⭕ 桜の木 5‐3
──*──*──*── 画廊喫茶・仔ウサギの子リス亭
モリアーテ
「 あぁ~~~~っ!
やっと終わったなぁ~~~。
はぁ~~~疲れたぁ~~~。
ワトスン~~~なんか飲み物ぉ~~~~ 」
ワトスン
「 オレも疲れてるんだけど! 」
ホームス
「 モリアーテ、荷物を探偵所へ運ぶのを手伝ってください 」
モリアーテ
「 えぇ~~~!
お前人使い荒過ぎぃ~~~ 」
ホームス
「 今夜は取って置きのワインを出しますよ 」
モリアーテ
「 阿呆!
ワインなんかでオレを釣れると思うなよ!
オレはもう1歩も動けないんだ 」
ワトスン
「 ──ゼフタの80年モノだけど、モティだけ無しって事だな? 」
モリアーテ
「 はぁ?
ゼフタの80年モノだと?
何処で手に入れたんだよ? 」
ホームス
「 運ぶの手伝ってくれますか? 」
モリアーテ
「 ──たく…しょうがないなぁ~~。
運転も力仕事もモリアーテ様に任せなさい! 」
ワトスン
「 流石、モティ!
頼りになるぅ~~ 」
ホームス
「 助かります、モリアーテ。
夕食が済んだら写真の穴を塞いで写メを取りましょう。
データはタブレットとパソコンに残して、予備のUSBにも保存して隠します 」
モリアーテ
「 予備データ要るかぁ? 」
ホームス
「 念の為──、保険ですよ 」
モリアーテ
「 保険ねぇ?
警察に没収されたら丸投げすれば良いだけだろ? 」
ホームスとモリアーテは回収した藁人形の入った箱をバックヤードへ運び入れると業務用エレベーターの中へ乗せて2階の探偵所へ移動した。
──*──*──*── 2階・探偵所
1階の画廊喫茶で夕食を終えたホームス,ワトスン,モリアーテは夕食前に運び入れた箱の封を開け、3点セットの入った袋を1つずつ取り出すと、穴空きの写真を抜き出して穴を塞ぐ地道な作業を始めた。
2人は1枚ずつ写真の穴を塞ぐ係りで、1人がスマホで写真を写メる係りだ。
写メった後は袋に書いてある番号と同じ袋に入れて再び箱の中へ入れて行く。
地味な同じ作業をひたすら黙々と続けるも1日で終わらず、作業は翌日に持ち越された。
──*──*──*── 翌日
朝食を済ませたホームス,ワトスン,モリアーテは昨日の作業の続きを始める。
依頼を受けている最中の画廊喫茶は休みにしており、店内が見えないように下ろしているブラインドには『 探偵業中の為、休み 』とデカデカと書かれている。
ホームページにも休み中である事を記載し、お客が来ないようにしてある。
留守番電話にも『 只今、探偵業務中で当店は休みです 』とメッセージが流れるようになっている。
ワトスン
「 そう言えばさ、藁人形を回収し終わった後、依頼人へ連絡ってしたっけ? 」
ホームス
「 ワタシが済ませましたよ。
桜の木のケアは今日から始まるそうです 」
モリアーテ
「 何でホームスが連絡するんだよ!
それはオレの役目だろ!」
ホームス
「 何を言うんですか?
依頼を受けたのは所長のワタシです。
ワタシが連絡するのが筋でしょうに 」
モリアーテ
「 依頼人が女性の時はオレに連絡させろ!
オレが連絡係りだからな!
男の依頼人ならお前に任せるぅ~~~ 」
ホームス
「 モリアーテ、依頼人には手を出さないでください… 」
モリアーテ
「 大事な依頼人には何もしないって!
報告がてらに日帰りデートするだけだって 」
ホームス
「 デートする必要はありません。
此処で報告しますから 」
モリアーテ
「 はぁ…………なぁ、ホームスよぉ。
外で会わないから素敵な女性との出逢いがないんだぞ?
オレ達さぁ、成人してるんだぜ?
来年は21歳だ。
彼女の1人や2人居たっておかしくないんだぞ。
高院生になると殆んどの院生に彼女が居たし、卒業すると結婚する奴だって多く居た!
それに比べてオレ達はどうだったよ?
彼女が出来た事なんて1度でもあったか? 」
ワトスン
「 何言ってんだよ。
モティは何時もモテモテだったじゃん。
『 僕は皆のモリアーテだから、特定の彼女は作らないんだ! 』って公言して女子院生達と遊びまくってたくせに良く言うよ 」
モリアーテ
「 仕方無いだろ!
あぁでも言わないとオレが酷い目に遭ってたんだからな!
保身だよ、保身! 」
ワトスン
「 モティに関しては自業自得だろぉ~~~ 」
モリアーテ
「 そう言うワトスンだって、高院生になると女子院生と会う度にチヤホヤされてたじゃないか。
小院生に間違われてたよな 」
ワトスン
「 煩い!
背が伸びないんだから仕方無いだろ!
好きでチヤホヤされてた訳じゃないし! 」
モリアーテ
「 身長が150cmで止まったままなんて……可哀想な奴 」
ワトスン
「 身長の事は言うな!! 」
ホームス
「 口より手を動かしてください。
午前中に終われませんよ 」
──*──*──*── 午後・14時
ワトスン
「 ──ホム、モティと買い出しに行って来るな 」
ホームス
「 気を付けて行って来てください 」
買い出しに出掛けるワトスンとモリアーテを見送り、送り出したホームスは階段を上がり探偵所へ入るとノートパソコンの画面を立ち上げ、とある作業に取り掛かった。
一通りの作業を終えたホームスは、スマホを取り出すと、知り合いへ連絡を取り始めた。
ホームス
「 ───グレイツか、久し振りだな。
ホームスだ。
頼みたい事がある。
あぁ──そうだ。
あの事件の予兆が起きた。
被害者が出る前に皆でターゲット達を手分けして保護してほしい。
そうだ。
先手を打ち、犯行を妨害する為だ。
犯人が違うからなのか予兆が1ヵ月早い。
未だ犯人の正体は分からないが、至急ターゲットの保護に回ってくれ。
ワタシの把握している順番,時間,場所で同じ人物が殺害されるとは限らないからな。
未来とは変わって来ているが、此処で被害を防げても全国で【 藁人形ランダム殺人事件 】の予兆が起きるかも知れない。
大変な作業だが全国で【 藁人形ランダム殺人事件 】の予兆らしき事象が起きてないか引き続きチェックを頼む。
気を引き締めて任務に当たってほしい。
ゲルニマ達には必要な情報は送信しといた。
あぁ……確認を頼む。
──ではな、何か有れば報告してくれ 」
スマホで協力者のグレイツへの電話を済ませたホームスは、所長椅子に腰を下ろして座る。
ホームス
「 ──さてと、ワタシの知る未来ではモリアーテ・アンセーヌが【 藁人形ランダム殺人事件 】と【 連続大虐殺人事件 】の犯人だったが、今世では誰が犯人なのかな……。
次の【 藁人形ランダム殺人事件 】の予兆が起こる前に犯人を突き止めて捕らえたいものだが……。
それにしても……モリアーテは随分と性格が変わったようだな。
まさか彼処まで変わるとは予想外だったけれど……、今世では面識の無い師匠がモリアーテに殺害される事はないし、ワトスンがモリアーテを銃殺して燃え盛る炎の中で死ぬ事はないだろう。
改変は確かに出来ている。
出来ている筈なのに何故【 藁人形ランダム殺人事件 】の予兆が起きたんだ……。
普通なら起きない筈なのに…。
藁人形に打ち付けられたターゲットは未来の被害者と同一人物なのは何故だ。
………………今後も油断は出来ないな…。
【 藁人形ランダム殺人事件 】と【 連続大虐殺人事件 】を未然に防ぐ迄に過去へ遡り、少年探偵学院,少女探偵学院,青年青女探偵学院を設立したんだ。
全ては今世のモリアーテ・アンセーヌを残忍で残酷な怪奇殺人鬼にしない為、忌まわしき事件を起こさせない為に──── 」
ホームスはスマホを操作すると古くからの友人でもある警察関係者へ連絡を取った。
「 事件性が無い 」「 唯の悪質な悪戯だ 」と言い【 藁人形ランダム殺人事件 】の予兆を放置した警察に犯人捜査をさせる為にだ。
これから先、再び【 藁人形ランダム殺人事件 】の予兆が起こるのかは、未来人のホームスにも分からない。
過去の選択を変えれば未来の結果も変わる。
未来人であるホームスが過去へ遡り、モリアーテとワトスンの人生を変えた事により未来は少しずつだが確かに改変された。
ホームスの生きていた未来の世界は消えてしまったが、今世が未来と同じ結果にならない保証は何処にもない。
ホームスが設立した探偵学院の存在と多くの探偵を世に輩出した功績により、ホームスの知る未来よりも犯罪件数は大幅に減少してはいるものの人間が存在する限り、犯罪は決して無くなりはしない。
どんなに厳しい極刑を受ける事になったとしても、人間は犯罪に手を染める事を止めないだろう。
ホームスの苦労は、生きている限り、これからも続くのだ。