エルヴィンだ」
ミラを見る。
「お前の腕を治す」
ミラが驚く。
「治せるの!?」
エルヴィンが頷く。
「ああ。だが代償が必要だ」
リオンの意識が叫ぶ。
『何を言ってる!』
心の中で。
エルヴィンが答える。
心の中で。
『黙れ。これは俺の専門だ』
リオンが反論する。
『代償って何だ!』
エルヴィンが答える。
『後で説明する。今は黙ってろ』
ミラが聞く。
「代償……?」
エルヴィンが答える。
「気にするな」
立ち上がる。
「準備がある。森に行く」
ミラが立ち上がる。
「一緒に行く」
エルヴィンが頷く。
「ついてこい」
二人は宿を出た。
街を出る。
北門から。
森に入る。
エルヴィンが薬草を探す。
「これだ」
青い花を摘む。
「これも」
赤い根を掘る。
「そしてこれ」
黒い苔を剥がす。
ミラが聞く。
「何に使うの?」
エルヴィンが答える。
「錬金術だ」
ミラが首を傾げる。
「錬金術……?」
エルヴィンが続ける。
「魔力を物質化する技術だ」
薬草を袋に入れる。
「お前の腕の魔力侵食を逆利用する」
ミラが驚く。
「逆利用……?」
エルヴィンが頷く。
「詳細は後だ。まず材料を集める」
1時間後。
材料が揃った。
エルヴィンが言う。
「次は場所だ」
森の奥に進む。
洞窟を見つける。
「ここでいい」
中に入る。
ミラがついてくる。
洞窟の奥。
広い空間。
エルヴィンが地面に何かを描き始める。
白い粉で。
円。
複雑な模様。
文字。
記号。
錬金陣。
30分かけて完成させる。
エルヴィンが立ち上がる。
「完成だ」
ミラを見る。
「中央に座れ」
ミラが陣の中央に座る。
「こう?」
エルヴィンが頷く。
「ああ」
周りに薬草を配置する。
青い花。
赤い根。
黒い苔。
全てを決まった位置に。
そして。
エルヴィンが陣の外に立つ。
「始めるぞ」
ミラが頷く。
「お願い」
エルヴィンが警告する。
「魔力侵食を逆利用する。痛いぞ」
ミラが答える。
「いい。やって」
エルヴィンが頷く。
「覚悟はいいな」
手を前に突き出す。
詠唱を始める。
「古き力よ、我に応えよ……」
陣が光り始める。
青い光。
「闇を光に、毒を薬に……」
光が強くなる。
「逆転せよ、全てを……」
最後の言葉。
「錬金!」
陣が爆発的に光る。
ミラの体が浮く。
少しだけ。
そして。
魔力が注入される。
ミラの左腕に。
黒い変色が反応する。
蠢く。
広がる。
肩から。
胸へ。
首へ。
顔へ。
全身が黒く染まる。
ミラが悲鳴を上げる。
「ああああああ!」
エルヴィンが続ける。
「耐えろ!」
魔力を注ぎ続ける。
黒い変色が最大限まで広がる。
そして。
逆転。
黒が薄くなる。
消えていく。
左腕から。
胸から。
顔から。
全身から。
完全に消える。
ミラが地面に降りる。
倒れ込む。
「はあ……はあ……」
荒い呼吸。
左腕を見る。
黒い変色が消えている。
肌色に戻っている。
動かしてみる。
指が動く。
腕が動く。
「治った……!」
涙が溢れる。
「治った!」
エルヴィンが微笑む。
「成功だ……」
だが。
次の瞬間。
血を吐く。
「げほっ……」
口から血が。
膝をつく。
ミラが驚く。
「リオン!」
駆け寄る。
エルヴィンが倒れる。
地面に。
目が変わる。
リオンの目に戻る。
主導権を取り戻す。
「何を……した……」
弱々しい声。
エルヴィンの声が心の中で響く。
『代償は……お前の寿命10年だ……』
リオンが驚く。
『寿命……10年……!?』
エルヴィンが答える。
『魔力侵食を逆転させるには……等価交換が必要だった……』
リオンが叫ぶ。
『勝手なことを!』
エルヴィンが答える。
『すまない……だが……彼女を助けたかった……』
そして。
エルヴィンの声が消える。
リオンが膝をつく。
いや、既に膝をついている。
倒れている。
ミラが支える。
「リオン! 大丈夫!?」
リオンが答える。
「ああ……」
弱々しく。
「大丈夫……」
でも。
体が重い。
力が抜ける。
ミラが涙を流す。
「何をしたの!?」
リオンが答える。
「寿命……10年……」
ミラが息を呑む。
「寿命……?」
リオンが頷く。
「等価交換……錬金術の代償……」
ミラが泣く。
「そんな……」
リオンが微笑む。
「いいんだ……」
ミラの腕を見る。
「治ったんだろ?」
ミラが頷く。
「でも……」
リオンが続ける。
「それでいい……」
目を閉じる。
「少し……休む……」
意識が遠のく。
ミラが叫ぶ。
「リオン!」
でも。
リオンは気を失った。
ミラが抱きかかえる。
「リオン……」
泣きながら。
「ごめんなさい……」
洞窟の中。
錬金陣が消えていく。
光が薄れる。
暗闇に戻る。
ミラは泣き続けた。
リオンを抱きしめて。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
繰り返す。
時間が過ぎる。
1時間。
2時間。
やっと。
リオンが目を覚ます。
「ミラ……?」
ミラが顔を上げる。
「リオン!」
リオンが微笑む。
「大丈夫……」
立ち上がろうとする。
ミラが支える。
「無理しないで」
リオンが頷く。
「ああ……」
洞窟を出る。
二人で。
支え合いながら。
外は夕方。
太陽が沈みかけている。
二人は森を歩き出した。
街に向かって。
夕日が二人を照らす。
温かい光。
リオンは思った。
『寿命10年……』
『でも……後悔はない……』
ミラを見る。
『お前を助けられた……』
『それでいい……』
心の中で。
エルヴィンに感謝する。
『ありがとう……エルヴィン……』
エルヴィンの声は聞こえない。
でも。
きっと聞こえている。
リオンは確信する。
二人は街に戻った。
新しい一歩を踏み出すために。
代償を払った。
でも。
得たものも大きい。
ミラの腕。
そして。
二人の絆。
それは何よりも大切なもの。
リオンとミラの旅が続く。




