王妃
良き時も悪き時も。
富める時も貧しき時も。
病める時も健やかなる時も。
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「ーーーそれでは、誓いのくちづけを」
厳かな空気の中、大主教が告げる。
花婿が、花嫁のベールに手をかける。
どこかぎこちなく、けれど口元をはにかませた、初々しいふたり。
花婿の手が、そっと花嫁の頰を撫で、ゆっくりとその顔が近づいていく。
少しの間を置いて聖堂の鐘がなり、祝福のムードに包まれて。
誰も彼もが笑顔を浮かべる中、果たして自分は上手に笑えているだろうかと、少しばかりの不安を感じて隣席の夫を見上げれば、視線は返ってこないものの、大丈夫だ、というようにその手が重なった。
……これで、よかったのだ、きっと。
可憐な花嫁。
その隣には、凛とした佇まいの花婿。
表舞台に立つはずのなかった王子。
嫡子でないゆえに姫として育てた。
そうすれば、学び舎に通う必要のある王子とは異なり、デビュタントまでは親の庇護下に置くことができる。
事実、過去にもそうした例はあったらしい。
夫の在位中は王宮で、退位後は自分とともに離宮に引き取るつもりだった。
他国との政略に使うことも、言い含めて臣下に嫁すことも不可能だろう。
一生を親元で、籠の鳥のように。それは飼い殺しではないかと、身勝手な親のエゴだと言われようとも、嘲笑われようとも、それでも我が子なのだ、できる限り人並みの生活を送らせてやりたかった。
いつからだろうか。
時折、兄の婚約者を見つめるその眼差しに、思慕の色を感じるようになったのは。
いつからだろうか。
夫や上の息子と同じように、どこか空虚な色をその瞳に浮かべるようになったのは。
表面上は快活な姫を装い、空虚さを上手に隠すようになった。
そしてそれが変わったのは、いつだっただろうか。
お忍びへ城下へ行きたいのだと、密かに相談されたのは。
このまま一生を無為に過ごすのは嫌なのだと。
それが良いことであったのかどうか、もはや自分にはわからないけれど。
王宮を去ると決めた息子の、不思議に穏やかな眼差し。ようやく解放されたとでもいうような。
これから国を背負っていくと決めた息子の、不思議に激しい眼差し。ようやく救われるとでもいうような。
どちらも等しく腹を痛めた子には違いない。
壇上に立つ若いふたりの姿に、かつて自分も、王とともに誓願したことを思い出す。
だけれど、不思議とその姿は当時の自分たちには重ならない。
友誼でなく、親愛でなく、同情でもなく、確かな愛情をもってこの先をすすんでいけるのであれば。
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良き時も悪き時も。
富める時も貧しき時も。
病める時も健やかなる時も。
共に歩み、他の者に依らず、
死が二人を分かつまで、
愛を誓い、想い、添うことを。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。




