神楽の前世と、落ち着いた朝。
「んーっ、よく寝たわ。え、今日は布団から出て寝てたのね…」
あれから2年。長いようで短い旅は一週間前に終わりを迎えた。
私たちは、世界を見て回った。貧困地域も、都のようなきらびやかな町も、闇で覆われている町も、光に照らされた町も。
北のヴェロリルア王国、西のボレアス帝国、南のソレイユ王国。
肌で戦争の息吹を感じることもあったし、魔法で誰かが傷つけられている姿も見た。
悪い使い方を知って、絶対にこうはならないと誓って、私たちは興味のあるものも、これからのことも、未来を感じさせるような旅だった。まあその旅の中で割と爪痕残してきたし、魔術師というだけで悪い噂も後ろを着いてきたけれど。まあ人助けに使ったのだし、噂は気にしないことにしましょう…
そして私たちは出会いの場所であり、私とスイの生まれ育った火影王国の都の近くにある宿で滞在しながら、次の拠点となる場所を探している。
「おはよう、ホノ」
「わ、今日は早いわねぇ。おはよう、アイ」
「今日は布団から出てたのか、まあ布団に入っていただけ良い方だね」
布団から体を起こして目を擦りながら私に朝の挨拶をした彼女はアイ。
旅を始めた時は長かった髪も、今は肩で切り揃えられている。これは長くなって邪魔と彼女が思ったらしくナイフで雑に切っていたところを私が見つけて、彼女の要望通り私が切ったのだ。
何より、初めて会った時は「踊り子には珍しい儚くて大人しい子なのかな」と思っていたけれど、本当は割と大雑把で面倒見がよくて、男の人のような話し方をする。でもそんなところも私は好き。
彼女は旅の途中に魔法薬に興味を持ち、今は私と魔法薬について研究したり開発をしたりしている。
最近は魔力回復や魔法を施した非魔術師でも使える医療品を研究している。
「男たちは起きたかしら」
「どうだか。昨日は遅くまで話し声が聞こえたから寝坊じゃない?」
「そうでしょうね、スイもリツも朝は弱いもの。起こしに行きましょうか」
私は寝間着を脱いで、私は浅葱色の着物を着て黒色の羽織を羽織る。そして癖の強い寝癖と格闘する。
朝に手ぐしだけで外に出られる綺麗なストレートの髪を持つアイが羨ましい。
私は寝相が悪いから、もともとの猫っ毛も相まって朝は髪と格闘する羽目にあるのよね。
今日は寝癖との戦いにギリギリ勝ったので、私とアイは2人揃って部屋を出る。
横の部屋の襖をそろーっと開けると予想通りスイとリツはまだ寝ていた。
私はスイの枕元に正座してスイの肩を揺らす。
「スイ!もう朝よ。起きて!」
「…ん、はよ、ホノ」
私が肩を揺らし続けていると私の馬鹿力もあってすぐ起きるスイ。
これは私が侯爵家にいるときからずっと。
氷冥魔醉月。
彼は旅を初めた頃から何も、変わらない。
でも少しだけ背が伸びたのと、ほんの少しだけ大人びたかもね。
私たちは侯爵邸という箱庭で、綺麗なものと純粋な愛に囲まれて生きていたから世界の汚いものに久しぶりに触れて、かつて冷めきったものが少し燻るところはあったけれど、それによって私たちもまた大人になった。
「じゃあ、私とアイは何か朝食べられるものを買ってくるわ。だから着替えてること。良いわね」
「…わか…った」
まだ寝ぼけている彼らに私たちは踵を返した。




