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小物貴族が性に合うようです  作者: スパ郎


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139話 く、来る!

『カナタの聖圏』はもう本当に壊れかねないところまで来ていた。

 それほどに、ボロボロに罅が入ってしまっている。


 折角女帝を倒したのに? そりゃないぜって感じだが、神がこちらの事情を気にするタイプじゃないのは、俺も承知の事実。


 あれを止めなきゃって思うと同時に、いやいや無理でしょという気持ちも同時に沸いて来る。


 でも、出来ることをしないと全滅待った無しな感じもあるので、俺は取り敢えず気になるところから当たることにした。


 女帝から武器を引き、背を向け、立ち去る。


「どこへ行く? まだ間に合う。今、私と共に来れば、万象の神ソリオンとの衝突を避けられる。来い、ハチ。お前は帝国にて私と共に明るい未来を歩むのだ!」


 一度断ったはずだが、女帝ユニアから再度熱烈なアプローチを受けた。

 この状況に至ると、更に魅惑的な誘いだ。


 けれど、再度首を横に振る。


「ありがとう。でも、俺は帝国には行かないよ」

 小物なりに、ちゃんと責任感を持っているんだ、俺は。


「一端に、分不相応な力を得た。偉大なる神からその一部を分け与えられなら、せめてカナタ様の願いである王国の発展のために精進したい。そう思うくらいの甲斐性は、俺にだってあるさ」

「帝国に来れば、そんな恩を忘れさせる程、全てを与えてやれると言っているのだ」

「それは貰い過ぎだ。俺の器じゃ溢れちゃうよ」


 貰い過ぎは、結構気に病んじゃうタイプでね。お返しも出来ないし。


「じゃあ、行くよ。まずは話を付けたい相手がいる」


 ユニアはそれでも言葉を紡いだが、聞こえないふりして走り出した。

 目当ての人物は、何か所か心当たりがあって、最初の心当たりの場所で遭遇した。


 大量の荷物を受け入れる巨大倉庫の裏手にある、港の荷運びのみんなが炊き出しを食べる場所。避難した皆とは違い、一人焼き魚を静かに食べていた。

 髭面のおっちゃん、ラザルスさんだ。


「ハチ……! お前さん、何をしておる。早く逃げないか!」

「それはこっちのセリフだよ」


 俺は逃げ遅れたんだ。余裕ぶっこいていたら、予想外な展開になってね。

 でも、あんたはそうじゃないらしい。


「呑気に焼き魚か。あんたの正体、なんとなく察していたよ」

「……そうか」

「ラザルスさん、あんたはこの港街に住む凡庸な人物なふりをしているが、おそらくその正体は神。違うかい?」

「気づかれておったか。……正解じゃよ。神として、この港街でもう300年は生きている」


 隣に座って、まだ手の付けられていない魚を一匹貰った。

 焼き加減がばっちりで、塩加減も素晴らしい。


「うんま」

「まだあげると言っておらんのに」

「ケチケチするなよ」

「……いつから、ワシが神だと?」


 いつから、か。

 違和感はずっと覚えていたんだよな。


「オルカに殴られた時、あんたが思ったより軽傷だったのが初めて違和感を覚えたと思う。一つ気になるとね、もうそこからは小さな情報が次々と気になってどんどん確信へと変わって行った」

「王立魔法学園の生徒の攻撃には、もう少し大げさに反応しておくべきだったか」

「うん、そうだと思う」

 あそこの生徒は、世間じゃ優秀極まりないからね。

 一般人が身体強化の一撃を受ければ、下手したら命が脅かされかねない。


「別に今から答え合わせをしようとしている訳じゃないが、『裏切りの神』という言葉を女帝から聞いたからには、流石に放置は出来ないよな」

「それも見抜かれたか」


 激情の神カナタ様の作った『カナタの聖圏』。偉大なる神の力が弱まったからといって、いきなり侵略されるのか? そして100年も王国を守って来たものがそんなに簡単に壊れるのかという疑問があった。


 俺は大物を信頼している。それもカナタ様レベルとなると、もう帝国の侵略を前にしても安心して笑っていられる程信頼しているのだ。


 なのに、カナタ様の作ったものが壊れようとしている。

 これは何かタネがありそうだと感じていた。


 そして、女帝の口から発せられた『裏切りの神』という言葉でいろいろと繋がった気がしたんだ。


「カナタの聖圏は簡単に壊れるものじゃない。ただし、二人の神の力が加われば、それも可能かもしれない、とそう考えた」

「それも正解じゃ。……ハチ、以前に城塞跡からお前に話をしかけた話があるだろう? 領主の娘ポルカの事故を」

「ああ、途中でやめたあの話だな」


 嫌な記憶だからって辞めた話だった。気にはなっていたが、不躾に聞き出すようなことでもないと思っていた。


「ポルカは昔、港でおぼれて死に至ったのだ」

 死に至った?

 流石に驚いて、魚を食べる手を止めた……けどまたすぐに食べだした。うまいからね。


「ワシは港町と同じくらい、あの子のことを愛していた。娘のように想い、死なせたくないと思った。……それで、私の心臓をあの子に渡した」

「神の体の一部を彼女に?」

「その通りじゃよ。ポルカの心臓は神の魔力によって動いている。命を取り留め、神の影響は受けるだろうが、それでも彼女の命は繋がり、また生を謳歌できる。その代償として、私は神の力のほとんどを失った」


 そういう経緯があったのか。

 ポルカ・メルメル。あの女の説明のつかない超幸運体質は、神譲りのものだったらしい。俺もカナタ様からパーツを貰った身である。今度宝くじでも買おうと思う。


「この港町を愛しておる。だからこそ、誰よりもカナタ様の力が弱まるのが恐ろしい。日に日に、カナタの聖圏の力の弱まりを感じる。神ゆえに敏感にわかるのじゃ。カナタ様の力は、全盛期と比べて半分も無い。今、帝国が攻めてくれば、私は自分の力でアサギリの街を守れないどころか、おそらくカナタ様でさえも……」


 それが裏切りの理由。

 自分の力でアサギリの街を守れない。頼りにしていたカナタ様の力も、神ゆえに誰よりもその力の弱まりがわかると。


「けっ。どんなお涙頂戴の事情があるのかと思っていたが、聞いて損したよ」

「ハチ、お前にはわからんよ。この恐怖は決してわからん! ワシは港町を愛している。そこへ帝国から『カナタの聖圏を壊す協力をすれば、アサギリの街には手を出さない』と言われたのだ。ワシの想いなど、お前にはわかるまい!」


 わかんないよ。

 死ぬほど悩んで裏切りに手を染めたのもわかる。

 けれど、それでも共感は出来ないね。


「俺も、虎の威を借りて暮らしてきたから良く分かっている。強き者には逆らうな。けどな、あんたのそれは違うと思うよ」

「何が違う!」

「俺たちは主君の影に隠れて身の安全を確保する小物だ。けれど、その代わりに、何があってもその主君を裏切ってはならないんだ」


 それが正しき小物道だ。信用を失った小物に、居場所なんてだれも与えちゃくれない。

 少なくとも、俺はそう思っている。


「昔さ、ウルスって言う自称小物の神がいたんだ。とんでもない逆境を前にしても、そんな情けない顔はしてなかったよ。逃げに逃げたが、最後は使命を全うし、穏やかな表情で行った。誇らしい神だったよ。あんたは、今の自分の行動を誇れるのかい?」


 大好きな港町にいるはずなのに。一緒に働いていた時には幸せそうな顔で炊き出しを食べていたラザルスさん。けれど、今はなんでそんな苦しそうな顔をして、こんなおいしい焼き魚を食べているんだ?


「おそらく、俺が言うまでもなく、あんたは答えを持っているはずだ」


 神は俺の何倍も生きている。そんな存在に説教を述べるのもなかなかに大変だ。

 最後に美味しい魚も食べられたし、そろそろ行くとしよう。


「うしっ、万象の神ソリオン? その実力、拝ませて貰おう」


 炊き出し場から立ち去り、俺は女帝のいる港まで戻った。


 海を眺めるように座り込む女帝がまだそこにはいて、盾持ちたちが港を守るように布陣する。負けず嫌いな様子が伝わる布陣で、隣には槍持ちたちが綺麗に布陣する。


 どちらも万象の神ソリオンが迫っているというのに、命が惜しくないらしい。


「将軍、どうせ逃げられないんだ。俺も一緒に戦うよ」


 盾持ちたちと槍持ちたちのちょうど真ん中に立ち、折角なので一歩前に出た。こっちの方がリーダーっぽくて格好が良い。


 神相手だ。前にいようが後ろにいようが、どうせ同じだ。


「ハチ、お前用の盾はいつでも用意してあるが、使うかね?」

 アーティファクトの盾か。それもまた良いが、今は変刃がある。手にも馴染むし、これがお気に入りだ。


「将軍、ありがたいが、今は必要ない」

「そうか」


 今度は槍持ちの方から声がする。

「その猛々しい決意に満ちた表情。ハチ・ワレンジャール。ここまでの男であったか。盾持ちなど勿体ない。お前は槍持ちにこそ来るべきだ!」

「だまれい、アルノー! ハチはうちに来ると決まっておる!」

「貴様こそだまれい! 俺はこの男が気に入ったんだ!」


 爺さん同士で言い合いをしているが、俺はどちらにも行くつもりなんてない。

 ただ、生きてノエルの元に戻るんだ。それだけしか考えていない。


 だから、万象の神ソリオン相手でも死ぬ訳には行かないと思っている。


 最後にもう一度強烈にガラスが割れるような音が辺り一帯に響く。

 パラパラと透明な壁が海に降り注ぎ、空が割れたのかと錯覚させられた。


 万象の神ソリオンが一歩その歩みを進める。とうとう『カナタの聖圏』が壊れてしまった。わかってはいたことだが、どっと汗が噴き出る。


「有象無象の者どもよ! カナタの聖圏が壊れた今、貴様らは死んだも同然。逃げよ、叫べ。何を血迷って、我が前を遮るか! ユニア、そこでは巻き添えを食らう。即刻立ち去れ!」


 神の声が響いて来る。

 どういう原理か、海から語られているような感覚で音が聞こえて来た。


「私はここにて見届けるよ。ハチとの対決に負けたのでね」

「ふん、構わぬ。後で泣き言を言ってくれるなよ!」


 万象の神ソリオンが宙に飛び上がる。

 両手を広げ、太陽を背にして、正しく神々しくある。


 両の手に、目にも見る凝縮された魔力を込め、今にも港町を吹き飛ばさん程の攻撃の準備をしているのがわかった。


「ワシの目が節穴じゃなければ、以前戦ったエルフィアとは格の違う神らしい」

「全く、同感だ」


 アイデアも工夫も無い。ただうごめく強大な力をシンプルにぶつけるだけの攻撃。両手を閉じる素振りをすると、その強大な黄金色に輝く魔力が俺たち目掛けて飛んでくる。


 変刃を構え、将軍たちと一体になって、神の一撃に耐える。

 魔力弾が迫る瞬間、俺たちの前に飛び出す人物がいた。


 顔は見えなかったが、誰かは察しがつく。


 港の船が吹き飛び、俺たちの背後にある巨大倉庫も基礎部分から瓦解して建物ごと吹き飛ばされた。

 隣にいたみんなの存在を感じられなくなるほどの力にただただ変刃を構えて堪える。


 その時間はあまりにも苦しく、まるで数時間が過ぎたんじゃないかってくらい相対的に長く感じられ、恐ろしくきつかった。

 右手のマグ・ノワール、左手の神の魔力、そして飛び込んで来たラザルスだと思われる人の守りがいなければ、木端微塵になったんじゃないかと思われるような凄まじい攻撃だった。


 攻撃が終わると、目の前には丸焦げ状態のラザルスさん。左手を守っていた盾持ちはほとんどが吹き飛び、残った将軍やアトスさんも一撃で満身創痍。盾は砕け、全身ボロボロになって、軽く押すだけで瓦解しそうだった。


 右手の槍持ちたちはアルノー以外は全員が倒れ、しかしアルノー自身は折れた槍を握りしめながらまだ立っていた。

 流石に、建国の神は桁が違う。


 けれど、俺たちは立っている。

 生きていることが嬉しくて、ニッと笑っていると、海面からヒョコっと顔を出した女帝ユニアが驚愕した目でこちらを見る。その目とあった。


「王国の戦士はここまで屈強か。見事!」

「……とはいっても、二発目はもう無理そうだ」


 地面は瓦解し、大地震でもあった後のようになっている。辺り一帯そうだ。

 目の前で丸焦げになって突っ伏しているラザルスさんに駆け寄る。息はあった。流石は神だ。生命力がけた違い。


「おい、生きてんだろ? ラザルスさん。ナイス飛び込だ。耐えられるかと思っていたが、あんたが真ん前にて守ってくれなかったら、多分俺も、みんなもダメだった」

「……ワシは情けない神よ。結局、愛したアサギリの街はこんなありさまだ。全てがワシのせいじゃ」

「失敗は誰にだってある。神の人生は長いんだろう? 取り返すチャンスはいくらでもあるさ」


 そうは言ってみたものの、本当か? って自分でツッコミを入れてしまいそうになる。というのも、もう2発目は耐えられない。

 それに比べて、万象の神ソリオンは悠々自適に空を舞い、次弾の準備に入っている。


「我、万象の神ソリオン。不可能を可能にする神。ユニアよ、世界をお前の手に齎そう。理を一つにまとめ、世界から対立を消し去る。それこそが我が使命なのだから」


 争いを無くすために世界をまとめる神か。

 規模が違うや。


 圧倒されていると、手から力が抜け、一瞬変刃を落としそうになった。

 けれど、なんとかもう一度武器を握る。

 強い視線を神に向けた。そうでもしなきゃ、心が折れてしまいそうだったから。


「まだ我を睨みつける気力があるか。実に見事!」


 神の声が頭上からする。こちらを見下ろす目は、同格の相手と戦っている目ではない。虫でも踏みつぶすような目だ。


「嬉しくも無い称賛ありがとう。俺が2週間もお世話になった街だ。街ではなく、まずは俺たちの相手をしちゃくれないか?」

 その意識が街に向いている気がして、そう言ってやった。


「どこまでも気丈なことだ。それもまた見事」


 えっほえっほえっほえっほ。

 神との対話を続けていると、少し場違いで子気味の良い声が聞こえて来る。


 皆がそちらに気を取られ、視線を向けた。

 思わぬ人物の登場。


 王立魔法学園の教師にして、『運び屋』と呼ばれる女性の先生だ。学園在学中にあまり縁がなかったのだが、良ーく覚えている。

 巨大なリュックサックを背負い、ボロボロに砕けた地面の上を器用にジャンプしてこちらへとやって来た。


「えーと、問題を起こしたオルカ君を迎えに来たのですが、どうやらそんなこと言ってられる事態ではないらしいですね」

 一人だけテンション感の違う彼女。

 大きなリュックサックを地面に置くと、上部を覆う蓋の役割をした部分を取り去った。


「まさかこれを発動させる日が来るとは夢にも思っていませんでしたが、流石はあの方。こんな事態への対処も怠っていないとは」


 ボロボロになった俺たちはひたすら運び屋さんの言葉を静かに聞いていた。万象の神ソリオンも、彼女の異質さに様子を見守るばかり。


「では、呼び出しますよ! せーの!」


 その巨大なリュックサックの中から、何かを引っ張り出すようなしぐさをする。

 引っ張り出されたのは、誰も予想していなかった人物。


 見た目はまるで少女。

 しかし、その身にまとうオーラや、直に感じられる魔力の異質さで、ただの少女ではないとすぐにわかることだろう。


 そして、俺や将軍たちは見たこともあるので、すぐに誰かわかる。


「……激情の神カナタ」

「見事であるぞ、ハチ。ローデリヒにアルノー。他にも我が王国の子たちよ。よくぞ、戦った。これより先は、ワシに任せよ」

 腕を組み、穏やかな表情で宙へと浮かび上がるカナタ様。

 その正面に、万象の神ソリオンが向かい合う。


 先ほどまで余裕たっぷりだったその表情も、同じ建国の神の出現に、余裕の色が失われていた。


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― 新着の感想 ―
待ってました!! 真打登場!!
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