第15話 調査団が来た
調査団が来たのは、予告通り10日後の朝だった。
馬が4頭。人が5人。先頭を歩く男が、遠くから見ても他と違った。40代と思われる文官風の体格で、動きに無駄がなかった。顔は穏やかだったが、目が違った。村に入ってから、家の配置を確認するように視線を動かしていた。
私はアレンの家の中から、それを見ていた。
アレンが扉を開けた。
「クロスフィールド殿。お邪魔します」
団長が頭を下げた。礼儀正しかった。後ろの4人も揃って頭を下げた。
アレンは扉を大きく開けたまま、横に退いた。団長が中に入った。残りの4人のうち2人が続いた。残り2人は外に残った。
団長が室内を見回した。視線が棚に止まって、壁に止まって——私に止まった。
「この子は?」
0.5秒ほど間があった。
「俺の子供だ」
私は固まった。
団長が私を見た。私はアレンを見た。アレンはこちらを見なかった。
「……お名前は?」
「ディア」
アレンが答えた。団長が私に向けて小さく頭を下げた。私は動かなかった。
「目の色が珍しいですね」
「そうか」
アレンの声に何もなかった。感情が乗っていなかった。それが逆に、返しにくい答えだった。団長が少し間を置いてから、視線を室内に戻した。
「拝見してもよろしいですか。お手間は取らせません」
「どうぞ」
調査が始まった。
後ろの2人が棚を確認した。別の1人が床を見た。団長は部屋の中央に立って、全体を見ていた。私はその間、部屋の隅に立っていた。動かなかった。何かをされるわけではなかった。ただ、団長の視線が定期的にこちらに戻ってきた。
団長が一歩、私の方へ踏み出した。
2歩目を踏もうとしたとき、アレンが間に入った。
音がなかった。気配もほとんどなかった。ただ、団長と私の間に、アレンが立っていた。
「子供を怖がらせるな」
静かな声だった。怒鳴らなかった。それでも団長が止まった。後ろの2人も手を止めた。
団長がアレンを見た。アレンを見て、一歩引いた。
「……失礼しました」
それから間もなく、調査団は帰った。団長が出がけに振り返ってこちらを見たが、アレンが扉を閉めた。
扉が閉まって、静かになった。
私はアレンの背中を見た。アレンは扉に手を置いたまま、少しの間そのままでいた。
「なぜかばう?」
アレンが振り返った。
「子供を怖がらせることはない」
「私は——」
「飯にする」
アレンが台所の方へ歩いた。私はその背中を見た。
(嘘をついている)
俺の子供だ、と言った。ディア、と答えた。1つも本当のことを言わなかった。
(私の正体を知っているのか、知らないのかも、まだわからないのに)
鍋が火にかかる音がした。アレンが何か刻んでいる音がした。いつもと同じ音だった。
(それでも、かばっている)
私は部屋の中央に立ったままだった。足が動かなかった。動かす理由を探していたわけではなかった。ただ、立っていた。
その日の夕方、ゴルダが飛んできた。
露天を早仕舞いしてきたらしく、息が上がっていた。私が表に出るなり、声を抑えながら声が大きかった。
「魔王様……! 聞きました……! 勇者殿が、魔王様のことを……!」
「声を抑えろ」
「お、お子さんと……!」
ゴルダの目から涙が落ちた。こらえる気配がなかった。両手で口を押さえて、肩が震えていた。
「お子さんだなんて……魔王様がっ……勇者のっ……」
「黙れ」
「あまりにもっ……!」
後ろから声がした。
「よかったですね、ゴルダさん」
シェイドだった。いつの間にか塀の外に立っていた。穏やかな顔で言った。
「お子さん、というのは言い過ぎかもしれませんが——まあ、実態としては」
「お前は黙れ」
私とゴルダが同時に言った。
シェイドが少し笑って「失礼しました」と言った。笑いながら言っていた。
ゴルダがまたしゃくり上げた。「魔王様のお子さん……」と言った。
「お子さんではない」
「勇者殿のっ……」
「お子さんではないと言っている」
ゴルダは聞いていなかった。シェイドがまた何か言おうとしていた。私は2人に背を向けて家の中に入った。
台所からいい匂いがしていた。




