09.ニュー素敵な手鏡
ガンマチームは、蘇生魔法のスペシャリスト聖人ナリスの情報を得ることが出来た。
これで死んでしまったうさみを助けられるかも知れない!
しかし彼は今、重要な用件で、迷宮都市ロアを離れて別の場所にいるらしい。
ガンマチームは急遽予定を変更して、冒険者ギルドの談話室で今後の計画を練ることにした。
ベルンハルトは神父から渡されたメモに目を落とす。そこには彼が今滞在しているという家の番地が記されていた。
「ふむ、これによると、彼の居場所は王都か。しかも貴族街のあたりだな」
顔を上げ、ガンマチームに向き直ると彼は言った。
「これは僕の推測だが、聖人ナリスは貴族に呼ばれて何らかの治療行為をしているのだろう」
「王都か……」
「遠いわねぇ」
王都はここから馬車で十日も掛かる距離にあるのだ。
「じゃあ、私とオーグ君はお留守番で、場所が分かっているベルンハルトさんと誰かで行ってもらえるかしら?」
カチュアは子供がいるし、オーグは人狼だ。
獣人に対する偏見は一時期より随分と薄れてきているが、余計なトラブルは避けた方がいいだろう。
逆にリックやローラは迷宮都市ロア周辺の街で生まれ育ったので、王都に行くのは初めてだそうだ。この機会に行ってみるのは二人にとって良い経験になるはずだ。
「そうですねぇ……」
思案を始めるガンマチームに、ベルンハルトが声を上げた。
「いや、待ってくれ。最終的にはナリスの元に行かねばならないだろうが、連絡『だけ』ならこの街にいても取れる」
「それは、どういうこと?」
「君達は、モンスターポイントカードでもらえる『素敵な手鏡』のことを知っているだろうか?」
「え?」
ベルンハルトの言葉にカチュア達は顔を見合わせる。
「ええ、知っているわ」
『素敵な手鏡』はモンスターポイントを100個集めるともらえるアイテムで、遠く離れた人と話が出来る魔法の鏡のことだ。
ベルンハルトはチームに合流するずっと前からアンを見張っていたが、彼も聖剣について色々と調べていたため、四六時中ガンマチームに張り付いている訳にはいかなかった。
ベルンハルトが少しだけ目を離した時に、カチュア達は『素敵な手鏡』を手に入れていたのだ。
「そうか、既にカチュアさんは『素敵な手鏡』を手に入れていたのか……」
そう言いながら、ベルンハルトが自分の道具入れから取り出したのは、なんと。
「そっ、それは、『素敵な手鏡』?」
カチュアが持っている『素敵な手鏡』にそっくりな手鏡だった。
「残念ながらこれはスキル【主婦/主夫】の持ち主達が神から与えられる『素敵な手鏡』ではなく、僕の先祖が『素敵な手鏡』を参考に作り出した魔法具だ。名は『ニュー素敵な手鏡』」
「『ニュー素敵な手鏡』……」
「確かに『素敵な手鏡』を使えば遠くの人と話が出来ますね」
リックがぽんと手を打つ。
「でもそれ……、一年に一度しか使えないはず……」
ローラが眉根を寄せる。
カチュアの持つ『素敵な手鏡』は『会いたい人と話が出来る』というすごい機能があるが、その力は一年に一度しか使えないのだ。
貴重なもの故、今使っちゃっていいのか分からない。
だが、「心配には及ばない」とベルンハルトは首を横に振った。
「この『ニュー素敵な手鏡』は一年間に一度という制限をなくした改良版だ」
「えっ、すごい」
「便利ですね」
さすが改良版だと感心するガンマチームのメンバー達。
ベルンハルトは続けて言った。
「ただし、一度繋がると半年間相手が変えられなくなる。その代わり何度でも話をすることが出来るのだが……」
やっぱり微妙に不便な『素敵な手鏡』シリーズだった。
「それ以外にもこの鏡を使うには制限があるんだ。故にこの王家の秘宝を僕が持って行くことを許された」
ベルンハルトの言葉に、ガンマチームは息を呑んだ。
「制限?」
「この鏡は王家の人間を含む三名がスクワットしている間のみ、話が出来る仕様なんだ」
「それは……ほぼベルンハルトさんしか使えないわね」
なんとなくベルンハルトの秘宝持ち出しが許された理由が分かったカチュアだった。
よく見ると『ニュー素敵な手鏡』の柄の下の部分に、カチュアが持っている『素敵な手鏡』にはなかった長い紐が三つ付いている。ここから動力が供給され、魔法具が発動する仕組みらしい。
「幸いにもここにスクワットが出来る人間が三人以上いる。試してみよう」
ベルンハルトの提案を受けて、カチュア達は『ニュー素敵な手鏡』を使ってみることにした。
神父は聖人ナリスの居場所を教えてくれただけで、依頼を受けるかどうかの判断はナリス本人に委ねられている。
つまり、はるばる王都に出向いたところで、ナリスにうさみの蘇生を断られるかもしれない。
無駄足になってしまう可能性があるのだ。
『ニュー素敵な手鏡』には三本の輪っかが付いた紐が付けられており、まずその紐をスクワットをする人物の脚にはめる。
スクワットするのは、ベルンハルト、オーグ、リックの三人だ。
「用意は良いな、行くぞ」
ベルンハルトの合図で、スクワットが始まる。
「ふんふん」という三人の息づかいが談話室を静かに熱する。
鏡を握りしめるカチュアは、紐を通じて『ニュー素敵な手鏡』にパワーが集まってくるのを感じた。
「鏡よ、聖人ナリスに合わせて」
カチュアは鏡に願うと、以前、オーグが使った時と同じように、手鏡の鏡面がぐにゃりと歪む。
鏡の中で小さな渦が巻き起こり、それが収まった時、鏡に映っているのは、見知らぬ居間か談話室のような部屋だった。
部屋では一人の男性が安楽椅子に腰掛けている。
カチュアの想像より若い、二十代半ばくらいの男性で、腰まで伸びる長い金色の髪の人物だ。神父のような黒い修道服を着ているので彼が聖人ナリスに間違いないだろう。
シュッとした細面で、ちょっとイケメンの男性である。
カチュアは鏡に向かって呼びかけた。
「ナリスさーん」
「?」
ナリスは誰かに呼ばれた気がして、周囲を見回した。
だが今ナリスは、一人静かに休憩中だ。部屋には立ち入らないでくれと当のナリスが頼んでいる。
そのため、部屋に他の誰かがいるはずがない。
「……気のせいか」
ナリスが再び安楽椅子に身を委ねた時、再び声が聞こえてきた。
「ナリスさーん、聞こえますか?」
「!?」
「ナリスさーん」
間違いない。二十代くらいの女性の声だ。
ナリスは不審に思いながら、視線を巡らせ、声の主を探す。
「ナリスさーん、こっちー」
ナリスはハッとして声のする方――鏡を見つめた。
壁に掛かる大きな姿見に映っているのは、ナリスの姿ではなく、三人の女性、そして背後には不思議な動きを繰り返す三人の男性の姿だ。
ナリスは、唖然として鏡に語りかけた。
「君達は一体何者だ?」









