体重という概念のない世界(後)
「体重? 何それ〜、そんな、鶏肉や豚肉じゃあるまいし」
笑われた。
「え? 今まで量ってきたでしょ? 春に健康診断で」
「え~、そんなの量ったことないよ」
「身長とか」
「ないよ」
「え、だって背の順とか」
「背なんか見りゃ大体わかるじゃん」
確かに。
「でもだって、じゃあスポーツは? 柔道とか、レスリングとかボクシングとか体重別で競技が」
「なんで体重で分ける必要があるの。どんな体格だろうが強い奴が強いじゃん。常識じゃん」
……確かに?
「えーと、じゃああの、私って太ってるように見える?」
「えー? なに改めて。別に。ガリガリじゃないけど、太ってもないと思うけど。柔らかそうとは思う。なんか触りたい」
「さ、さわ……」
思わぬ言葉に、女友だちと言えど何故か赤面してしまう。
「ていうか、触ってみたいって前に門倉が言ってた。ねー門倉?」
ちょうど側にくだんの175cm57㎏の門倉がいた。
「ばっ……、お前、何言ってんだよ!」
私が顔を赤くして門倉を見ると、
「ちが、いや、あの、俺は、つまり、やわらかそうで、かわいいなって、いや、違う、いや、違くなくて」
*
朝起きると、体重計はそこにあった。
だがしかし、私がそれにとらわれることはもうなかった。




