ep.007 神々が戦い、桜子が消える
ももせは目の前で起こった事が理解出来ず、固まったままで、
「いっ、今のは?一体何なんですか?藍さん、ベスさん?」
思わず疑問を口にした。
ももせの言葉で呪縛が解けた藍(晴明)とベスは、顔を見合わせ、
「まさか、リリーシャ迄出てくるとはのぅ」
「でも、リリーシャが“チェルノボグ”とか言ってませんでした?晴明さん」
「だとすると桜子の中で神々が戦い、場合によっては桜子の魂が抜け出て消えてしまうかもしれん。これは危険じゃ。わかっとるの?エリザベス」
ベスは藍(晴明)の言葉尻から、桜子がかなり危険な状態に在るとこと悟る。
藍(晴明)が、フルネームでベスの事を呼んだからだ。
《この神々っての本当に厄介・・・》
ベスは苦虫を噛み潰した表情をすると、
「ももせちゃん、今から桜子に強力な術を掛けるから、もし、桜子の身体から白い玉が出てきたら、直ぐに捕まえて身体に戻して。理解った?」
藍(晴明)は特攻服のポケットから呪詛の書いた神を4枚取り出し桜子の上に投げる。
ババッと印を結び、
「四神降臨!、カーーーーーっ!」
右手を降り下ろした。
藍(晴明)の掛け声と共に、4枚の紙は空中で折られ、龍、虎、酉、亀の姿を成す。
直ぐ様、藍(晴明)は早九字を切り、
「エイっ!」
折りあがった四つの形に気を送る。
四つの形は気を受けるとプルプルと震えだし、リアルな青龍、白虎、朱雀、玄武に姿を変え桜子を見詰めた。
桜子自体に結界を張ったのである。
桜子の身体がピンと硬直した。
ベスが叫ぶ、
「ももせちゃん、あのメロディを弾いて。直ぐに!」
ベスの指令にももせはギターを構え、目を閉じて“死神を退け、魂を引き留める歌”を奏で始めた。
ベスが頷き、
《そう、それでいいの。ももせちゃん。こっからは私ね》
ベスは左手首のブレスレットを右の手のひら全部で触る。
手のひらから虹色の光が溢れ出し、光を以て魔方陣を描く。
それに併せ古代ゲール語で、
『・・・死を追い払いし古の戦士よ、今ここに降り来てこの娘を守りたまえ・・・。アリアンロッズ・ウォリアーズ!』
ベスは光を桜子の顔の上で握り潰した。
粉々になった光の雫は降りながら小さな女戦士の人形に成り、桜子の口の中に飛び込んで行く。
ベスは少し安心したのか、深くため息を吐き、
「あとは桜子次第ね。藍、あのスムージー貰うわよ」
藍の返答を待たずにリュックサックから特製人参果スムージーを取り出し、一口ゴクリと飲み干す。
「ふぅ。魔力使った後は、効くわね、コレ。ももせちゃんも一口飲んで、ほら」
ペットボトルの蓋にドロリとした液体を注いで、ももせの口元に持ってくる。
どうやら、断れそうにはない・・・。
《怪しい青汁みたいなモノと思えば、大丈夫かな?ベスさんも飲んだし・・・。パクチー頬張るみたく》
キャップが唇に触れた刹那、ももせは目を閉じた。
《やっぱり、怖い・・・。ん?あれっ・・・?》
口の中で森林浴をした様な爽やかさが拡がった。
「美味しい・・・」
思わずももせは漏らす。
《あらっ?、この子は魔法属性有るのかも・・・。だったら嬉しい誤算ね》
ベスがそう思うのも尤もで、回復力が半端ない代わりに魔法属性の食べ物は、通常人間が食べると良くて食あたり。
最悪、相性が悪ければ即死する事も。
ももせが聞いたら、“めめち”と怒りそうではある。