ep.008 抗え、運命と戦え
気づけば桜子は白い球体になり、必死で業火に包まれた邪悪なる存在に対し呼んだのはアタシではないと全否定していた。
厳密には死神は呼ばれたから来るのではない、死の臭いに誘われやって来るのだ。
邪悪なる神が大きな顎門を開け襲い掛かろうとした時、それは妾の獲物と所有を表明した声が形を成す。
黒く深い光が集まり少女の人形に姿を変えた。
金髪を肩で切り揃えた女の子で、五歳ぐらいだろうか?
桜子は驚く、
《リリーシャが何で子供?精神世界では形を留め置くのって難しいのかしら?》
少女は顎門の前に立つと、古代スラヴ語で、
『気に入らない。お前、ちっちゃくなあれ』
顎門の一部を掴むと、泥団子を作るように空間を丸め出す。
リリーシャが握る毎に黒い闇は丸められていき、30分もしないうちに桜子を中心とした360°の世界が見える。
リリーシャの手の中に、闇の団子が有った。
一口かじり、
『不味い・・・』
闇が晴れた中、桜子が見たのは身ぐるみを剥がれた弱気な男。
貧相だが威勢だけはよく、
『こら、ガキ!取り付いて殺してやっぞ!!』
チェルノボグも汚い古代スラヴ語で罵った。
リリーシャは諦め顔で、ため息を一つ吐き、
『はぁ、弱い奴って、どうしていつもこうなのかしら。吠えるだけね。妾を脅したけりゃ、ルシファーやベルゼバブ位連れて来る事ね』
リリーシャはいつの間に取り出したのか先の尖ったストローを持ち、悪戯に笑うとチェルノボグに突き刺す。
抵抗は出来ない様だ。
ぢゅるぢゅると音を立てて、リリーシャはチェルノボグの体液を吸いだした。
体液を吸われているのにチェルノボグは恍惚の表情を浮かべ、
『気持ちいヒ・・・』
干からびていきながら呟いた。
チェルノボグが完全にペランペランの骨と皮だけになると、リリーシャは又、腕力?にものを言わせチェルノボグ自身を丸めていく。
今度は先ほどの団子よりも圧を掛け、更に小さく。
飴玉のサイズ迄小さくなった時、
『こんなものか』
口を開けるとパクリとほぉばった。
リリーシャは口の中で転がすが、気に入らないのか時折チェルノボグの飴玉を噛む。
骨の砕ける嫌な音と微かな叫び声を、桜子は聞いた。
《ここから逃げなきゃ・・・》
桜子が後退ろうとした時、リリーシャが気付いた。
《逃がさない・・・》
リリーシャの目が怪しく紅く光り、手を伸ばして桜子に触れようとした瞬間・・・、
『そんな事させない!』
アマゾネスの軍隊が宙から降ってきた。
ぐるっと桜子の周りを固め、護る。
アマゾネス達は一人一人ゆっくり桜子に溶け込んでいく。
溶け込む度にその姿は防具、盾、そして兜に変わった。
様子を見ていたリーダー格のアマゾネスが呟く。
『私はこれに』
形を西洋の剣に変え、桜子の右手に収まった。
剣と防具達が叫ぶ。
『抗え、運命と戦え!』




