33話 月下の宿場にて
今回は余裕で投稿です。
「おっそーい、どこ行ってたの?」
そんな姫の叫びが『月下の宿場』に響き渡る。ここは1階。2階に宿場が設けられており、1階は、食事スペースである。
そんな所で叫ぶのだから、当然飯を食っている客が振り向く訳だ。
「なんだ? なんだ? 痴話喧嘩か?」
「くっそー、あの小僧。いい女連れてるじゃねぇか」
などなど、色々な声が聞こてえてくる。最初は気にしなかった紫炎だったが、ユグとシル、そしてクレンを少し怯えさせているので、一瞬『制御解除』をし、周りの男どもを黙らせる。
「これで、静かになったな。それで?」
「だ、だから、急に師匠や、サミリアさん。ルファーさんとテスタが居なくなるからすごく探したんだけど·····どこに行ってたの?」
一瞬の内に垣間見えた紫炎の力に圧倒されるも、直ぐに気を取り直し、紫炎に質問する。
ちなみに姫が言っている。この師匠だが、黒煉だ。光達5人の黒煉に対する敬称である。
「少し用事があってな、それでそっちも光と悟が見れないようだが?」
そうこの場には姫しか居ない。千歌と萌衣は、疲れているらしく早速泊まっているのだが、あの2人に関しては情報が無い。
「光達なら、王城に行ったわよ。色々と報告があるらしいわ」
王城へは、光達が向かい、テスタ達の捜索は姫達だと言う様に決めたらしい。
「そうか、とりあえず俺らも長旅で疲れたからな休むとするよ」
「そう、明日は貴方も王城に行く予定なのだけど·····一緒に来て貰っても良い?」
躊躇いがちに姫が紫炎に問う。若干上目遣いでどこか懇願している様にも思えるその様は、一言”行かない”と言う言葉を言わせないみたいな感じを纏わせている。
やはり、少し話をつけたい様で、姫も”無理は承知だけど·····”と先程から繰り返す。
(う〜ん、ここで話をつけるか? いや、やっぱり先にS級が先だろう。冒険者ギルドの後ろ盾を確保してからだな)
「悪い。明日は行けない」
「やっぱりね」
そこで、姫は露骨に項垂れる。前髪で隠れるその暗い顔に紫炎は、”だが”と話を続ける。
「S級試験が終わったら行ってやるよ。確か後1週間後ぐらいだ。そこまで待ってくれ」
その言葉に、面を上げ、喜色をあらわにする。
「分かったわ·····光達にもそう伝えるから約束守ってよッ!」
そう言って階段を駆け登る。2階に着いた辺りから少し声を大きくしながら、『約束守りなさいよ』と紫炎に釘をさして、部屋に戻っていった。
周りの目は、先程みたいな下卑た目では無く、少し生暖かく変わっていた。
そんな一連の出来事に紫炎はただただ苦笑しているのだった。
さてと、紫炎は早速鍵を借り、ユグ達共に飯を食ってから、部屋に入る。
「とりあえず、テスタ。明日からあいつらと行動しな。今日は済まないがこの部屋で我慢してくれ」
「いえいえ、シエンさんと居ると楽しくて私は嬉しいですよ」
そして、ナチュラルに紫炎の横に来る。
「なので、今回はシエンさんの隣は私が寝ますね」
その綺麗な動作に呆気に取られ、紫炎は目を点にするが、直ぐに通常運転に戻り、”いやいや”と口にする。
「なんでやねん」
思わず関西弁が出る程の驚きの様子である。
「何故と言われましても、前回は私は足だったので、今回は隣で寝たいなと·····。それともまさかまた足元で寝ろと?」
結局押し切られ隣で既にスタンバっているテスタさん。
「それじゃあ、私達も前回と同じ様に、お兄ちゃんの上で寝るの」
「しょうがないわね」
「シエン様、私も良い?」
幼女3人組からは、可愛さで押し切られる。
「マスターでは、私も隣で宜しいでしょうか?」
「ずるい。私も隣が良いのにッ!」
黒煉とルファーがバチバチと火花を散らせ、結果2人で寝ようと、紫炎の腕を枕に2人共寝たのであった。
当の本人。黒井 紫炎は、諦めたような感じでやれやれと共に一夜を過ごすのであった。
やはり、保護欲が勝っている様子です。まぁ彼も少なからず意識はしているので今後も楽しんで頂けたらと思います。
誤字脱字、日本語の不自然な部分があればご報告下さい。




