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2 ジョナside

「今のクレアは魂が抜けたように、壁の一点を見てるらしい」


「……そうか。問題は、話が聞けるかどうかだな」


「闇の力は適性が無い者が使うと、精神力が奪われると言われてるからね」


「話を聞くのは難しいか……。だが、少しでも進展が欲しいな」


 2人の声を聞きながら、もう2度と歩く事はないと思っていた、ジメジメとした地下通路を歩く。

 長く感じる通路に3人分の足音が響き渡っている。


(なぜ私は、ここにいるんだろうか)


 リアーナの様子を聞きに保健室に行こうとして、たまたま会っただけなのに。

 今、イケメン2人に挟まれています。 


『一緒に来てくれないか』と、ファディスに声をかけられ、狼狽えながらも2人の後を追うように歩いていた。

 しかし、いつの間にか挟まれるように歩いている。居た堪れない私の頭上を2人の会話が飛び交う。

 こんな状況誰が想像していただろう。誰も想像できないでしょ。


 モブの隣にメインキャラ2人って誰得?

 ……私得です。ありがとう。


 正直、とっても眼福であるが、こんな時じゃなければどんなに良かったか。


 隣を一緒に歩いている2人は、ずっと強張った表情をしている。


 リアーナの事が心配で、本当は側にいたくて仕方ないんだろうな。

 クレアの事で、処理しなければならない仕事が多いはずだ。どれだけ時間を費やさなきゃいけないんだろう。


 隣を歩いてる人たちの表情を盗み見ながら、ため息を吐こうとして抑えた。

 この人たちの隣でそんなこと出来ない。私がそんな事してはいけない。


 ため息を吐きたいのは、きっと私じゃなくて隣にいる2人だから。


 私だってこんな事になるなんて思いもしなかった。


(リアーナは、大丈夫なはずだった……)


 あの時、遠くのリアーナが闇に包まれていく時の恐怖。リアーナの光が降り注いだ時の心地よい安心感と、あのお伽話を思い出した時の絶望感。一瞬の出来事だったのに、永遠に続くんじゃ無いかと思ってしまった。


 闇の力に取り込まれ、ゲームの中のリアーナが死んでしまうbat endは、何ヶ月も先のはずだった。


 こんな早く闇の封印が解かれるなんて。まだ、重要な人物が現れてないのに。

 それに、この時期には封印されている壺は、まだこの国にないはず。

 しかも、操られるのはリアーナだったのにクレアになっているし。


 もしかしたら、乙女ゲームの道筋から大きく外れてしまって、私の予想を超えて未来が大幅に変わったのかもしれない。だから、補正が大きく働いているのかも。


 考えても考えても、頭が痛くなるばかりで、違う楽しい事を考えてしまいたい。


 そう考えると、思わず隣を見てしまう。


 イケメンはどんな姿でも絵になるわ。

 憂えた表情はファディスやロゼットに申し訳ないが、本当に絵になるよ。本当に。

 あー、ダメダメ。今はそんな事考えちゃ……す、少しだけなら考えても良いよね。


 でもさ、やっぱり皆んな幸せに暮らせる道を掴み取りたい。bad endだけはならないようにしないと。

 ここは、リセットもリスタートも強くてニューゲームもない。皆んなにとって現実の世界なんだから。


「おい。ジョナ、聞いてるのか?預言者なんだろう」


「あー、はい!ちゃんと聞いてます」


「さっきの事は、予言されていなかっのか」


 預言者……。ファディスたちの協力を得る為に、変に思われない様ついた咄嗟の嘘だった。

 でも、私は自分が本当に預言者だと思い上がっていたのかもしれない。

 私が起こりそうな事を予見しリアーナを守れると、皆んなを幸せに導くんだと……。


 自然と歩みが止まり、自分の不甲斐なさが露見されているようで項垂れた。


 私の力なんて些細なものだった。1人の考えじゃ何もできない。

 申し訳なさから力いっぱい頭を下げる。


「すみません。……わかりませんでした」


 私の頭に、ふわりと優しい手が触れる。


「すまない。責めたかったわけじゃないんだ」


 ファディスの声が思ったより優しくて、なんでか胸が締め付けられる。


 この世界は、皆んなの現実って思ってたじゃない。

 こんなに頼もしくて、信じれる人がいっぱいいるのに。


 私が知ってるこれから起こる事を、皆んなで解決出来れば、幸せになる道が見つかるかもしれない。

 でも、本当に話していいのだろうか。


 全てを話すと言う事は、bad endを回避する為に、皆んなが抱えている問題を解決しなければならない。

 私はゲームを通して、皆んなの抱えている問題を知っている。その事が凄く後ろめたくあるし、その事を言って良いのかもわからない。


「……ジョナ」


 ロゼットの申し訳なさそうな声に、そうさせたいんじゃないと、顔をあげる。

 私を見る2人の優しげな表情が、全てを話す事を躊躇っていた私の背中を押した。


(大丈夫。ゲームの中の人たちじゃ無い)


 皆んなが、リアーナを守りたいと思う気持ちは、痛いほど伝わってくるから。


 私はゆっくりと息を吐き、2人の目を交互に見た。


「……あの、聞いて欲しい事があるんです。さっきの出来事は何ヶ月も先に起こる事でした。それが今起こったと……」


 ロゼット様は慌てた様に口に人差し指を当て、私の言葉を断つ。


「……ジョナ、ここでは不味い。後で僕の部屋で聞こう」


 ファディスは一瞬考え、そう言うと微笑んだ。


(ヤバい。その笑みは……)


 私が決断した気持ちが間違いじゃ無いと思わせるような微笑みに、キュンキュンした事は恥ずかしいので伏せたい。

 こんなモブにまで優しいなんて、推し変しちゃうよ。


「さぁ、早くクレアに話しを聞きましょう。早急に進めなくてはいけませんね」


「あぁ。行くぞ、ジョナ」


「は、はい!」


 ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ赤くなった顔を隠しながら、少し歩みを早めた2人の後を追う。





 長い通路を抜けて、見覚えのあるところに着く。

 ロゼットは牢屋の隣の部屋を開けた。


「ジョナにも確認してもらいたい事があるので、まずはこの部屋で待機してください。安全を確認次第お呼びします」


 そう言うと2人はそのまま牢屋へ向かった。


 私は言われた通りに部屋へと入る。入ると看守が居て、椅子に座るよう勧められる。部屋には牢屋の映像が写っている。音声は入っていないが、鮮明に映し出されていた。


 映像には、椅子に座りじっとして壁の一点を見て動かないクレアと、丁度入ってきた2人が写っている。

 2人はクレアに話しかけているが、反応は帰ってこない様でクレアに動きはない。


 私は、クレアが操られていたと確かな証拠が欲しい。


 クレアが操られた事を確認する方法は簡単。ゲームの中のリアーナを操っていた闇の力は使うと身体のどこかにアザが出来る設定だった。リアーナは確か左手の甲についていた。


 封印された闇の力だったら、クレアにも同じアザがあるはず。

 私は、画面のクレアの左手の甲を見るが、アザらしき影はない。


 画面では左側しか見えず、右手も直接見たいと思った時、画面にロゼットが手招きしてるのが映し出された。


 看守に促され隣の牢屋へ向かう。


「ありがとう、ジョナ」


「大丈夫です」


 私はそう言いながら、実際のクレアを見る。目が虚ろで力なく椅子に座っている。凄く、怖い印象だった。


「クレアがこれを持っていたが、何かわからないか」


 ファディスに差し出されたのは、小さく折り畳まれた一枚の紙。小さく折り畳まれた為、開くのに少し時間がかかった。


『シナリオの邪魔するな』


 と、日本語で書かれていた。


 思考が一瞬止まる。


 なんで気づかなかったの。どうして、私の他にも転生している人がいる可能性を考えなかったんだろう。

 血の気が引いた気がして、倒れそうになる身体に力を入れる。


 以前の私みたいにゲーム補正要因として、リアーナを狙う人がいる。シナリオの通りに進まない為に、これから起こる事を意図的に発生させて、リアーナに危害を加えようとしてるかもしれない。


 ファディスとロゼットは私の表情を見て、只事ではないと悟ったようで、私が話し出すのを待っている。


 全てをまとめて話した方が、わかりやすいかもしれない。


「……そうですね。ここでは長くなる事柄ですね。……お見せたい物もあるので、先ほどの事とまとめてお話ししたいと思います」


「そうか。わかった」


 ファディスの返事を確認して、クレアをもう一度見る。やはり、左手の甲にはアザはない。


「クレアに近づいても大丈夫でしょうか。少し確認したい事がありまして」


 2人が頷くのを確認し、私は恐る恐るクレアに近づく。

 私が近くに来ても何も反応はしない。


 右手が見える位置に移動して、手の甲を確認する。


(あ、あった)


 ゲームのリアーナが手の甲に付いていた同じアザが、クレアにもあった。

 もっと近くで見たいと、思って鉄格子に近づく。


「…………」

「えっ?」


 クレアから何か聞こえた気がした。


(あれ?空気が変わった気がする)


 魔法も使えない私にも、何かが変わったとわかるぐらいに空気が重くなる。

 私は右手の甲から、ゆっくりとクレアの顔に視線を移す。クレアと急に目が合うと、勢いよく私の近くの鉄格子掴む。

 そして、ニヤリと笑いながら私に手を伸ばした。


(避けられない)


「ジョナ!」

「危ない!」

『この世界の邪魔をするな』


 一瞬の出来事に、私は恐怖からか思わず目をつぶってしまった。

 引っ張られる感覚とガンッと何かがぶつかる音がした。


 目を開けるとファディスが私の前に立っていて、ロゼットが魔法を放った。そして、床に倒れているクレアの姿がある。


「いったいなんだったんだ。凄く変な気を感じた」

「それに、明らかにクレアの声じゃなかったよね」

「僕には、何を言ったか理解できなかった」


 私は、何が起きたのか理解するのに時間がかかった。


(あれは日本語だった)


 あの声が耳から離れない。


「大丈夫か、ジョナ」

「……はい。だ、大丈夫です」


 動かない私を心配して、ファディスが声をかける。私は動揺して咄嗟に答えられなかったが、絞り出すように声を上げた。


「すぐここから、離れた方がいいかもしれない」


 ファディスも頷き、地下牢を後にした。





 それから、すぐさまファディスの部屋に行くことになった。ファディスと話す前に、必要な物があるので、2人には私の部屋に寄ってもらった。


 私の大事な物……。


 私は部屋の机の奥に隠してあった、記憶の限り書き留めたこの世界を書いたノートを持った。


 どうかリアーナの幸せな世界に……

 皆んなが幸せになる世界に……


 リアーナが不安にならないよう、最善だと思う事をしよう。


 私はノートを強く握り締めて、ゆっくりと部屋の扉を開けた。

読んで頂きありがとうございます!


ゆっくりですが更新していきたいと思います。

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