52話 報酬
「これがこの世界の船か·····」
紫炎が感慨深そうに呟く。
ラヴァン行きの船の外装は、木製で作成されているが、その着色は町にも負けず劣らずの派手さがあった。
赤、白、青などの多色を使用し、更には船頭には女神の模型が設置されており、日本とは違うという事を思わせる。
もちろん、紫炎たち以外にも人はいるわけで、今この場にも紫炎たちに好奇の視線を向けてくるのだが、そんなものを構っていたらキリがないと与えられた部屋にへと向かう。
さすがに全員に部屋が与えられているので、各自、部屋にて思い思いの時間を過ごしている。
これを好機とばかりにさっさとベットに入る紫炎。この世界に来てからやたらと女子とのエンカウント率が高い、溜まりに溜まった欲というものを発散しようと手にかけるが·····
「御主人様」
ですよね〜、分かってましたよ。そういえばそうでしたね。報酬ですよね!? と言わんばかりに涙を流す紫炎。
「添い寝だっけ?」
「·····はい·····」
頬を赤らめ、モジモジしながらコクンっと頷くその姿は非常に可愛いが、紫炎にとっては血涙を流す他ない。
「分かったよ、うん。ほら」
この場面を見た人はなんでそんな感じなんだ! と、なんでサミリアをそう扱うんだ! と思うかもしれない。が、紫炎にはそう思うしかない。
男子高校生は、正直妄想が弾ける時期だ、自分の部屋にはティッシュが転がっているのだ。ノックはしないと入ってはいけないのだ!
それを考えた上で考えて欲しい。恋人ならいざ知らず、恋人ですら、ましてや友達ですらない主従の関係である、そんなこのアブノーマルな状況をある意味地獄と表現せず、なにと表現できよう。
(はぁ、いっそ全員が俺に惚れていないかな)
ハーレム願望はある、異世界に来てからラノベで見た、憧れたことは全てやった。獣耳奴隷も手に入れたし、美少女、美女もパーティにいる。なのに、何故惚れないんだ?
第三者から見れば殴ってやりたい、この鈍感クソ野郎だが、彼は必死に悩んでいるのだ。
(あぁ、クソ! 溜まるなぁ)
「御主人様?」
そんな時、布団がもゾッと動き、サミリアと目が合う。
「御主人様にとってこの状況何とも思わないのでしょうか?」
突然動いたかと思えば、四つん這いとなり紫炎にまたがる。
「あのぉ、サミリア?」
「御主人様なら、私·····」
都合良く訪れたこの展開に、紫炎も息子も興奮状態だが、しかしまさかと必然とその口は早口になっていく
「抱かれたいです」
来たよ!? この展開が、あまりにも急で頭が追いついてこないが、少なくとも脳にはある決定が浮かぶすなわち――童貞卒業と
「えっ? いいのか?」
戸惑いながらも、間違ったでは済まないこの展開に、再度聞くが彼女の顔は真っ赤でとても嘘とは思えない。
「はい」
そして、近づく顔いや、唇。それがゼロ距離になろうとした·····瞬間
「マスター?」
絶対零度とも等しい、そんな冷たさが含まれた言葉が紫炎の耳に入る。
まるで機械かのように、ぎこちなく顔を向けるとそこには、ものすごいジト目の黒煉が
「どうした? 黒煉」
「いえ、心配で来てみれば、何をやっているのですか?」
世界は非常だ。と、今まで何回も思ってきた。
この世は理不尽で絶望的なものだと、大臣の件でも常々そう思ってきたが、今こそ思ったことは無い。
(俺·····留学したわ。全然卒業じゃなかったわ。サミリアもなんか笑ってるし、そうっすよね。俺なんか·····ハハっ)
どこぞのネズミを彷彿とさせる笑いを内心でしながら、黒煉のご機嫌をとろうと、思考を巡らせ、突破口を見つけた。
「じゃあ、入るか?」
スっと布団を上げ、空いている所にパンパンと叩く。
すると、ブリザードの幻影が見え始めた。
(回答間違ったわ·····)
しかし、突如そのブリザードは止み、仕方なしとモゾモゾと入ってくる黒煉。
「今回はこれで不問にします」
そして、静かに目を閉じた。
(良かったぁ、生きながらえたけど·····)
辺りを見回す、左右に美少女二人。黒煉とサミリア
(今回も溜まっていくんですね)
あぁ、誰か助けたまえと祈る紫炎であった。
どうだったでしょうか? 王国編はシリアスっぽくしたので、ラヴァン編は少しこんな感じでおふざけも入れていきます。楽しんで頂けたら幸いです。(もちろん復讐もあるんでシリアスも入りますよ!?)




