第34章 自責の暴走
翌朝。
リオンは目を覚ました。
ベッドに寝ている。
いつの間にか眠っていた。
ミラは隣のベッド。
左腕が黒く染まっている。
まだ眠っている。
リオンは起き上がろうとした。
その時。
違和感。
自分の体なのに。
動きが違う。
そして。
気づく。
目が変わっている。
鏡を見る。
商人グレイの目。
「なぜ……」
つぶやく。
グレイの声で。
「戻れ!」
叫ぶ。
でも。
戻らない。
人格が固定されている。
リオンが焦る。
いや、グレイが。
「これは……まずいぞ……」
商人特有の計算高い口調。
「この状態では商売もできん……」
ミラが目を覚ます。
「リオン……?」
グレイが振り向く。
「ああ、起きたか」
ミラが首を傾げる。
「声が……違う……」
グレイが答える。
「商人グレイだ。リオンは……制御できていない」
ミラが驚く。
「制御できない……?」
グレイが頷く。
「ああ。昨夜から固定されている」
ミラが心配そうに見る。
「大丈夫なの?」
グレイが首を横に振る。
「わからん。初めてだ」
時間が過ぎる。
昼。
突然。
リオンの目が変わる。
戦士アレクの目。
体が動く。
戦闘態勢。
剣に手をかける。
ミラが驚く。
「リオン!?」
アレクが振り向く。
「敵は?」
周りを見回す。
「どこだ?」
ミラが答える。
「敵はいないわ!」
アレクが混乱する。
「では……なぜ俺が……」
ミラが近づく。
「落ち着いて」
アレクが頭を抱える。
「制御が……乱れている……」
夜。
また人格が変わる。
学者ルシアンの目。
リオンが本を開く。
「制御法を研究しないと……」
つぶやく。
ミラが聞く。
「リオン?」
ルシアンが答える。
「ルシアンだ」
本を読み始める。
「原因を探らねば……」
ミラは黙って見ている。
心配そうに。
夜が更ける。
ルシアンは本を読み続ける。
「なぜだ……なぜ制御が乱れる……」
つぶやき続ける。
「精神的ストレス……罪悪感……」
本を閉じる。
「そうか……」
ミラを見る。
「ミラを傷つけた罪悪感が……制御を乱している……」
ミラが首を横に振る。
「あなたのせいじゃないわ」
ルシアンが答える。
「いや、俺の責任だ」
視線を落とす。
「俺が弱いから……」
その時。
リオンの意識が精神世界に引き込まれた。
暗闇。
何もない空間。
そこに。
6666の人格が現れる。
円形劇場。
全員がリオンを見ている。
リオンが叫ぶ。
『制御させろ!』
人格たちが答える。
「お前が弱いからだ」
「諦めろ」
「ミラを見捨てるべきだった」
「仲間は足手まといだ」
「カインの言う通りだ」
リオンが叫ぶ。
『違う! ミラは仲間だ!』
人格たちが笑う。
「仲間?」
「お前が傷つけたのに?」
「左腕を動かなくしたのに?」
リオンが黙る。
人格たちが続ける。
「お前は弱い」
「6666回失敗した」
「今回も失敗する」
「諦めろ」
リオンが膝をつく。
『そんな……』
人格たちが囁く。
「諦めろ」
「諦めろ」
「諦めろ」
その時。
一人の人格が前に出た。
最古の人格。
ゴル。
「待て」
他の人格が黙る。
ゴルがリオンに近づく。
「リオン。お前は6666回失敗した」
リオンが頷く。
『ああ……』
ゴルが続ける。
「だが、今回は違う」
リオンが顔を上げる。
ゴルが微笑む。
「ミラがいる」
リオンが驚く。
ゴルが続ける。
「彼女は傷ついても、お前を責めない」
他の人格たちがざわつく。
ゴルが続ける。
「それが仲間だ」
リオンが涙を流す。
『でも……俺は……』
ゴルが頭を叩く。
「泣くな。お前は進むんだ」
リオンが頷く。
『ありがとう……ゴル……』
意識が現実に戻る。
部屋。
ベッドに座っている。
ルシアンの人格のまま。
ミラが隣にいる。
右手でリオンの手を握っている。
左手は動かない。
黒く染まったまま。
ミラが言う。
「あなたのせいじゃない」
ルシアンが答える。
「違う。俺の責任だ」
次の瞬間。
人格が切り替わる。
商人グレイ。
「この状態じゃ金も稼げん」
つぶやく。
ミラが困惑する。
「また……」
でも。
離れない。
手を握ったまま。
「一緒にいる」
グレイが見る。
「なぜだ? 俺はお前を傷つけた」
ミラが微笑む。
「傷つけたのはカインよ」
グレイが黙る。
時間が過ぎる。
人格が切り替わり続ける。
朝、グレイ。
昼、アレク。
夜、ルシアン。
24時間ごとに。
規則的に。
でも。
ミラは側にいる。
ずっと。
右手でリオンの手を握って。
左手は動かないのに。
それでも。
笑顔で。
3日目の夜。
ルシアン人格。
本を読んでいる。
「制御法を研究しないと……」
つぶやく。
ミラが寄り添う。
「無理しないで」
ルシアンが答える。
「でも……このままでは……」
ミラが首を横に振る。
「大丈夫。きっと治る」
ルシアンが本を閉じる。
「ミラ……」
ミラが微笑む。
「何?」
ルシアンが答える。
「ありがとう……」
ミラが首を傾げる。
「何が?」
ルシアンが続ける。
「側にいてくれて……」
ミラが手を握る。
「当たり前よ」
ルシアンが微笑む。
「そうか……」
その時。
人格が切り替わる。
戦士アレク。
でも。
アレクも微笑んでいる。
「ありがとう……ミラ……」
ミラが驚く。
「リオン……?」
アレクが頷く。
「ああ。俺だ」
ミラが喜ぶ。
「戻ったの!?」
アレクが首を横に振る。
「いや、まだ制御できない」
でも。
続ける。
「でも……心の中で感謝してる……」
ミラが涙を流す。
「よかった……」
アレクが手を握る。
「すまない……」
ミラが首を横に振る。
「謝らないで」
二人は手を握り合った。
しばらく。
窓の外。
星が見える。
静かな夜。
アレクが言う。
「必ず……制御を取り戻す……」
ミラが頷く。
「うん」
アレクが続ける。
「そして……お前の腕も治す……」
ミラが微笑む。
「大丈夫。生きてるから」
アレクも微笑む。
「ああ……」
二人は寄り添った。
ベッドに座って。
手を握り合って。
星を見ながら。
長い夜が過ぎていく。
でも。
二人は一緒。
それだけで。
少し。
希望が見える気がする。
リオンは心の中で思った。
『ありがとう……ミラ……』
『お前がいるから……』
『俺は諦めない……』
決意を新たにする。
制御を取り戻す。
ミラの腕を治す。
カインに勝つ。
魔王を倒す。
世界を救う。
全てを成し遂げる。
ミラのために。
そして。
自分のために。
人格が切り替わり続けても。
リオンの決意は揺るがない。
朝が来る。
また人格が切り替わる。
商人グレイ。
でも。
ミラは側にいる。
「おはよう、リオン」
グレイが答える。
「ああ、おはよう」
ミラが微笑む。
「今日も頑張りましょう」
グレイも微笑む。
「ああ」
二人の戦いが続く。
制御を取り戻すための。
希望を掴むための。
未来を切り開くための。
長い戦いが。
始まったばかり。




