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初エンカウントしたモンスターは魔王様!?  作者: 七曜
第3章 獣人の国 ラヴァン
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68話 煌めく流星


 紫炎は最初から、本気だった。


 今この場でユグとシルを使うのは不得手だ。光は何かしらの手段でユグとシルを捕縛しようとしている。なら、この場で紫炎が何とかするしか無かった。


 ほんの数週間前までなら紫炎もここまで焦ることは無かっただろう。しかし、そうせざるを得ないのは雰囲気が変わったのもそうだが、内に秘める力が数週間前よりも遥かに上がっているからだ。


 故に紫炎は本能的に察した。


 ──本気でやらなければ、止められないと。


「<制御解除(リミッターカット)>」


 溢れ出る制御されていた力。


 おぞましい程の力はその質の高さ故か、具現化し。力が可視出来る。幾度となく解放してきた力だったが、傍から見ているクレンは何時もよりも濃密で、何処か恐怖を覚えるものであった。


 というのも、確かに敵からしてみれば<制御解除(リミッターカット)>は恐怖の対象でしかない。だが、今まで何度も自分の危機を救ってくれた紫炎のそれはクレアにとって優しい力だったのだ。


 しかし、初めて紫炎の放つ力を怖いと思ってしまった。自分でも分かるほどにジリジリと後ろに下がっているのが分かる。


 そして下がりきった所でドンっと硬い鎧のようなものに当たった。


「師匠」


 それはサミリアの黒い鎧だった。


 今まで影に潜っていたサミリアだったが、ついさっきここに着いた。


「クレア、よく見て。あれも御主人様。放つ力は違えど、敵の前に立つ姿に危険な要素なんて一つもない。酷く冷静。·····そう、恐ろしい程に冷静よ」


 サミリアはその寿命の長さから数多の剣士と剣を交わし、戦場を駆けてきた。だからこそ分かる。主である紫炎は激しく怒りを抱いているだけでなく、それを超えるほどに冷静であることを。


「今の貴方にとって、見なくてはならないものがあそこにある」


 そしてそれと同時にある事も理解していた。それをクレアが聞く前に紫炎が動いた。


「<顎門>」


 素早い上段からの振りが残像を生み出し、まるで顎のように見える奥義。


 それはしっかりと光を捉えていたが。


「ククッ、見える。うん、見える」


 意味のわからない言葉のあと、光は腰に差した剣を抜かずに手だけで抜刀の動きをした。


 刹那、吹き飛ぶ紫炎。


 何とか魔力を後ろに放出し、勢いを殺したが、その顔は驚愕に歪んでいた。


「風圧でこの威力か」


 紫炎には全てが見えていた。見えているが故に驚愕した。そう、光は<顎門>の一瞬の隙に手刀を繰り出し、風圧だけで紫炎を吹き飛ばしたのだ。


「だが、これなら別に危険視することは無いか」


 冷静に分析しながら、紫炎は再度攻撃を仕掛けた。


「<闇纏>」


 <(ダークネス)>を『黒煉』に纏い、攻撃力を上げた状態で攻撃した。


「<光纏>」


 流石の光も手刀でこれをさばくことは出来ない。剣を抜き、光を纏ってそれに対応した。


 紫炎が上段を攻めれば、光もお返しとばかりに上段を攻め、下段ならば下段を攻める。光は何処か余裕のある顔で紫炎の攻撃に対応していた。


 対して紫炎は冷静ではあるが、その顔に余裕はない。


 それが紫炎の足を引っ張っているかと言えば、引っ張っていない。だが、その差は明らかであり、クレアも見て分かっていた。


「クソッ──<魔斬>」


 紫炎は流れを絶つように、大振りからの<魔斬>を繰り出した。


 それに対し、光も奥義に数えられている剣技を放つ。


「煌めけ流星──<流レ星>」


 光は跳躍した。高く、高く。その状態から紫炎に向かって剣を突き出す。その姿は正しく流星。剣の煌めきが、星の煌めきの如くそれは真っ直ぐ紫炎の方へ飛来した。


 <魔斬>という強力な奥義を放ったために、動きが止まっていた紫炎には致命傷は避けられない。


 だが、紫炎もステータスが人外とまで表記されている。即座に<魔斬>を地面にへと放ち、砂煙を舞わせる。その間に思いっきり後方にへと下がり、事なきを得た。


「流石だね。確かに今のままじゃ、紫炎に致命傷を与えることは出来ないや」


「何処に行く!?」


 台詞と共に背を向ける光に対して紫炎が怒鳴る。


「まぁ、でも。今回は僕の方が一枚上手だったかな。次会うときは案外近いかもしれないよ? じゃあね」


 そして光は眩い閃光と共に消えていった。


 何処か悪い予感がする紫炎は、念の為精霊界にいるはずのユグとシルにコネクトを取ってみると不安が的中していた。


「やられた」


 確かに戦っている際、イフリートの姿は消えていた。


 そう、戦いの最中にイフリートがユグとシルを拉致したのだった。

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