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47話 ゼロ戦 前半

今回、最初三人称。次にシリスの一人称。そして三人称に戻ります。



「行くぞ」


紫炎の声と共に、全員が攻撃態勢に入る。先制攻撃はユグだ。


「喰らいなさい<雪月花>」


途端、三位一体の攻撃がゼロへと放たれる。


ダメージとしては一見通っていないように見えるが、確実に周りに纏われた障壁を破壊した。それを合図に全員が畳み掛ける。が、


ゼロもその意識を覚醒させる。


「ギャヤア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アァァアァア」


先程よりかは、言葉がしっかりしているが奇怪な叫び声には変わりない。


そんな叫び声が紫炎の耳に響く。状態異常魔法<身体能力低下>である。実に分かりやすいこの魔法は、読んで字のごとく身体能力を低下させる魔法。


足に重りがついたのかと錯覚させる程の重さが紫炎達に発生した。そんな状況下で間髪入れずユグが叫ぶ。


「シルッ!」


「はいなの♪」


ユグとシルが手を合わす。精霊付加魔法<身体能力上昇(フィジカルアップ)>の二重がけ、ユグとシルが一回ずつである。


次第に重さがとれ、身動きが取れるようになる。そんな中、黒煉がその手を刀へと変化させゼロへと切り込む。


だが、ギィィイーンと、激しい音を立てその刀が止められる。いつの間にか障壁を展開していたのだ。


「クッ! サミリアッ!」


黒煉がサミリアを呼び、再び切り込む。次は二人一緒だ。当然攻撃力が上がるのだが·····


「ギャァアァァ」


叫び声と共に弾かれる。


「キャッ!」


空中に放り投げだされた二人に、ゼロの一撃が放たれる。回避不可能。ゼロの攻撃が当たる。


「ーッ!<聖防具(セイントアーマー)>!」


精霊魔法での<聖防具(セイントアーマー)>を紫炎がかける。何とかダメージを減らせた二人が、だがしかしその威力の強さ故に後方へと吹き飛ぶ。


「私の戦闘シーンが無いから見せちゃうよッ! <紅蓮花>」


ルファーがお返しにと、創造魔法(オリジナル)<紅蓮花>を繰り出す。綺麗な紅色を帯びた花びらが空中に舞い上がる。一心不乱にゼロへと衝突した。その魔法はしかしダメージが無い。


「クソッ! チート過ぎるだろ!」


悪態を吐きながら紫炎がクレンと共に攻める。先に障壁を破壊する為にクレンが先行する。


「ッ! シエン様ッ!」


だが、ヒビが入るだけで割れる気配が無い。その事を察したクレンが紫炎に助けを求める。静かに頷き魔法を放つ。


「<(ダークネス)>」


イメージするは黒炎。灼熱の炎が障壁へと向かう。黒炎を確認したクレンが素早くその場から避ける。が、もちろん障壁は破壊されない。


理由は<雪月花>で破壊された後からゼロが学習したからだ。見た目は確かに化け物。発する音は奇怪な叫び声だが、彼には人間の知能がある。それが酷く鬱陶しい。魔人や魔神の圧倒的な強さとはこれ故である。


(これは俺らじゃあダメージを与えられないか·····しょうがないアイツをここへ·····)


そして、紫炎は遥か上に位置する特別観客席を睨む。






時は少し遡る。特別観客席。大臣が<魔兵(ソルジャー)>を発動した後へと·····。


「やられた」


シリスの声が虚しくその場に響く。そんなシリスを見ながら大臣が腹を抱え笑い出す。


「フフフッ! アハハハ! 滑稽ですね。()()のシリス様? いや正確には奴隷には堕ちてはいなかったかな」


その言葉にシリスは眉をひそめる。何故、大臣がその事実を知っているのか。だが、そんな問いは大臣の続けた言葉で解決する。


「不思議そうな顔をしていますね? もちろん私がその時、その場に居たからですよ」


あの時奴隷に堕ちそうになった時その場に居たのはテレスだけだ。何故ならシリスを助けたのはテレスなのだから。


「何を勘違いしているのか分かりませんが、あの時私が居たのは、テレス様側としてではありませんよ?」


そして、鮮明に思い出されるあの時の記憶。


····································



私はあの時·····。


()()()()の中で一生を過ごすのが嫌で、里を飛び出した。


竜人が奴隷商に高く売れるのは知っていたけど、私は自分は強いと思っていたから自信過剰になって·····


確かあの時、私は寝ていたんだ。あと少しで町に着くから。でもそれが間違いだった。山賊達が私が寝ている間に縄で縛った。そして奴隷商に向かう最中ある少女が助けてくれた。


その時既に日は傾き、夕陽となって辺りを照らしていた頃。そんな夕陽の輝きでその綺麗な金髪をなびかせながら拙い魔法で助けてくれた少女。


その魔法は私の縄を焼くだけの初級魔法だったけど、私は凄く嬉しかった。山賊という恐怖の種を取り除くことの出来ないか弱い少女が自分の為に勇気をだして魔法を放ってくれたから。


そこからは、私の魔法で山賊達をこんがり焼いてやった。でも昔から私の魔法は強過ぎるから、また怖がらせたなと思ってその場から立ち去ろうとしたけど少女は笑顔で、


「私の名前はテレスッ! あのね! あなたの魔法凄く綺麗だった。私に教えてくれない?」


テレスと名乗ったその少女はすごく可憐で、そして何より私の魔法を綺麗と言ってくれた。


荒々しく舞い上がる炎を·····辺り一面を焼き切るこの恐ろしい炎を·····彼女は綺麗だって·····。


それが堪らなく嬉しかった。そして無意識に私はこくんと首を傾けていた。


「嬉しいッ! そう言えばあなた一人なの?」


嬉しさでその頬を紅潮させ、手を握りながら私に一人なのか聞いてきたテレスに、私はただただ首を縦に振るしか無かった。


「そう·····なら私の家に来てよ! そしてさ一緒に暮らそ?」


「良いの?」


「もちろんよ! 私ね妹が欲しかったんだぁ」


私の両手を彼女は包みこみ、そしてブンブンと上下に動かし喜びを表現しているテレスに私は笑顔でこう言ったんだ。


「これからよろしく。お姉ちゃん」


その後、テレスは実は王女様で、何であの場に居たのかは分からなかったけど、グレス様にも許可を貰って楽しい日々を過ごしたんだ。それから大臣の違和感に気づいて、今の今までその違和感の解決の為にバレずに頑張ってきた。


····································


昔の情景を思い出したシリスは、ただ冷静に辺りを確認する。


この際大臣が何故あの場に居たのか? などという疑問は置いといて、この場をどうするかを考える方が先だと、シリスは必死に思考を加速させていく。


(グレス様とお姉ちゃんは気を失っている。多分あのゼロという少年の魔素を浴びたから·····)


魔素は毒素である。それに耐えるために進化してきたがそれは大気中に含まれる魔素に耐えるためであって、濃密に放出されるその魔素に耐える為でない。恐らく、濃密な魔素にやられたのだろう。見ると騎士団達も数名倒れ、他は全員ぐったりとしている。


(·····シエン·····)


実質、大臣と一体一というこの状況に無意識にそう思ってしまう。


大臣を殺すと宣言したあの男を·····。大臣により終焉の森へと飛ばされ、魔王となり戻ってきた男ー紫炎を。


その時、特別観客席に窓が割れる音と共に黒いロングコートを纏った男が乱入する。


「き、貴様はシエンッ! お前のせいで計画がぁ!」


大臣が最も憎い男の名を口にする。そう乱入したのは今、この場シリスが待ちに望んだ紫炎であった。


そんな紫炎は即刻大臣に魔法をかける。


「<束縛(バインド)>」


<束縛(バインド)>を右手で放ち、空いた左手でシリスを抱く。


「「えっ!?」」


当然、大臣とシリスのそれぞれ別の驚きが特別観客席に木霊する。紫炎はそんな大臣を一瞥し一言。


「今、てめぇに構っている暇は無い」


そして、再びゼロが待つ戦場に飛び立った。

見づらい回になってしまいました。シリスとテレスの出会いも少し雑かなと思いましたが、それはおいおいやっていくとします。


誤字脱字、日本語の不自然な部分があればご報告下さい。

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