19.夢魔マレ戦! その3
「マレは即死効果の魔法『デス』を仕掛けてくる。今、アンチデスの魔法を掛けるぞ」
ナリスはそう言ってガンマチーム全員にアンチデスの魔法を掛けた。
これは魔法『デス』だけに特化した高度な魔法だ。
『デス』しか防げないが、即死魔法を完全に無効化出来るのだ。
更にナリスは声を張り上げた。
「ガンマチームの諸君、マレはレベル80相当の非常に強いモンスターだ! 『噛みつき』『蹴り』には注意しろ。馬だけにかなり素早い。『体当たり』はあの巨体だ。致命傷になりかねん。絶対に避けろ! それにたてがみを強化し、矢のように飛ばす『たてがみ』も強いぞ。安易に近づくな!」
「分かったわ」
アン達前衛が、後衛を庇うように前に出る。
カチュアのお玉攻撃は強力だが、素早い敵を相手にする場合、素早さで劣るカチュアが戦闘に参加するとかえって不利になる。
カチュアはバクを抱きかかえ、ナリス達と共に待機中だ。
カチュアは息を殺して戦いを見つめた。
「ヒヒーン」
マレはその素早さを生かして猛スピードで走り出した。
安易に近づくと『たてがみ』攻撃の餌食になるが、ナリスとローラのおかげで一番恐ろしい即死魔法『デス』が無効化されているのが有利なポイントだ。
ナリスは次にローラを振り返った。
「私は防御の盾を作る。これで『たてがみ』攻撃を受けてもすごく痛いだけで死ななくなる」
「すごく痛いのね……」
横で聞いていたカチュアは思わず呟いた。
ありがたいのに何故か嬉しくない。
「ローラと言ったな。アンチデスは一度魔法を跳ね返すと効果が切れてしまう。その度に掛け直さねばならない。私の代わりに君がアンチデスを唱えるんだ」
「その魔法、知らない」
ローラはまだアンチデスの魔法を唱えることが出来ない。
「問題ない。今教える」
ナリスはそう言うと、ローラの額に手のひらを押し当てた。
「あっ……」
ローラは小さく戸惑いの声を上げる。
「光が集まってくるのを感じているな。そのまま集中しろ」
魔法はレベルが上がった時など、本人が自然に覚えるケースがほとんどだが、それ以外にいくつかの取得方法がある。
スキルブックという指南のための魔法書を買って覚える方法以外にも、熟練者に導かれて覚えるが出来る。いわゆる師匠に付いて習う方法だ。
ローラはナリスの導きによって『アンチデス』の魔法を覚えた!
マレも素早いが、ガンマチームも速さには自信がある。
普通のチームなら、マレの素早い動きに対応出来ず、攻撃を許してしまうが、ガンマチームは上手くマレの攻撃を避けている。
アン、オーグ、リックが『たてがみ』攻撃を避けながら、マレに三方から攻撃を仕掛ける。
「痛っ!」
さすがの三人も『たてがみ』の矢を全て避けきるのは不可能で攻撃を受けたが、ナリスの防御のおかげですごく痛いだけで致命傷には至らない。
本当なら『たてがみ』攻撃は、体力を削られるだけでなく、強毒や弱体の効果があるのだ。
「ヒヒーン!」
マレは苛立ってリックに狙いを定め、押しつぶそうと突進してくるが、
「おっと」
リックは直前でひらりと除けた。
「よっと!」
そして待ち構えていたアンがマレの横腹に槍を突き刺す。
三方から同時に攻撃を仕掛けられ、マレは防戦一方だ。
……マレは戦ううちに、もう一人の男、ベルンハルトの存在を忘れた。
ガンマチームが待っていたのは、その瞬間だ。
「今よ! ベル」
「分かった! とうっ」
アンの合図とともに、それまで気配を消していたベルンハルトは、マレの正面から跳躍した。
馬の目は、人間のものより少し横に付いており、視野が広い。
だがその代わりに真っ正面は死角になって見えづらいという欠点があった。
そして。
馬の弱点はこめかみ。
人間なら額の横辺りだが、馬の場合、目の上にある。
「必殺! 踵落とし」
ベルンハルトはマレのこめかみ目がけ、フルパワーでかかとを叩き込んだ。
マレの体はどうっと大きな地響きを立てて倒れた。
「びょえっ」
するとバクはカチュアの腕から飛び降り、マレに近づく。
そして大きく口を開けるとマレを吸い込み始めた。
「ヒヒーン」
驚いたことにマレの巨体はバクの口に吸い込まれていってしまう。
マレは抵抗してもがくが、バクの吸引力には勝てないようで体はどんどんの吸い込まれてしまう。ついにはマレの体は全てバクの体に入ってしまった。
バクはマレを全て飲み込むと、「ケプッ」と鳴いた。
***
バクはお腹いっぱい悪夢を吸い込んでちょっと食べ過ぎたみたいな顔をした。
満足だけど苦しそう。
「ゲフー」
あまり品の良くない音とともにバクは白いモヤモヤを吐き出した。
その大量の白いもやは、アルストロメリア侯爵の精神の世界一面にたちこめる。
黒一色だったマレの住処が、美しくも神聖な礼拝堂に変化した。
「ナリスさん、これは?」
「ふーむ、マレに壊された精神世界を修復しているしているようだな。侯爵の心は平静に戻りつつある。じきに彼は目を覚ますだろう。任務は無事に達成した。我々も現実に帰るとしよう。バクよ、連れて行ってくれ」
「びょえ」
「はっ」
バクの鳴き声の直後、カチュアは目を覚ました。
硬い、床板の感触。
どうやら侯爵のベッドの床に寝転んでいたようだ。
折り重なって意識を失ったカチュア達は、有能な侯爵邸の執事によってとりあえず床に運ばれて横たえられた。
遠くに移動させなかったのは、事前にあったナリスの指示だ。
侯爵と距離が離れすぎると、上手く精神の世界にはいりこめるのか分からない。
そのためナリスは何があっても寝室から自分を移動させないようにと執事に頼んでいた。
もっともナリスは、自分一人だけで侯爵の夢の中に行くつもりだったのだが。
夢の中では戦闘に次ぐ戦闘でかなり長い時間が経っていたが、現実の世界ではカチュア達が倒れてほんの一時間だそうだ。
起き上がると、ガンマチームのメンバー達も目を覚ましたところだった。
「皆、無事だったのね、怪我はない?」
「ええ、平気」
「ああ」
「はい」
「大丈夫ッス」
「……うん」
「私も無事だ」というナリスの返事の後、
「びょえ」
とバクも返事した。
「良かった、全員無事ね」
カチュアが無事を喜び、胸を撫で下ろした時、
「だっ、旦那様」
執事の声にカチュア達は驚いてベッドを振り返った。
「うっ、うっん……」
そこにはうっすらと瞳を開け、身じろぎする侯爵の姿があった。
「叔父上! 意識を取り戻したのですね」
ベルンハルトが大急ぎで彼に駆け寄る。
「ベル……、君か」
身を起こそうとする侯爵をベルンハルトはしっかりと支え、心配そうに尋ねた。
「はい、叔父上、お加減は?」
「ベル、君と君の友達が私の夢の中であの馬のモンスターと戦うのを見たよ」
そう言うと侯爵は一同を見回して、優しく微笑んだ。
「ありがとう。君達が助けてくれたんだね」










