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小物貴族が性に合うようです  作者: スパ郎


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140話 ワンパンだよ

「何を血迷ったのか、我のいるこのクリマージュ王国の地に踏み入ろうとは。いくら愚かで有名な万象の神ソリオンでも、それは悪手が過ぎるな」

「激情の神カナタ……。立ち去られよ、老いぼれ。古き時代は貴様の名と共に消え去るのだ」

「消え去るのは、何も我だけという訳ではない。原初の神エル・アルムの始めた新しき時代の創生は既に成った。『最後の神』も生まれ、原初の神の意志を託された人物もこの場にいる。神の使命は既にその役割を終え、我らは時代と共に消えるべき存在なのだ」


 カナタ様とソリオンの対話が続く。

 二人は宙に浮かんでいるので、見上げ続けており、少し首が疲れて来た。


 話の内容は少し理解できた。俺が使命を代わりに達成したとき、見て来たあの白い世界。確かにあの不思議な存在もカナタ様と似たようなことを言っていた。


「そんなものは知らないし、どうだって良い事だ。生まれし時より与えられた万象の神としての使命を果たすまで! 邪魔をするというのなら、貴様を消し去った後に、ゆっくりと王国を我がものとするだけのこと」

「話し合いは無理か。では、神同士らしく、その神力にものを言わそう」


 拳を握るカナタ様。その小さき体からは想像もつかない濃厚な魔力量が感じられる。マグロ級の桁を超えている。あれはもうクジラ級と言うべきだろう。辺りにも影響が出始め、分かりやすいところでは海面の水がその体に引き寄せられるように宙に浮かび上がって行く。


 となりでガタゴトと音がしたと思ったら、万象の神ソリオンの攻撃で瓦礫溶かした港の医師たちもカナタ様の元へと吸い上げられる。まるで巨大な引力だ。世界の中心がこの地に移動したのかもしれない。


 あんな恐ろしい存在が拳を握っただけで、俺なら地の果てまで逃げる決断をするが、万象の神ソリオンは構わず突っ込む。正面から当たる気なようで、こちらも進む速さで起こす風が海面を波立たせながら、あっという間にカナタ様へと距離を詰める。


 両者拳を握り、顔にはなぜ笑みを浮かべて、最強の神同士が殴り合う。

 俺の目が正しければ、両者の攻撃はそれぞれが的確に相手の顔と体を捕えた。


 痛み分けかと思われたけれど、結果は、明暗が分かれる。


 一方はその場から一歩も後ずさることなく不動。もう一方は、海底まで叩き落されたんじゃないかってくらいの勢いで海へと沈められた。

 海面に巨大なしぶきが上がる。今日は海が割れたり、巨大なしぶきが上がったりと、海さんサイドから苦情が来てもおかしくないことばかり。


「万象の神ソリオンとは、この程度であったか!」


 顔に赤い痣を作りながらも、激情の神カナタ様は笑みを浮かべ、海中へと消えた神を挑発する。相変わらず、楽しそうにその顔は微笑んでいた。


 わわわわっ!


 俺も気づけば、笑っていた。

 ええええっ、我らの建国の神、強すぎいいい。


 なんで運び屋がこの地にやって来たのか知らないが、あまりにも運が良すぎた。彼女の転移系スキルで届けてくれた最強神は、間違いなく偉大なる王国を作り上げた神だったのだ。これまであまたの危機を乗り越えて王国を守って来た。俺は当然彼女の功績など見たことが無いが、今の姿を見るだけで、その功績の一部を垣間見れた気がした。


 海から上がって来たソリオンは、水に濡れて色男っぽくなっている。傷こそ見えなかったが、少し気だる気にしている。だが、目を見ればわかる。戦う気力は失われていない。


 口を開いたとき、謎の超音波が聞こえて来て俺たち人間は揃って耳を塞ぐ。軽い石や木くずが転がるような圧力がある。


 威嚇だったのか、ジャブ的な攻撃だったのか、それを終えるとまたも全力でカナタ様へと突っ込むのだが、結果は同じだった。


 超音波を気にするそぶりも見せなかったカナタ様。接近し、両者ノーガードの殴り合いは、互角かに見えて、一方は傷を負いながらも笑顔を絶やさず、一方は苦悶に満ちた表情を浮かべる。


 そうして、強烈な一撃が肩に叩き込まれ、勝敗が決した。カナタ様が勝り、殴り負けたソリオンが俺たちの目の前へと落ちてきたのだ。


 大きな音と振動を立てて地面にめり込む。一体、どれほどの威力で叩き落されたのかがわかりやすい衝撃だった。


「弱い」

「……老いぼれめ。力を失ったのは、偽りだったか」

「いいや、真実だ。もう全盛期の半分の力もないだろうさ」


 驚愕の事実。

 力を失ってこの強さ。帝国を作り上げた偉大なる万象の神ソリオンに手も足も出させない圧倒的な力。


「ラザルスよ。見誤るな。我が力は確かに落ちたが、お前の愛する港街を守れない程、落ちてはいないよ」

 すみません! 俺も見誤っていました。


 港の神ラザルスさんと激情の神カナタ様は知り合いの様だった。そして、どうやら俺たちのやり取りも知られている。


 カナタ様はこの国で起きていることをどれくらい知っているかはわからない。けれど、流石に帝国の侵略があったこの地の出来事は把握していたみたいだ。


 ラザルスさんは膝をつき、両手指をクロスさせて握り込む。俯く姿は謝罪故か、それとも感謝故か。俺はうるさく言わないし、ラザルスさんが守ってくれたこともある。カナタ様になにか言うことがあるなら、後からフォローしてやらんでもない。


 そんな戦いの後を考えるくらいには、俺たちは勝ちを確信し始めていた。まだいろいろと面倒ごとは残っているのに、カナタ様の絶対感は、そう思わせるには十分だった。


「お見事。まさか我らが万象の神ソリオンに、適わぬ神がいようとは」

「女帝ユニアか。神の意志に呑まれた女。今からお前の軍艦も全て大海の底にしずめてやろう」

「しくじりの代償は受ける予定だ。激情の神カナタを見誤ったのは私も同じ。ソリオンと共に、この地に眠るとしよう。すまぬ、同志たちよ」


 腹の座った方だ。ちょっとだけ好感度が上がってしまった。

 それにしてもカナタ様、強すぎるっぴ! 一生ついていくっぴ! 我らの神最高っぴ!


「ユニア、我はまだやれる」

「万象の神ソリオンよ。もう立つな。これ以上、我らの敬愛する神が嬲られるのを見たくはない」

「……すまないなユニア。敗北だ」


 そうだった。

 俺たちが、なんとなくカナタ様に身内感や、信頼感、そして敬愛する気持ちがあるように、女帝ユニアにもその想いがあるのだ。

 俺みたいな小物で、カナタ様とほとんど縁がない身でもこんなことを考えるのだ。隣に立ち、二人で他民族をまとめ、帝国を築いた間柄なら、確かに見ているのも辛いかもしれない。


「ハチ」

 俺の名が呼ばれた。まさか、一度精霊の世界で会っただけだが、まだ覚えて貰っていようとは。光栄です!

 カナタ様、路銀を稼ぎに来ただけの俺に如何なる用が?


「お前はどうしたい? 私が暴れる前に、是非とも、お前の意見を聞いておきたい」


 俺の意見を?

 どういう意図があるかはわからない。それに、俺の意見は少しみんなが期待しているものじゃないと思うが、大丈夫かな。


「恐れることは無い。好きに申してみよ」

「俺は……女帝ユニアも万象の神ソリオンも恨んでなんかいないよ。確かに殺されかけたし、夫になれとか無茶な要求をされたりもしたけれど、本当に根に持ってなんかいない」

 小物は根に持つ生物だが、命を取りたいと思うほど冷酷じゃない。小物のそれは、ネチネチ系で、血生臭いのは苦手なんだ。

 じゃあどうしたかというと、少し言い淀んだが、折角聞かれたので答えよう。


「女帝ユニアも万象の神ソリオンも、そして海の上を走るあの大量の軍艦も、全員帰しちゃダメかな? 争いなんかよりも、俺は焼き立てのパンを共に食べるのが好きだ。いずれは帝国の美味しいものも食べてみたい」

「ふふっ、それでこそ我が作った王国の民の姿よ。私の使命に呼応する意志を、お前に感じた。国を作り、文明を育む。私の力が足りず王国民だけにしか恩恵を授けられていないが、本来はお前の理想こそ、私がやるべきしごとだったのだ。……ハチに感謝しろ、ユニア。ソリオンを連れて、帰るが良い」


 まさかまさか、俺の意見が通ってしまった。

 自分で言っておいていいの? 侵略されたんだよ?

 街ボロボロですよ。損害くらい請求しておいた方が良かったかも? 少なくとも俺の懐に入るお金くらいは貰っておいても良かったかもしれない。


 まあ、いいや。戦いが終わったのなら、俺にはあれがある。最後に確認だけすることにした。


「本当に、カナタ様もそれでいいの?」

 後悔ない? 力、弱まってんでしょ?


「また来たらまた撃退すればよい。それに王国にはもう『最後の神』が誕生している。お前の言う通り、根に持つ必要などないだろう? ネチネチ後から何か請求するかもしれないが」

「それがいい。俺たちの神は、随分と気持ちの良い神だな」

 少しネチネチしてくれるところも、また良い!


「ふははははっ。これまでに、数えきれない程面白き人間たちと出会って来た。お前は特に、その中でも特異な存在だった。面白きことが多い神生だった」

「明日にでも死んでしまいそうなセリフだよ」

「お前たちの感覚ではまだ数年は生きるだろうが、私にとってはもう数日とおなじ感覚よ。もう原初の神エル・アルムのとこに戻る日も近いだろうな」

 そんなものなのか。


 俺たちが心配していたほど早く、カナタ様はいなくならないらしい。その強さの頼もしさだけでなく、単純にまだいてくれるということが少し嬉しかった。なんだかんだ、俺はこの偉大なる神に親近感が沸いていたみたい。好きといってもいいくらいには好感度が高まったよ。


「激情の神カナタ、去る前にハチと少し話しても良いか?」

「構わん。というか、ハチに聞けばよい」


 自分は関与しないという。宙に舞っていた状態から、大地へと降りて来て、辺りの惨状を見て回る。

 大きな岩が転がっていたのを見て、カナタ様は海に投げ入れていた。どうやら街の修繕まで手伝ってくれるらしい。建国の神がそんなに働き者なら、俺も少しくらいなら貢献しても良いだろう。


「ハチ、お前の言葉一つで命を拾えた。この身も、神も、そして帝国兵たちも」

「別にいいよ。恩を売りたくて言ったわけじゃない」

 俺はただ俺の気持ちを優先しただけのこと。

 それに、昔から迷惑をかけられるのは得意なんだ。その後処理もね。小物の仕事ってのはそういう部分がメインだから。


「そうはいかない。お前にとんでもなく大きな恩が出来た。帝国は、この恩を忘れない」

「好きにしてよ」

「……ハチ、王になった際には、私自ら祝いに来るとしよう」

「なんのこっちゃ。俺はただのそこらの小物だよ」

「激情の神カナタがお前を見る目は、そうは見えなかったがな。それと」

「ん?」


 まだあるのか。俺もそろそろ行きたいのだが。

 カナタ様の街の整備方法が適当で見ていられない。さっきから瓦礫を海に投げ捨ててばかりだ。港町ですよ、ここ! 海になんでも投げ入れればいいってものじゃないぞ!


「お前を夫にすること、まだ諦めてはいない。王国は諦めたというか、もう欲しいとは思わない。私も少しだけ、お前の心を見習う必要がありそうだ。……そしていずれ、お前は必ず私のものにする」

「どうかな。王国を手に入れるよりむずいかもよ?」


 俺には既に完璧なパートナーがいるのだから。ノエルはこの世界で最高の女性だ。姉上たちも認めているんだ。間違いないだろう。


「ふふっ。難しい程欲しくなるというもの。では、また会おう」

 黙っているなぁって思っていたら、意識を失っていた万象の神ソリオン。荷物のように肩に担ぎ、海に飛び込んでいく女帝。来た時と同じだ。破天荒というか、逞しいというか。


 神あんな扱い方で大丈夫なのかな? 礼儀うんぬんは知らないが、まあ絶対頑丈だしなんとかなるか。


 まるで人魚のように綺麗に着水し、海中へと瞬く間に消えては、影すらも見えなくなってしまった。

 騒がしい一連の出来事だった。


 神の攻撃で真っ黒になっちゃったけど、それでも俺はまた生き延びたらしい。


「ふう、盾持ちとして幾らか街を守れると思っていたのだが、前回の様には行かなかったな。エルフィアとは桁が違う。これはまた、一から鍛え直さねばならんな!」


 戦い終わったばかりだというのに、将軍ローデリヒから信じられない言葉が出る。

 訓練したってあんな高みを相手に出来るとは思わないけれど、やはり王国一有名な軍隊は心意気からして違うみたいだ。


「これが神……。我らが神はここまで強かったのか。ローデリヒよ、ワシはお前の様には考えられん。この戦いを経て、ワシは引退を決めたよ」

 アルノー・ブレザックは引退をほのめかす。それが普通だよね。俺はどちらかというと、そっちに共感できるよ。


「がはははっ! 馬鹿を言え、アルノー。引退してどうする! 生きて鍛錬し続ければ、またこの様な面白い出来事に巡り合えるかもしれなんのに!」

「……なるほど。こりゃ『盾持ち』が王国最強と呼ばれる訳だ。認める他無さそうじゃな。……おい、ハチ」

「ん?」


 将軍格同士の会話に、また俺の名が呼ばれた。

 こちらを見つめて来るアルノーの視線が少しだけ怖くあった。


「ワシはどうあってもリュミエール様の味方よ。しかし、此度のことで、お前の評価を変えねばならぬ。侵略者に対して正面から立ち向かう男。そんな勇敢な男が夢を叶え、頂点に立つのも悪くない気がしてきた。さらばだ、ハチ。会えてよかった。そしてすまなかった」


 ……なんだったんだろう。格好良く語って、謝られた。助っ人に来てくれたアルノー元将軍。謝罪どころか、こちらが感謝したいくらいなのに。どれほど頼もしいそんざいだったことか。


「アルノーがあれだけ人を褒めるのは珍しい。長い付き合いだが、リュミエール王子以外で、あれだけ良く言うのは、自分のことくらいだ。あれは性格が悪いのでな! がっはははは!」


 ボロボロになって、何が楽しいのか終始笑っている将軍ローデリヒ。

 軍をまとめる必要があるからとこちらも立ち去って行く。丸眼鏡兄さんのアトスさんとは少し話したかったが、忙しい身だ。引き留めるようなことはしなかった。


 いろいろ終わって、俺もカナタ様の元へと走って行く。

 もう二日ほどここにいよう。復興には人手が必要だろうから。もちろん、路銀分以外にも、手当てを請求する予定だ。


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― 新着の感想 ―
港の医師が何をしたっていうんだwww
瓦礫溶かした港の医師→瓦礫と化した港の石 じゃないかな?
更新ありがとうございます。 誤字は、もう2巻書籍化の際の校正さんに期待です。 1巻もちゃんと誤字無かったしw 是非是非、2巻もお願い致します。 内容とても面白くて大好きです。
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