第2話 四騎士
退団式を終えると、私は将軍室へ案内された。
この支部の将軍たる雷剣ルディの他に、壇上にいた氷剣サーシャ将軍と、豪剣ジルベール将軍の姿がある。
そして神剣グランツォ総帥だ。
騎士団最高戦力がここに集まっている。
「ルマート様! 本当にお疲れ様でした!」
グランツォ総帥が笑顔で出迎えてくれた。
「グランツォ総帥。ルディ将軍にも伝えたのですが……。私に敬称は不要です。部下ですぞ?」
「先程もお伝えした通り、あなたはもう騎士ではないのです。ですから、あなたこそ私たちに敬称も敬語も不要です」
「そ、そうは言っても……」
ルディ将軍に促され、私はソファーに座った。
「しかし、グランツォ総帥がこちらにいらっしゃるとなれば、元老院が黙ってないのでは?」
グランツォ総帥は何も答えず、コーヒーカップを手に取る。
私の言葉遣いに対する無言の抵抗なのだろう。
「はあ、分かったよ。グランツォ、元老院は大丈夫なのかい?」
「し、師匠! ようやく、ようやくその名で呼んでくださったのですね!」
満面の笑みを見せながら、グランツォがカップをテーブルに置いた。
「元老院には伝えていません。頭の硬い議員どもには、あなたの偉大さが分からないのです。あなたは国を救った英雄で、騎士団に改革をもたらした偉大なお方なのに」
「そんなことはない。しがない老騎士だよ」
「違います。確かにあなたは騎士の待遇を訴え続けたことで、元老院から見せしめという名の報復を受けた。しかし、それがなければ間違いなく騎士団の総帥はあなたで、私を含めたここにいる弟子たちは、あなたの下で将軍だったはずです。私はそれをずっと夢見ていました」
「昔の話だよ」
私は騎士の待遇を訴えた。
命がけの任務には相応の報酬が必要だ。
それに怪我をしても、大した補償も出ない。
そんな状況では、いつか騎士を志す者がいなくなってしまう。
夢や名誉だけで飯は食えない。
騎士団には制度や働き方に改善が必要だった。
だが、改革を是としない元老院から、私は総攻撃を受けた。
他の騎士を巻き込めば、その者たちの将来も危ぶまれる。
だから私は一人で訴え続けた。
私一人の犠牲で騎士団に明るい未来が訪れるのであれば、喜んで犠牲になろうと。
「師匠。この退団式は公式記録に残せませぬ。私の力不足です。お許しください」
グランツォが両手を膝につき、深く頭を下げた。
「何を言うんだ。本当に嬉しいよ。ありがとう」
私もグランツォに頭を下げた。
グランツォの気持ちは本当に嬉しい。
「サーシャ、ジルベール、そしてルディ、世話になったな。ありがとう」
私は三人の愛弟子にも声をかけた。
三人とも瞳に涙を浮かべている。
今や私なんかを遥かに超える伝説の騎士たちで、私の大切な自慢の弟子だ。
グランツォが真剣な表情で私を見つめている。
「師匠、これから何をされるのですか?」
「まだ働くつもりだよ。身体は十分動くしね」
「なっ! では、我が騎士団で働いてください!」
グランツォの言葉に、三人の将軍が大きく頷いている。
「あ、あのねえ。私はその騎士団を定年退職したんだよ?」
「しかし! 師匠の剣は今もなお健在です! 私たちが束になっても敵いませぬ!」
「君たちは騎士団最強と呼ばれている四騎士だ。もう敵わないよ」
確かに私はここにいる四人に剣を教えた。
だが、今や騎士団を代表する剣士まで成長し、四騎士と呼ばれている。
私なんか、とうの昔に超えているのは間違いない。
「ええ、師匠の仰る通りです。大口を叩きますが、私たち四人が揃えば国も取れるでしょう」
大口ではない。
グランツォの言うことは事実だ。
「それでも……。私たち四騎士が揃っても、あなたには敵いませぬ」
グランツォの言葉に、またしても三人の将軍が大きく頷いていた。
最後だから師匠を立ててくれているのだろう。
優しい子たちだ。
「気遣いありがとう」
「で、では! 騎士団に!」
「ははは。実はね、私は騎士一筋だったから、違う世界も見てみたくてね。人間、歳を重ねても好奇心と探究心があれば何でもできるのさ」
「そ、そうですか……。では、もしお困りの際は、何なりとお申しつけください。私たちにできることがあれば、何でもしますから」
「ありがとう、グランツォ。決まったらちゃんと報告するよ」
「はい。お待ちしております」
グランツォと握手を交わした。
そして、サーシャに視線を向ける。
「サーシャ、ありがとう」
「好奇心と探究心ですか……。では先生、私と結婚してください」
残りの三人が、コーヒーカップを落としそうになっていた。
「先生はずっと独身だった。この際、結婚してみてはいかがですか?」
「お、おいおい、老人をからかうのはやめなさい。君ほどの女性だ。相手なんていくらでもいるだろう? いい報告を待っているよ。ははは」
不満げな表情を浮かべるサーシャと握手を交わす。
両手で私の手を握り、なかなか離さないサーシャだった。
続いて、ジルベールの屈強な肩に手を乗せる。
「ジルベール、ありがとう」
「お師匠、剣術道場を開いてはどうですか? 俺の部下を全員通わせますよ」
「ジルベール、それでは騎士団に勤めるのと変わらないだろう?」
「しかし、お師匠の剣はもっと世に広めるべきだ!」
「ありがとう。でもね、それは君たちの役目だよ。もう私を超えているんだ。私の代わりに後進の指導を頼むよ」
釈然としない表情を浮かべるジルベールと握手を交わす。
そんなに力を入れなくてもいいのにと思うほど、私の手を握っていた。
最後の一人、ルディは瞳に涙を浮かべている。
ルディはこの四人の中で最も若い。
「ルディ、ありがとう」
「ルマート様。私の力不足で、最後まで一般騎士として扱ったことをお許しください」
「そんなことはないよ、ルディ。むしろ、一般騎士の私によくしてくれてありがとう。心から感謝しているよ」
「ルマート様……」
「永遠の別れじゃない。私はこの街に住み続けるんだ。だから、たまには一緒に食事でも行こうじゃないか」
「はい!」
涙を流すルディと握手を交わす。
史上最年少で将軍となった天才剣士の手は、小刻みに震えていた。
「ルディ、卑怯よ! 先生! 私も引っ越します!」
「俺も越してくるぞ!」
「ふむ、ならば騎士団本部を移すとしよう。予算を見積もるか」
サーシャ、ジルベール、そしてグランツォが無茶を言い出す。
「あ、あのねえ……」
だが、気持ちは嬉しい。
本当に色々あったが、私がやってきたことに間違いはなかった。
素晴らしい弟子たちに見送られ、私は騎士を引退した。




