67話 変わり果てた親友後編
(なんでここに光が·····? いや、それよりも)
紫炎は目の前の幼馴染に違和感を覚えた。外面は確かに光本人ではあるが、内から溢れ出ている物が光のそれではなく、異質·····いや、紫炎のような闇のようであったからだ。
しかし、紫炎には光が闇を抱えるような出来事など知らない。知る由もない。
だから、不安を抱えながらも、戦闘態勢を取った。ここでは敵として出迎えようと、幸いにも仮面を付けていることにより、光もまさか紫炎であるとは気づいていない様子である。
紫炎は一芝居うってみることにした。
「何故、勇者がここに?」
「何故も何も、そんなもの僕の勝手じゃないか?」
「噂では同じく異世界転移された友人とパーティを組んでいると·····」
「そこまで知られているのか·····」
と、ここで光はわざとらしく頭に手を置き、悩む。すると、隣のイフリートが何やら小声で光に助言をした。
「イフリート曰く、君は魔族ではないと言われたのだが、本性を見せる気はないかい?」
光はニコッと笑う。
しかし、目は一切笑っていない。ゾッとするような笑みに、しかし紫炎は務めて冷静に会話をする。
「本性なら貴方も見せては?」
「なに?」
「私が魔族にしろ、魔族にないにしろ、貴方の本性を見抜くなんて容易い。貴方は深い闇を抱えているようだ」
「·····」
「外面は良いようだが、内なる闇が全てを物語っている。本性を見せたらどうだ?」
「クハッ! ハハハハハッ!」
光が突然笑いだしたかと思うと、直ぐに真顔に戻り、睨んできた。
「本当に面白い、今すぐ相手をしたい所だけど、目的は別にある。今回は見逃してあげるから、逃げたまえ」
紫炎は少し迷ったが、光の目的とやらが気になり、逃げるという選択肢を捨てた。
「逃げる前に一つ、目的とは?」
「それを教えて僕にメリットなんてあるのかい?」
「私側の目的と同じであれば、対立するまで。まぁ、そんな事はないと思うが、私も主に命じられているのでな。目的がハッキリしない以上、逃げる訳にはいかない」
もちろん嘘だ。紫炎に主などいない。
「なら教えてやるよ」
「光殿!?」
「いいよ、イフリート。教えないと面倒だからね。·····さて、目的だったっけ? それは精霊王の捕縛だよ」
「──ッ!」
紫炎は仮面の外側からでも分かるほどに動揺した。それを見て気をよくしたのか、光は話し出す。
「僕は勇者だけど、今はパーティと別れていてね。ある人物から精霊王を奪おうと、遠路はるばるここまで来たってわけ」
そのある人物が紫炎を示しているのは火を見るより明らかである。
故に紫炎は即座に大地を蹴り、駆けた。自分の大切に手を出すものは、それが例え親友であっても許されざる行為である。
しかし、紫炎の拳が光にへと当たる寸前、紫炎にとって間の悪い出来事が起きた。
「マスター、保護が完了しました」
黒煉たちが王城から現れたのだ。
黒煉のことを光はもちろん知っている。故に紫炎を連想させるのは簡単だった。
「なるほど道理で、僕達のことを知っている訳だ。ねぇ、紫炎?」
紫炎は苦虫を噛み潰したような顔をし、仮面を渋々取った。これ以上の誤魔化しは不可能のようだからだ。
「会えて嬉しいよ。でも、目的はさっき言ったろう? 君の精霊王を貰いに来た」
「何でだ?」
紫炎は拳を収め、怒りを抑えながら聞く。
「それが僕たちの目的に繋がるからさ。『影の執行者』。僕の所属している所さ」
思わず目を見開いた。
あれほど話題に出た『影の執行者』に所属しているのが、光だという事実は紫炎に大きなショックを与えた。
「お前は変わったのか? あのクソ大臣が所属していた所に入るなんてッ!」
「君が悪いのさ。僕にないものを持っている君が。だから、僕はその全てを超えてみせるんだ。その序章に過ぎないんだよ、精霊王の奪取なんて」
「なん、だとッ!」
我慢の限界だった。大切を奪おうとするだけでなく、変わってしまった事に大きな苛立ちが湧いた。
「せっかくだ。今、紫炎にどれほど近づいているのか、勝負しようじゃないか。賭けるのは精霊王ってことで」
「巫山戯るな、アイツらをなんだと思ってやがる」
「ん? 道具だよ、僕の進化に必要な、ね?」
もう無理だった。
紫炎は虚空に手を伸ばして、叫ぶ。
「黒煉、来いッ!」
その叫びと共に少女は黒刀にへと変身し、飛来する。
「今ここでお前を止める」
「出来るものならしてみせてよ、紫炎?」
そして、『勇者』と『勇者?』の勝負が幕を開けた。




